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「……ついに友達いなくなったの?」
「いや、いる!いるよ!やめてその可哀想なものを見る目!」

言葉も目も辛辣なアリアに苦笑して荷物をまとめる。仕方ないじゃあないか、ハリーは練習、ハーミーは猛勉強、ロンが自主的に図書館に来るわけもない。大体そこまで一緒に行動してたわけでもないし、私が1人ぼっちで図書館にいたとしてもなんの違和感もない。というのにこの子ったら!辛辣!泣いちゃう!

「そう、それは良かったわね。あまり騒がないでちょうだい、うるさい」
「そりゃ失礼しましたよっと」
「…………行くの?」
「もうレポートは終わったし、アリアの邪魔しちゃ悪いからね」
「そうね、じゃあね」
「あっさりすぎんだろ」

あさりもびっくりだぜ。……ごめん、聞かなかったことにしてくれ。
今日はくるんと綺麗に丸められたレポートを鞄につっこみ図書館を出る。気温は徐々に上がってきているとはいえ城のつめたーい石だらけの中でさほど効果はない。つまりまだまだ寒いわけだ。ふいー、と室内でマフラーに鼻先を埋めて寮を目指す途中、階段横の窓から庭が見えた。へえ、こんなところにあったんだ。
丁度黒い犬が窓の近くを通り森に入っていく。しかし、少し森に入ったところで犬はスッと立った。なにやら汚ったない黒髪の後ろ姿が見える。

「…………は?」

すごく、すごく変なものを見てしまった気がする。目を擦り再度見ると、ちゃんと犬がいた。

「……はは、だよね、そうそう、そうだよね、…………疲れてんのかな」

今日は早く寝よう。すごく早く寝よう。それがいいや。
犬はそのまま森の奥へ入っていった。



結局あの犬のせいで階段の途中で移動待ちをすることになり、寮に帰る時間が遅くなってしまった。やっと寮の前についたとき、扉の前でネビルが泣いていた。正面にはマダムの代わりに派遣されたカドガン卿がいる。えっいじめ?絵画の人間いじめ?

「ナマエ、どうしよう、合言葉がわからないんだ……」
「ん?えーと……フリバティジベッド?」
「それは以前のものだ!開けることは出来ん!」
「えぇ……他なんかあったっけ……あっスカービーカー」
「ぼ、僕もさっきそれを言ったけどダメだった……」

……やべえ、私ももう覚えてねえぞぉ。ネビルと顔を合わせて苦笑する。大体カドガン卿変えすぎなんだよ合言葉をよォ。もっとわかりにくいのに統一すればいい、っていうか合言葉なんていくらでも盗めるんだからいらないだろうってとこあるよね。ホグワーツセキュリティのガバガバ具合が酷い。まあ、入れないなら仕方が無い。
ネビルの「何をするの…?」という不安そうな声をバックに、カドガン卿の絵画の縁をバンバン全力で叩く。縁なら平気っしょ。

「誰かあああ!いるだろ!誰か開けてーー!」
「なっ、何をっ、」
「誰かーー!開けてーー!」
「フォルチュナ・マジョール、たなぼた!」

ガチャン。後ろからの声にカドガン卿が即座にドアを開ける。やっとか、って感じの早さだった。多分あいつあとで先生の誰かに文句言いに行くな。こっちも言い返してやろう、と心に決め、無様にどたんと勢いのまま顔からつっこんでしまい痛む鼻やおでこを触りながら起き上がる。後ろを振り返り、ネビルに親指を立てて「開いたぜ!」と笑った。

「な、何が開いただよ、俺らめっちゃビビったんだぞ!」
「うわあっ、ごめ、ごめんて!」

顔を真っ赤にさせたシェーマスを筆頭に中にいた知り合いにめっちゃ怒られてしまった。ついでにカドガン卿からの文句で減点もされた。開けてくれたらしいハリーからは「……ナマエ、次からは大人しく待っててね、それか先生のところに行ってね」と疲れた顔で笑われ、ネビルは「あ、開いてよかったね」と良心的な言葉をもらったがその頬は引きつっていた。どうしよう明日からYBMって呼ばれたら。野蛮なモンキー。ご、ごめんて……。

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