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DADAが憂鬱だ。DADAだけじゃない、他の授業も憂鬱だけど、DADAは群を抜いて憂鬱だ。油断大敵おじさんのあの目が気に食わない。あの声が、耳の奥が痛くなる。お腹の中はもやもやむかむかと調子が悪いし、イライラして頭があまりよく回らない。それら全てを直結させるのは無理矢理なのはわかってる、わかってるけど、八つ当たりさせて欲しい。あと全ての授業において宿題出しすぎ。つらみ。魔法薬学怖すぎ。スネイプ先生やばすぎ。

朝から何度もため息をつき、アリアには「あなたいい加減にしてちょうだい、ため息なら外でついて」とタバコと同類にされてしまった。煙たがられてしまった。階段を降りながら、無意識にまたため息を吐いてしまう。いつもよりものったりと歩いていたのかもしれない、階段が動き出して大慌てでジャンプして下に着地した。セーフ!10点!10点!10点!見事満点です!

「はしたない女だな」

………なんやて?着地したポーズのまま横を向くと、今日もサラサラブロンドのマルフォイくんがいた。どこのトリートメント使ってんの?今日もつやつやだね。なおこれは口に出せないので心の中で言うだけである。
マルフォイくんはどうやら1人だった。私も1人なんですけどね、でも私が1人なのはあまり珍しくないっていうか、マルフォイくんが1人なのはめちゃくちゃ珍しい。いつも腰巾着何人かいたはず。少なくとも2人はいたと思う。

「1人?」
「うるさい」
「うわご機嫌ななめ」

ムッとした顔で噛みつかれて苦笑した。体勢を立て直してぽりぽりと頬をかく。えーと、何か用……ってことは無さそうだな。じゃっ!と私はぺこぺこなお腹を満タンにしに大広間へ行こうと踵を翻す。しかしマルフォイくんから「待て!」と。

「お、おう。どうしたの」
「お前、…………DADAはもう受けたのか」
「うん」

思わず微妙な、こう、歯の奥にヌガーがくっついたような顔になってしまう。げんなりテンションのときにその話重ねるう…?運がないわ今日。マルフォイくんはもごもごと何か言いにくそうにしている。

「……どう思った」
「おん?」
「ムーディの授業だ!死の呪文をやったんだろう」
「ああ……」

私は頷いた。そしてマルフォイくんは「そうか…」と言ったまま、沈黙してしまった。石かな?っていうか軽率に思い出させんなよな…。倫理的にどうなんだっていう授業風景と共に、個人的に嫌な言葉も思い出して胸の中がピリついた。最近どうも気分が落ち込み気味なのもイラつきやすいのも全部冬のせい、じゃなかったDADAのせいだよ。用それだけならもう行きたいなー、なんて……あっ重要なこと。

「あ!あ──あのさ、マルフォイくん」
「……なんだ」
「この前、殴っちゃってごめんね。まだちゃんと謝ってなかったと思って……怪我もう大丈夫?」

怪我は私が殴ったのよりも油断大敵おじさんにやられたやつのほうが酷そうだったけども。マダムポンフリーの治療とスネイプ先生の薬はマジで速攻青汁レベルだしさ!と聞いておきながら思っていたが、雲行きが怪しい。沈黙しっぱなしのマルフォイくんを見るとそうでもないのか…?もしかすると身体面よりも心の傷ってやつかもしれない。ちゃんと考えるとマルフォイくんも14歳くらいの子供なわけだし、私は喧嘩を売られたとはいえ一方的な暴行を与えたことに…ひいいと青ざめた顔を抑えて、マルフォイくんの傍に寄ろうとして、いや加害者が近くによるのはダメなんじゃ…!?と思いとどまる。傍から見たら私が一人でかくかく動いているように見えているはず。いやそんなことはどうでもよい。マ、マルフォイくん…?ぼんやりした様子の彼にそっと声をかける。と、彼は目線をちらほらさまよわせた後、しっかりと私を見た。

「………すぐに手が出るなど人間のやることじゃない。やはりお前はモンキーで十分だ!しかし謝ることが出来たのは褒めてやろう」

さっきまで沈黙してシリアスな雰囲気だったとは思えない元気な嫌味声を披露してくれた。あーうんおっけー!褒められたやったー!絶対他に何か考えていることがあるだろうが、察した私は何も突っ込まないことにした。なるほどそういうことで。おっけー。へらり笑いをして、立ち去ろうと踵を翻す。が、「おい」と話しかけられクルッと一回転しただけだった。見事なターン決めちゃった。

「僕の質問に答えていないだろう」
「おん?」
「し、死の呪文だ。お前はあれを見て、どう思った?」
「どうって……むちゃ怖いなって思った。当たったら死ぬんでしょ?やばやば」
「なっ、なんだその軽さは!もっと真面目に考えろ!」
「真面目に、ねえ……。んー、当たったら、死ぬなあって……真面目に考えてコレなんだよ睨まないで。感想って難しいってば、私だって虫は殺したことあるから蜘蛛が可哀想とかは特に思わないし、普通の人間だって殺すのは実際のところ簡単だから死に対してはそう思うところはないけど、あー、そうだな……当たったら即死なんてものがある魔法界は軽率に殺人が行える世界なんだなー、とか」

思ったりして……。ごにょごにょ。後半につれて私の声が小さくなるのは当然のことといえよう。目線もだんだん下に向いていく。死の呪文って緑の光線だったな、確か。癒しカラーとされる緑色が命を奪う色とは文化の違いってやつか?そういえばスリザリンも緑だもんな……。別にどうということはないけど、たかが色だし。

「……こんなこと聞きたかったの?私のじゃ参考にならなくない?」

モンキーモンキーって言ってるくせに難しいこと聞いてくるのう。手持ち無沙汰に鞄を抱きしめ、少し口をとがらせた。また馬鹿らしい感想だとか言ってくるんだろ知ってますー。君の嫌味にもちょっとは慣れてき……たと思っていたが沈黙が広がる。あれ?心の中で構えていたのにジャブが飛んでこない。おかしいな、と彼を見ると、彼は色白な顔を青くして唇を震わせていた。えっなに。マルフォイくんめっちゃ調子悪いじゃん何があったんだ?

「ちょちょっ、どうした!?」
「お、まえ……どうして、」
「えっなに?なんて?」
「意味がわからない!」
「こっちの台詞な?」

その後もマルフォイくんは「ふざけるな!」だの「父上、僕はどうすれば」だの「僕は、僕はそんなこと……!」だのと支離滅裂なことを頭抱えてわーわー言った後にシュターッとどこかへ走り去って行ってしまった。いやなんなん。どうしたん。反抗期か?反抗期ってこういうやつだったっけ?思春期男子難しいな。

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