56

冬の休暇前の最後のホグズミードだと、朝から掲示板の前であれを買うこれを買うここの店に行きたいと話し込む生徒達を横目に白い息を吐く。行けない身には関係ないお話でござんす。しゅん、と隣で寂しそうに肩を落としたハリーに少し気まずくなった。

「でも、昼間はナマエと2人きりになるんだね」
「この前もそうだったじゃん」
「この前はルーピン先生がいたよ」
「今回も行けばいると思うよ」
「先生のところ行く?」
「行かない」

寒い、と即答して黄色と赤の派手カラーのマフラーに鼻先を埋める。何度も言ってるが暖房機能をいれてくれホグワーツ。
だと思った、とくすくす笑うハリーはするりと私の手を繋ぎ、「だから2人きりでしょ?」とあざとくこてんと首をかしげた。おい待てどこで身につけたんだそれ。ショタコンシリブラが来てしまうレベルで可愛かった。私はショタコンではないゾ!

そうして迎えたハリー曰く2人きりの休日、私は朝の寒さに耐えられず寮で見送り暖炉の前でぬくぬくと大きなソファを一人占めして寝ていた。ビバ休暇。これぞ休暇。こたつが欲しいところだが暖炉もいいものである。バターたっぷりのクッキーをサクサクと食べながらこのままゴロゴロと寝て過ごそうとした。矢先だ。

「ナマエ!おきて!準備して!」
「おぐふっ……なんだいハリーくん……重いぞ少年……」

大変興奮した様子のハリーが私のお腹の上に乗り私をM7くらいで大きく揺すった。やめろやめろ胃が揺れる。バタークッキーが出る。

「ホグズミードに行けるんだ!」

ホワイ?いや、君許可証云々が、といいかけたがあまりの揺さぶり具合に私は思考を放棄した。

「そう、よかったね、いってらっしゃい気をつけて。暗くなる前に帰っておいで」
「ナマエも行くの!」
「行かない……」
「ナマエ!」
「やだ……さむい……」
「いーくーのー!」

ごろんびたんっべりっ。ソファから落とされ、床暖かと思うレベルで暖かい絨毯からも剥がされる。何この子強引。仕方なく起き上がってあぐらをかくと、ハリーは目の前にすとんと座り「ナマエと行きたい。ダメ?」とこの前と同じようにこてんと首をかしげた。くっ、かわいい。座った時点であざといぞこやつ。でもねえ、行きたいのはわかったけれどもだね。

「私お金ないもの、雪兎くらいしか作れないから」
「僕と一緒でいいから」
「ハリーに奢られるのはちょっとね」
「じゃあ僕からのクリスマスプレゼント!それで、ホグズミードに一緒に行くのはナマエから僕へのプレゼントね、決まり」
「紳士なんだか強引なんだか」

でもプレゼントのくだりはなかなかグッときたので将来が恐ろしいボーイである。私はハリーに急かされてのろのろと準備をした。全身ホッカイロ魔法とか無いのか魔法界よ。


ハリーに困惑されるくらい結構な厚着をし、連れられたのは4階の廊下だった。魔女の像にハリーが何かをして何かを言うと、像に穴が開く。…………ワッツ?

「これやばくない?備品壊して減点じゃない?」
「こういうものなんだと思う。行こう」

ハリーに手を引かれ穴の中を進む。普通に寒い。しかもなんか坂だし。危ない。しかしどうやら道に続いているようで、トンネルは石畳に変わった。扉があり、そこを開けるとどこかの倉庫に出る。ホグワーツ忍者屋敷かよ、と思ったがそういや城だここ。お城は大体こういう仕掛けあるよね。
倉庫の外はお店らしく、甘い匂いと人の騒がしい声や物音がした。

「お菓子屋さん?どうなってんの?」
「ハニーデュークスだ。すごい……」

人が主にホグワーツ生で満杯の店内をきらきらとした目で見回し、ハリーは店内へ紛れようと出ていく。手を繋いでいるため自動的に私も出ていくことになる。前髪で目元をささっと隠して誰かわからない程度にし、ハリーにフードを不自然にならない程度にかける。とはいえ私はホグワーツに珍しい東洋人黄色人種だしハリーはフード、うん、バレるわな。いきなりハーミーにバレましたとも。ちょっとハーミーたちとモメていましたとも。でもハリーの真摯なお願いにハーミーも折れ、一緒に行動することに。ロンと嬉しそうにしていた。え?私?帰ろうとしてハリーにがっちり手を繋がれました。繋ぐレベルじゃないね、拘束だね。握力強くなったねハリー!
ハーミーたちに連れられ色々な店を回る。魔法界の村らしいホグズミード、まさにファンタジーだった。ファンタジーとしか言いようがないくらいファンタジー、つまりファンタジーだった。残念な語彙力。とりあえずマグルの感覚からしたら楽しいテーマパークってところだ。住みたくはない。ハイペースな若者3人についていけません。疲れた。

「私もう疲れたから先帰ってい」
「ダメ!」
「えーもういいじゃん疲れた」
「ダーメー!」
「まあ丁度いいんじゃないか?三本の箒に行こう」

ロンの提案にハーミーもそれがいいわね、と同意する。どこそれ、と聞くと、パブらしい。パブゥ……? 君たちまだ13歳ではないか。正直私はお子様が食事目的でも飲み屋に入るのはどうかと思う派です。
えー?と私がぐずぐずしながらも向かったパブは、まあパブだった。アルコールの匂いはじゃんじゃんするわ、店内に色々な人々がおり騒がしく、ぶっちゃけ日本人からしたらごちゃごちゃしてきったねえお店。おっさんら昼間っから飲んでんなよ、今日クリスマ、あっ……(察し)どこの世界も独り身のイベントは辛いね!

「はいバタービールお待ち」
「飲めよハリー、温まるぜ」
「ビール!?待て待て英国の制限って確か16歳だか18歳だぞダメでしょ」
「大丈夫よ、アルコールは入っていないの」

私も最初はびっくりしたもの、とハーミーが楽しそうに笑う。ビールなのにアルコールなし?子供ビールみたいなもん?そのあたり厳しいハーミーが言うのなら大丈夫なんだろう。乾杯をしてごくりと音を立てて飲む。

「あっま!あったか!」
「美味しいでしょう?」
「…………なんとも言えない」

喉にまとわりつく甘さと鼻に抜ける濃厚な匂い。美味しい、と言われると美味しいんだけど、ちょっと甘すぎやしませんか。カロリー爆高の味がするよ。しかしさすが魔法界のもので、喉元から胃の中からじんわりと体全体が温まる。……あれ、待ってこれ本当にアルコール入ってないの?魔法界にとってのアルコールはまた違うとかそういうオチが無いことを祈る。
美味しい、と笑うハリーに微笑みながらも胃にカロリー爆高ビールを落としていくと、唐突にハーミーがハリーの肩をがしりと掴んだ。ロンが何を、と声を上げようとして何かに気づく。連られて店の入口を見ると、まさかの先生たちが入ってくるのが見えた。あっやっべ。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -