35.5

ポルポが刑務所に入ったと朝一番に聞いた噂。胡散臭い情報だと思いつつアジトに顔を出せばそれが事実であると判明した。同時に、小さな子供がいないことも。

「イルーゾォてめえ!」
「俺だって悪いと思ってんだよ!でもどんなに探したっていねえんだ!」
「っざけんじゃねェぞクソガキ!」

ブチ切れたギアッチョがイルーゾォの胸ぐらを片手で掴み、顎を砕かんばかりに殴り出す。それを見ていたプロシュートは濃くなった血の匂いを厭うように煙を吐き出していた。熱の入ったギアッチョの体がどんどんしわくちゃになっていく。メローネの肌もまだ皺が増えていき、ゲッと慌てて冷凍庫へ駆け寄った。しかし開けても中に氷はない。すべて卓上の酒の中に入れられているらしかった。

「ギアッチョ、落ち着け。プロシュートもだ」

リゾットが疲れた様子で部屋から出てくる。グレイトフル・デッドが消えた代わりに磨かれた革靴がギアッチョの横腹に食い込み、イルーゾォとまとめて壁に叩きつけられていた。痛そうだなあと思いつつ瓶に残っていた酒を煽ると、革靴が何故かこちらにも向いたので慌てて瓶を置いた。

昨晩のイルーゾォとナマエが行った仕事から、ナマエだけが帰ってきていない。カファロの命日の一件もあり、ギアッチョは顔に似合わず酷く繊細になっているらしかった。現場の近くで爆破事件があったことも苛立ちの要因の一つだろう。確実にペリーコロの仕業だろうと誰しも検討がつく。が、ナマエが巻き込まれたということは考えにくかった。現場の近くとはいえ、わざわざ足を向けないと行かない方向へナマエが行ったとはメローネも思わなかった。ナマエが従来の子供のように好奇心の塊であれば納得するだろうが、あれは最近ようやく人間のようになってきた犬だ。尻尾を振るご主人様がいるわけでもなく、むしろいつまでも駅で待つタイプの躾られた犬であるため己からあちらこちらへ寄ってはマーキングするようなものとは違う。

「んで、ペリーコロに連絡はとったわけ?」
「ああ。帰したと」
「帰ってきてねえだろうが」
「ポルポの元へ行かせたらしい」
「…………それってさあ」

殺されたんじゃないの。ギアッチョの手前飲み込んだそれを、全員が察した。

「〜〜ックソが!」

抑えきれない感情がスタンドとして漏れる。空中の水分が凍っていき、アジトは一瞬にして真冬のような寒さになった。またも革靴が火を噴き、ギアッチョのスタンドをまとった身体が壁に叩きつけられる。垂れた鼻血を一瞥し、プロシュートは「ちったあ落ち着けねえのか」とカーテンの端で革靴の先を拭く。倒れたまま動かないギアッチョをリゾットが抱えてソファに下ろした。目線を合わせるように膝をつき、リゾットが言う。

「ナマエは生きている」

メローネの目が見開かれ、バッとギアッチョが顔を上げる。鏡の中からイルーゾォの深い安堵のため息が聞こえてきた。しかし。

「無事っつーわけじゃあねえようだな」

わかったようにプロシュートが椅子に腰かけ足を組む。リゾットが数度頷き、ギアッチョの肩を抑えるように掴む。しばらく入院が必要らしい、という言葉に、プロシュートが強く舌打ちをした。意外な人物に驚きメローネが彼を見ると、「気に入らねえな」と吐き捨てるように言った。

「おいギアッチョ、覚悟しとけよ。ナマエがどんな状態で戻ってくるかくらい想像がつくだろう」
「…………あぁ」

俯き静かに頷いたギアッチョの表情は前髪で隠され見えないが、リゾットがくしゃりと頭を撫でたことから酷いものだろうと察した。以前、ナマエが熱を出したときからギアッチョはあの子供に酷くご執心で、依存傾向にあるとメローネは思っていたが、予想以上のようだ。
躾直された犬がどうなるかはメローネでさえわかることだ。二週間という入院期間中も、躾の時間なのだろう。可哀想に、メローネはぼんやりとナマエの抜け殻のような姿を想像した。

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