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「アバダケダブラ!」

その魔法に当たった蜘蛛が死んだ。
明らかに死んだ。どう見ても死んだ。

「…………うそでしょ?」
「嘘だと思うか?実際に貴様が受けてみるか?え?」
「やめてください!」

ぎろりと挑発的に向けられた義眼の視線に、ごくりと生唾を飲んだ。ちょうこわいおじさん先生の言葉にハーミーが金切り声を上げる。

「この魔法に反対呪文は存在しない」

防ぐことが出来ない、そうちょうこわいおじさん先生は断定した。あの呪文に当たったら、皆死ぬと、そういったのだ。必ず殺すマジック。やべぇ、ちょうやべぇ魔法じゃねえか。

「だが、ただ唯一生き残った者がいる」

ちょうこわいおじさん先生の言葉に、教室中の視線がハリーに向かった。ハリーはぼうっと黒板を見ている。…………え、マジ?マジのマジで?本気と書いてマジで?めっちゃすごくない?選ばれし勇者、………あれ、そういえば昔なんか英雄みたいなことを聞いたことがある気がする。同級生に英雄はいるわ貴族はいるわ、なんかすごいなあ。
ちょうこわいおじさん先生は、死の呪文は反対魔法がないけど、魔力を多く使うと、少なくとも私たちのようなぺーぺーのちみっこが使おうとしたところで杖がうんともすんとも言わないんだぜと言った。要約すると大体そんな感じ。そして今までのやべぇ魔法3つ、使ったら即アズカバン行きだ、と凄む。しかも終身刑。マグル界より厳しい判定。それだけやべぇ魔法、やべぇ事なのだろう。ところでだな。こそっと顔色の悪いネビルの耳を借りる。

「…あずかばんってなに?」
「刑務所だよ、すごく、怖い魔法使いたちがいるんだ。……とても、恐ろしい人たちなんだ」

ネビルは噛み締めるように言った。今までに見たことないレベルで嶮しく、辛そうな表情をしていた。

授業の最後まで不意打ちの大声で油断大敵をしてくるわ、何度も何度も何度も何度も恐ろしい魔法だ違法だとゴリ押しで言ってきたちょうこわいおじさん先生の授業が終わり廊下に出るなり、みんな揃ってわーわーと授業の感想を言い始めた。その大絶賛は本人に言ってあげなよ。教室の中までだだ聞こえだよ。あとあのおじさんもうちょうこわいおじさんじゃなくて油断大敵おじさんじゃん。すっげえしてきた…言われる度にネビルと揃って驚いたわ…。
流れに乗らずゆっくり羊皮紙を仕舞う。無言のネビルと共に廊下に出るが、ネビルは廊下の途中で立ち止まった。

「ネビル?おーい、ネビ……うむ……?」

声をかけても反応しない。返事がない、まるで屍のようだ。顔を窺うと、ネビルの表情はまるで、すごく恐ろしいものを目の前に逃げ出せずにいるような、なんというか…授業中にも見たような顔をしていた。視線の先は壁。横に並んで一緒に壁を見るが、それはただの石で出来た壁だった。なにか、彼の中で恐ろしいものがあるんだろう。私にもある。それこそ今聞いたばかりの違法魔法なんて怖い以外の何もでもない。特に最後。回避以外の方法がないなんてなんて何度が高いんだ。まあ、そもそも撃たれるようなことないだろうけど。ないことを祈るけど!しかし、死。死か。死の……去年の、私にとってはほんのついこの間の、私の姿を、――――思い出したくない。あれ?なんでだ?どうして死からあれが連想されるのか。おかしいな、なんの関連もないのに、ほんとうにおかしいなあ。調子が悪い。胸の奥に泥がたまったような息苦しさを感じる。

「ーーナマエ?ネビル?」

ハーミーの声に、振り向いた。

「あーーお、面白い授業だったね。あ、僕もうお腹ペコペコだよ、夕飯はなにかな」
「なんだろうねえ、私そろそろラーメン食べたい」
「ラーメン?」
「あなたたち、大丈夫?」

ネビルにラーメンの説明をする前に、ハーミーからの問いが来た。心配そうにこちらを見る顔にへらっと笑いかける。私は何も問題ないぜ。しかしネビルが心配だ。私もネビルを見ると、ネビルは明らかに作った笑みを浮かべ、大丈夫だよ、と返事をした。どう見ても大丈夫ではない。声をかけようとしたとき、後ろから足音がした。大丈夫だぞ、坊主。そう足音の主は言う。ハッ、こ、この声は……。振り向くと、油断大敵おじさんがこちらに歩いてきていた。思わず身構える。

「わしの部屋に来るか?」
「行っちゃだめだよネビル、やばいやつだよ」
「聞こえているぞ!」
「ひぎゃあ」

油断大敵おじさんの言葉にこそっと隣のネビルに言うと、大きな声で威嚇された。すげえ怖い。思わずネビルの後ろに隠れる。超ちっちゃい声で言ったのになんで聞こえてんの地獄耳かよ。目もよくて耳もいいとかなんだよ。身体能力の代わりに見た目を失ったのかあの人は。目は多分あのぎょろぎょろする義眼のせいだろうけど。

「お前は大丈夫だな?」
「はい」
「ならばお前も来るか?ミョウジーーーー知らねばならん、惨いやもしれん。しかし知らねばならんことだ、知らんふりをしてどうなるものでもない」

ハリーは堂々と大丈夫だと胸を張った。つまり、きっと、ネビルも過去にハリーと同じレベルの苦労があったのだ。しかし、私はそれどころではなかった。油断大敵おじさんの言葉に、胸の奥の泥が底なしのように深く、重くなった。”知らんふりをして、どうなるものでもない。”
ああ、うるさい。耳の奥がチクチクと、皮から針が生えてきたように痛んだ。

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