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いくら罰則をこなしてきた不名誉な私でもこんなの明日までかかるだろと思っていたけど、予想外に夕食に間に合うくらいの早さで終わってしまい自分でもびっくりだ。罰則に慣れすぎてもはやこの手際はプロでは?嫌なプロだな。しかし早く終わっても疲労は溜まる、ゴシゴシ洗った後ガリガリ削った手は疲労困憊でクッタクタ。手首をぶらぶらとさせて少しでも力をぬこうとしながら大広間を目指す、と。曲がり角で、チョウと会った。

「あ」
「ナマエ。……あなた、よく平気ね」
「エッ」

チョウはそれだけ言うと何事も無かったかのように去っていく。その背中をぽかんと見送った。……な、なにが?平気?なんだったんだ今の。今日はわかんないことだらけだな……。ため息を吐いて歩みを再開しようとすると、後ろから「ナマエ!」と呼ばれ振り返る。

「お、ロン。……うっわドロッドロ」
「うるさいな、仕方ないだろ。ハリーとハーマイオニーは?」
「大広間じゃね?私さっきまで罰則、ほれ」
「うわっ鉄くさい!近づけるなよ!」
「わはは」

赤くなった手のひらを顔に近づけてやると、ロンは鼻の頭にクシャッと皺を寄せて嫌がった。泥んこに言われたかねえやい。しかし練習は相当ハードだったのか嫌なことがあったのか、ロンはぶすっとした顔でドスドス歩いて全身で不機嫌を表していた。ここまでわかりやすい人間もそうそういない、逆に面白いぞ。

「ちなみになんだけどロン、縮み薬の材料は?」
「急になんだよ。縮み薬…?エート、萎びイチジクと、芋虫、雛菊の根、ネズミの……膵臓?と、ヒルの汁、だったか?ハーマイオニーに聞けよ」
「私より当たってそう」

大広間に入ればいい匂いが空腹を刺激する。はあーお腹すいた。ロンの後ろについてハリーとハーミーの向かいの席に行けば、丁度話をしているところだった。

「──やり方で試そうとしたのよ」
「チョウは、そういうことをやってたわけ?」

ハーミーとハリーが並ぶ向かいに座り、ロンが片っ端から引き寄せる大皿を横からちょいちょいもらう。主にチキンとマッシュポテト。疲れには肉でしょ!と頬張ると五臓六腑に染み渡る味がした。

「最高に美味しい」
「これもあげるよ」
「ロンくんピクルス食べれないのぉ〜?え〜?」
「それなら、僕にナマエとチョウのどっちが好きか聞けばいいじゃないか」
「ッんぐ、……」

これ私聞いていいやつか?自分の名前出てくると気まずいんだけど。煽りも無視され皿に盛られたピクルスを咀嚼しながらちらっと向かいを見ると、ハリーはムッとし顔で私を見てから私のお皿にキドニーパイを置いてくれた。あ、ありがと……どういう気持ち…?特に発言を求められてる訳では無いらしい。ここで席を立つのもなんか変か?何より食べ途中だし……おいしい、し……。

「女の子はだいたい、そんな物の聞き方はしないものよ」
「でも、そうすべきだ!そうすりゃ、僕、」

ピクルスがやけに酸っぱい。口の中を誤魔化すように、もらったキドニーパイを頬張る。

「……とにかく!セドリックのことをまた持ち出して、大騒ぎしたりする必要無かったんだ!」

投げやりのように声が大きくなったハリーをちら、と見ると、一瞬目が合ったがハリーはすぐに俯いた。ぐ、ぐう……。今私が何か言っても空気悪いだろうし、っていうか何言えばいいかもわかんないし、やりにくいな。
ハーマイオニーがフォローするのを聞きながら、どうしたものかと軽く息を吐いた。口の周りを拭いて炭酸水を飲んでからもぐもぐと黙って食べる私の隣に、これまた泥んこのジニーちゃんが座る。昨日の元気はどこへやら、ヘトヘトの様子で肉にかぶりついている。

「クィディッチの練習はどうだった?」
「悪夢だったさ」
「アンジェリーナは泣きそうだったわ」

そりゃそうとうやべーな。頷く私の脇腹に、ジニーちゃんの肘がゴッと刺さった。イダッ!



気まずい夕食の後、寮に戻るとロンとジニーは泥んこを落としにシャワーを浴びるという。私も部屋に戻ろうかな、としらっと階段を上がろうとすると、ジニーちゃんが数段上から振り返って「ナマエは来ちゃダメ」と言う。えっ。なんでよ、と返す前に、後ろから「天文学」と聞こえた。ギクッ。ギギギと音がつきそうな固さで振り返ると、ハリーは少し不機嫌そうにしながらも私を見ていた。なんじゃその顔。

「ナマエもまだやってないよね?」
「……うん」
「じゃあそこ座って」
「え」
「嫌?」
「……いや、ではない、けども」
「……そう。紅茶いれるね」
「あっやる方向なんだ」

ハリーポッターどんなつもりなの?ねえ??流石に面食らって唖然としている間にもハリーはカップに紅茶を注ぎ3人分をテーブルに置いてから星図を広げている。すでに課題の本を開いていたハーミーは肩を竦めて私に席へ座れと顎で促す。そっと座り私も鞄から羊皮紙を出した、が、うむ。

「………どう思う?」
「今更じゃない、あなたたち」
「今更って、なにが」
「その関係。いつも通りでいいのよ」

どの関係だ。いつも通りっていったってさあ。いつも通りのつもりだけど、…………なんでこうも今日はいまいち本調子じゃないんだろう。これまで気にしないものは気にせずにいられたし、考えることすら放棄できるのが私の長所だと思ってたのに。
いれてもらった紅茶を飲もうとカップに手を伸ばす、とその手を横から掴まれた。ぎょっとハリーを見る。

「手が赤くなってる」
「ンッ、ま、まあ、罰則がんばったから……」

罰則頑張ったってなんだよ、と自分でツッコメる程度には動揺してて冷静。離してくれないかハリー。しかしハリーは私の手をがっちり掴んだまま、片手で杖を振り缶を呼び寄せた。中のクリームを手に取ると、そのまま私の手に塗り出した。

「ハ、ハリー、ありがたいけど自分で塗れるよ」
「僕がやりたいんだ」
「まあ、積極的なのね」
「ハーミー!?」
「ナマエ、もう片方も」
「えぇー……」

ん、と手を差し出してくるハリーに一度首を横に振るも、頑なに手を伸ばされる。……拒否っても変わらんだろうな、コレ。諦めてもう片方の手も渡すと、ハリーはこれまた丁寧に塗り始めた。にゅるにゅるすんな、お、なんかいい匂いだ。なんだか和んでしまいついニヤッとすると、ハリーは逆にむすっとした。

「何笑ってるんだ?」
「このクリームいい匂いするなって」
「……はあ。そういう人だよな、きみって。それで、こんな赤くなるまで何やらされたんだ?まったく、本を外に持ち出したらダメなんてこじつけにも程があるよ」
「いつだったか、私たちも昔庭でスネイプに本を没収されたわね」
「ああ、そんなこともあったかな。スネイプの嫌がらせにはうんざりだ」

迷宮入りの謎が解けた気分だわ。罰則の理由それかよウケる〜。雑用普通にいいつけてくれりゃいいのにヘイト溜まるようなことしててスネイプ先生ウケる。罰則雑用押し付けた挙句地雷踏んだってこと?今日厄日じゃん。私もスネイプ先生もツイてねーな。

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