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「ああああぎゃあああ危ない!ぶつかる!ぶつかるってえええ!」
「うるせえぞナマエ!」
「ゴー!ゴー!グリフィンドール!」
何がグリフィンドールだよバアアアカ!
客席にぶつかりそうになった選手の誰かに悲鳴をあげれば隣から文句がくるわビシバシと応援の旗が頬に刺さるわ、今日も今日とて散々だ。
グリフィンドォォォオオオル!!というアツい実況の声と四方八方から聞こえてくる雄叫びに、ああ……勝ったのか……と理解した。いや一応叫びながらも見てはいるのよ、見ては。ただ私の目には誰が誰だかとかどんな状況だとかがわからないだけで。オペラグラスでも持ってきて。
しかし今年最後の試合、無事にグリフィンドールが勝利したらしい。つまり優勝はグリフィンドール。お祭り騒ぎがヒートアップだ。談話室はぎゃいぎゃいと騒がしく、テーブルの上にはずらりとお菓子とドリンクが並んでいる。
優勝パーティーくらいはいなさいよ、とラベンダーに言われ大人しくおせんべいが欲しいなあと思いながらチョコレートをつまんでいると、後ろからバチバチと音が聞こえた。何して、ん?なんか臭い気が……
「ぎゃああああやめっあぶねえええ!」
「君最高に楽しんでるね」
「どこ見たらそうなんの!?」
どこぞの誰か(多分どっかの双子)が談話室でぶっぱなしたらしい花火を避けて少し焦げた髪先を撫でる。焦げた!焦げたんだぞ!なんで屋内で花火すんの!?しかもミサイル並みに飛んでるんですけど!?は!?
「もう、うるさいわね、いいじゃないそんなことくらい」
「ちょ、ハーミーさん?ハイになってない?大丈夫?お酒飲んでないよね?何いってんの??」
「私だって嬉しいもの」
この前占い学をぶん投げた英雄ハーミーは清々しいという顔でどこからか調達されてきたバタービールを飲んだ。残念ながらそのとき私はハリーたちが置いて行ってくれたせいで北塔ではなく南塔をうろちょろし大幅に遅刻したため見ていない。ぶっちゃけやっとついたと思ったらハーミーはいないし先生の予言は当たったがどうのこうのと騒いでてびっくりしたよね。
「わ、ナマエどうしたのその頭、大丈夫?」
「ナマエの頭が残念なのは前からだよ」
「ハリーポッターそれどういう意味?」
ネビルがあわあわと私の頭(見た目の方)を心配してくれたというのにハリーは……!いつからそんなに辛辣になったんだ!しかし主役だから許してやろう!そのまま私は流れるような動作でハリーにヘッドロックをかました。
「ちょっ、いた、いたいって、」
「ふははは!優勝おめでとうハリー!」
「ごめんごめん!」
そんなあまっちょろい謝りで許されると思うなよ、と言いたいところだが許されてしまう日だ。ついでに許しちゃうような子だ。痛いと全く痛くなさそうに笑うハリーに笑い返し、バタービールで乾杯を交わす。
…………前に飲んだときと味が違う気がするんだけど、どういうことかね?魔法界味覚大丈夫?
「ハァイハーマイオニー、ナマエ」
「やっほいアンジー」
「今日は機嫌が良さそうね」
「あなたもね」
グリフィンドールを代表するえらいべっぴんさんことアンジーがハーマイオニーと声を揃えて「優勝おめでとう」とお互いに乾杯した。な、なんつうおしゃれな光景。私もこんなかっこいい青春を送りたかったでござる、と過去を思い出しながらチョコレートをつまむ。
「ナマエも、優勝おめでとう。あなたの叫び声聞こえていたわよ」
「えっマジで!?」
黒人ならではの色気具合にドギマギしているとまさかのセリフに立ち上がってしまった。な、なんてこった、私の叫びが…。アンジーは女性ながらにあの危険スポーツをこなすパワフル女子だ。チョウとは違って、なんだっけ…チェ、チェイス?みたいな名前のポジションで、ゴールを決めるかっちょいい姉御らしい。双子曰く怒らせてはいけないそうで、いつかのハロウィンでウィーズリーボーイズを叱り飛ばしてくれたのも彼女だった。あれ以来ちょくちょく話してくれるお姉さまである。
「……もしかして今までのもめっちゃ聞こえてた?」
「めっちゃ聞こえてたわ」
「ナマエの叫び声はすがすがしいよな!」
「お前の叫び声が聞こえるとまだいけるって思うんだ」
「人の叫び声でやる気が出るウィーズリーこわ…二度と行かない…」
横から優勝のビール掛けよろしくバタービールにまみれた双子が飛び込んできた。あのひどい歓声の中私の叫び声が聞こえるって、私どれだけ声出してるんだろう。お耳汚しもいいところだ、とはいえあんなの反射的に出てしまう。むしろどうしてみんな楽しめるのか。魔法界一生の謎である、迷宮入り決定。名探偵のまたのお越しをお待ちしております。
中にヌガー(普通のやつ!)が入ったチョコをつまんでいると、横からにゅっと手が伸びてきた。
「おいしい?」
「あらハリー」
「よっ主役!」
「我らがヒーロー!」
「おいしいよ」
やんややんやと声をかけられ、それらにすべて挨拶を交わすバタービール濡れのスーパースターハリーくんにほいよ、とチョコをわたす。
べしょべしょに濡れて髪が顔に張り付くのを面倒そうに振り払うハリーに、ハーミーが乾かし魔法をかけた。しかしすぐに双子の片方がバタービールをかける。案の定ハーミーがぷんすかしてしまった。えげつねえ…怒った魔女えげつねえ……。下半身が固まった双子の片方に、もう片方が装飾をつけていく。季節外れのクリスマス…。イイネ!SNS映えしそうな出来だ。魔法界でスマホが使えたら世界No.1間違いなしだな。そんなバズりそうな光景を横目に、ハリーにさりげなく叫び声のことを聞いてみた。ハリーはニッコリキュートスマイルをした。
「次もちゃんと見に来てね」
「あっそういう…はい……」
これは行かなかったらすぐバレるやつだ。今後の危険スポーツ継続鑑賞が決まった瞬間であった───。くっ、さらば心の安穏。