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「オォー、お前さん、これをリーマスのところまで持っていっとくれ!」
「は?え?私?」
「ほれ」
「えぇー…うわおっも」

確か今年から教員にメンバー入りしたというハリーの友達の髭もじゃさんに話しかけられたと思ったら、何やら問答無用でクソ重い木箱を渡された。木箱て。ダン箱ならもう少し軽かったものを……。だが持っている箱がグラングラン揺れて中からキィークエクエ!クエェー!と気が狂ったような鳴き声が聞こえてきて考え直した。木箱じゃ軽い、もっと重厚な箱に入れてきて。確信を持った。この箱は迅速に運ばないと私の身が危険。揺れ方が尋常じゃないもん、グラングランだもん、しかも中身魔法生物だろ?アウト。

「お前さん、ナマエだろ?」
「お、おう」
「ハリーから話は聞いちょる!…来年はハリーにもプレゼント渡してやってくれ、あんなに落ち込んどるハリーは見たことねえ」
「あっスンマセンでしたいてえ」

多分トントンしてる感覚で背中をバンバれる。箱も揺れる。加減してくれ髭もじゃさん、体格差を考えてくれ。外国人が大きいのは知ってるけど、首が痛くなるくらい見上げなきゃいけないって、でかすぎじゃね?靴とかアメリカンでもサイズなくね?生活に支障をきたすレベルじゃんやべーな。あとハリーの件はすまんかった。ハリーにめっちゃバンバンされたけどな。

「それに、ダンブルドア先生からも聞いちょる。その……災難だったな。バアさんに続いて親まで……」
「えっなんの話すか」
「シリウスのことは気にするこたねえ!あんな奴すーぐに捕まるさ、闇祓いっちゅーのは優秀なエリート様の集団なんだ。……アー、シリウスの野郎も、闇祓いだったがな……でもすーぐ捕まっちまうさ!」
「説得力皆無かよ。あと多分シリブラについては私よりハリーの方が気にしてますよね」
「だから、その、アー、お前さんはあまり魔法もうまくないらしいからな、あんまり変なことはしない方がいい。あっちゅー間に捕まるからな、大人しくしてねえと、お前さんみたいなのは……きっとすぐ、死んじまう」
「いや死なねえよ!?」

思わず箱を落としかけた。な、なんちゅーことを言うんだこの髭もじゃは。縁起でもない。それはあれか、私に動くなと、いやもういい加減部屋か教室か大広間かくらいに行動範囲を狭めろと、いい加減生徒が校内うろちょろすんの面倒なんだよ、的な?そんな感じの遠まわしな圧力か?パワハラか?え?そういうのいくないとおもいます。究極人権の侵害だよね。いくないですよあんた仮にも教師なんだか……ハァーーッ!もしかしてホグワーツってブラック!?なんてことに気づいてしまったんだ……お口チャック。素早い掌返し。ラスボスじいちゃんは勝てんわ……。

「おお、気をつけちょくれ、そいつは地面に放り出したらいなくなっちまう。足をごっそり持ってかれるぞ」
「そんな危険なやつなんで私に預けちゃうんだよォーーーッ!!」

箱を落としかけて全力で踏ん張った。結構揺れたのが気に食わなかったのであろう中身(不明)がグエーーッ!と騒ぎ出した。これだけで足ガックガクなんすけどこれは強い恐怖。私次吸魂鬼と退治することあったら高確率でこの箱出てくるわ間違いないわ。



クエーッ!グエーッ!ヒエーッ!(悲鳴)とガクガクの足でものすごくゆっくり歩きながらルーピン教授のお部屋に向かう。リーマス・ルーピンって言うらしいですよ。初ファーストネームじゃね?おめでとうルーピン教授。
THE現実逃避をしながら階段に置いていかれ曲がる角を間違え超頑張ってついたDADAの教室のドアを足でノックすると、スッと中からスマートにルーピン教授が出てきた。今日もボロボロな上着来てるけどそろそろそれ捨てて良くない?そんなに気に入ってるの?ブランド?

「私ボロボロのブランド物より新品のユニシロの方がいいと思いますよ」
「開口一番何を言うのかな君は……」

呆れられてしまった。別にブランド物じゃないよ、と否定されここに置いてくれと床を指示される。ブランド物じゃないならなおさら捨てようよ。

「あとこれ地面に置くと足食われるって言われたんすけど……」
「ちゃんと捕まえているから大丈夫だよ」
「…………じゃあ、置き、ます」
「そんな勢いよく離れなくても襲ったりしないよ。あとね、買い換えるお金が無いからとってあるんだ。僕は貧乏だからね」

「ホグワーツの給料って実はカッスカスなの……?」

ブラックじゃん…こわ……きっと有給もチャレンジ制なんだ……。何かあれば魔法ですぐ消せちゃいそうだもんな。ダンブルドアのじいちゃんのワンマン経営なのかホグワーツ。だから床暖も無いんだろ。世の中ってつらいね。

「いや、ホグワーツはとてもいい環境だよ。ただ、僕はそう簡単に仕事が出来るわけじゃないから…色々あるんだよ、大人にはね」
「なるほど、そうか……ならそこのソファで屍が如くなハリーくんも大人の事情で?」
「あれはハリーの事情。ああ、ナマエ、ハリーを連れて帰ってくれるかい?今の状態で1人で返すのも危なさそうだからね」
「はーい」

ソファでぐったりとしているハリーの隣に座る。目の前で手を振っても変顔をしても無反応、目はどこかをじっと見つめている。もしかしてそこに何かいるのではレベルで見ている。おっかしいな、ゴーストってin魔法界なら見えてるはずなんだけどな……ただしグロ注意。
5分くらい動かないか観察したが、マジで屍のようで本当にこれは大丈夫なやつか?と5回くらいルーピン教授に確認した。曰く疲れすぎたらしい。嵐の中でも空飛ぶ少年がここまで疲れることってなんだよ……と勘ぐったらあっさり魔力が足りないんだと思うよと言われた。魔法の補習をしていたんだとか。少女漫画なら確実に違うだろうが、なにせ2億騙し取られてるルーピン教授だしそれはない。ま、明日もこの様子だったらホグワーツのナイチンゲールことマダムのところへ駆け込めばいいだろう。魔法マジ万能だからな、なんとかなるはず。
ハリーにローブを巻き付け、よいしょっと私よりも背の高い身体を背負う。鞄は妖精さんが部屋に配達してくれるらしい。マジ万能。んじゃ失礼しまーす、とDADAの教室から出て少し、結構重くて何度もずり落ちるハリーを背負い直しながら、階段に置いていかれ信号待ちならぬ階段待ちのときに背中がもぞっと動き、首が〆られた。

「ぐえっ!?」
「…………なんで僕、できないのかなあ…」
「あ゛!?」
「僕、僕……」
「ちょっまっ閉まってる閉まっでる゛ゥ」

実はやべえ友情だったのかと思ったわ。あやうく殺人事件。ダチを殺人者にしちまうところだったぜやれやれ。緩んだ手にふう、と息を整え、ずり落ちるハリーを背負い直しやっと来た階段を上がる。

「ふー……で、何、どうしたんだい仔羊よ」
「べつに、なんでもないよ」
「さっきまでのフリでそれは無理くない?明らかに何かあったね?」
「……ただ、僕は、悔しいんだよ。できない、どうしても幸せがわからない」
「うぅん……哲学はわたしもむりぃ……」

早々にギブアップ。使えないモンキーでごめんよ、ちょっと私には荷が重いわ…。私の答えにハリーはため息をつき、それからただ黙っていた。
………あの、大丈夫なら歩いてほしいなあ……?しかし私はスキル:空気を読むを発動し、寮につくまで16回ほどハリーを背負い直したのだった。

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