■視線が合わない距離がいい

あー、今日あの人の誕生日なんだった。
ふとアリアの机の上にある卓上カレンダーを見て思い出し、なーんで呪文は忘れんのにこういうのは覚えてるんだかと首を捻る。まあ思い出してしまったものはしかたがないというかなんというか。ぽりぽりと頬をかいて、どうしたものかなと机に突っ伏した。
もう夕食時も過ぎてるし、別にプレゼントを用意しているわけでもない。せめて思い出すのが今朝だったらば何とかなったかもしれないけど、こういうときに限って遅いんだよな私は。しかし気づいてしまうともやもやしてしまう。明日でもいんじゃね?という気はするけど当日と翌日だとやっぱりなんか違うし、そもそも本人がそんなこと気にするような歳でも性格でもないけどなんでか私がもやもやする。

「…………ま、言葉も立派なプレゼントだよな!」

よしポジティブ!とりあえずおめでとうだけ言いに行こ〜と私は部屋を出て階段を降りた。
夕食後の談話室はちびっこが集まってなんか楽しそうにお喋りしてたり上級生が頭抱えながらレポートやってたりカエルチョコが飛び跳ねていたりと騒がしい。そんな中サーシャに借りたサンダルでペタペタと歩き外へ出ようとすると、婦人から「今から出るの?」と迷惑そうに言われた。なんでだ、まだ消灯時間遠いぞ。へらっと笑ってこんばんは。

「へへ、ちょっと野暮用で」
「あなたたちはまったくいつも行ったり来たりばっかり!」
「サッセン」

そりゃドアなんだからさあ!行ったり来たりするでしょ!婦人なんかあった?ご機嫌ななめらしい。お小言を受けつつ開けてもらい外へ出ると、一月らしく空気は冷えきっていた。サンダルじゃなくてブーツ借りればよかったかも。そんでもって今更だけど芋ジャーにローブにサンダルは怒られるかも。そう気づいてもまたお小言言われて階段上がって部屋戻るのも面倒だし、いっか!とローブの前のボタンを止めながら塔の階段をさらに降りる。きっちり閉めてりゃバレないってばよ。

誕生日だからといったってどうせまた地下にいるんだろうなあ、あっスリザリンでパーティー…………無いだろうな。うん、無いわ。そして案の定私の予想通り、先生は相変わらず薬臭いじめっとした地上の3割マシマシで寒い地下で、赤ペンを握っていた。コンコンこんばんは!

「ハッピーバースデースネイプ先生!」
「騒がしい、入室の許可は出していない、礼儀のなっていないグリフィンド」
「お誕生日おめでとうございました失礼しました!」

ガチャッと開けて即閉めたわ。うし、言ったしオッケー!満足に頷いて帰ろうとするが、しかし身体は勝手にビュンと動いて部屋に入ってしまう。暖炉がほかほかであったけ。これは招かれた…と見ていいな?普通に暖炉の前の椅子に座ると、スイと目の前に紅茶缶とティーポットが宙を流れて来た。レポートの添削を続けている先生をチラ見して、どうせ文句言うくせに…と思いつつそれらを受け取り机に置く。おっと茶葉の前にやかんだよな、と勝手に戸棚を開けて取り出し水道から水を入れた。

「ミスミョウジ、杖というものを知っているかね」
「先生の腰についてるやつですよね」
「……自分のはどうした」
「部屋」
「大馬鹿者」

やかんを暖炉の火にかけようとしてアチアチッとしていたところで後ろからお怒りの声と共にバシンと背中に何かが当たる。振り返ると分厚いミトンがこれまたふよふよと浮いている。あざす!と手にはめると、熱さを全く感じずにやかんをかけられた。このミトン使うと火の中に手を突っ込んでも全然平気だから多分めちゃくちゃすごい素材なんだろうな。
そうしてあっという間に沸いたお湯をティーポットにいれて、まず器を温めてからお湯を一旦捨てる。それから目分量で茶葉を入れて目分量のお湯を入れ、そんで感覚で蒸らしてカップに注げばあらま紅茶の出来上がり。おっ綺麗な色してるな……今日は結構いい感じなんじゃない?期待を込めてスネイプ先生を見るも、しかし眉間の皺が深い。いやそれはいつも。多分皮膚が形状記憶してる。

「…3点」
「5点満点中!」
「100点中だ。紅茶もまともに淹れられないとは嘆かわしい」
「へいへいすみません」
「なんだその返事は。グリフィンドー」
「わーわーわー!」
「夜に騒ぐな愚か者」

いや先生のせいじゃん!すぐ減点しようとするから油断ならないなまったく……。っていうか毎回ブツブツ言うくせになんだかんだちゃんと全部飲むじゃんスネイプ先生。そんでもって自分で淹れたほうが確実だし杖でチョイっとやればあっという間なこになぜか毎回私に淹れさせるじゃん。まあいいけど。淹れますけど。

「っていうか、先生毎年誕生日でもこう?」
「どういう意味だ」
「パーティーとか……うーんしなさそ、あいたたっ!ヴ…ふねはらいぬぇ…」
「減らず口が」

つねらないでーえー。みょんとひっぱられた頬を摩る。ハッ……!今気づいたけど私の頬肉もちもちだ…太った……!
衝撃の事実に軽くショックを受けつつ、なんとなく椅子を暖炉前から移動させ、私の淹れたクソまずいらしい紅茶を片手にレポート添削作業に戻ったスネイプ先生の背中に寄りかかるようにして座る。

「ま、私がいるから寂しくないけどね!」

ふふんと胸を張って言う。てっきりまたお小言が返ってくるかと思いきや、スネイプ先生は何も言わずに私の体重を受け止めてくれた。…ふぅーん、そうなんだ。にやにやしちゃう。
地下室で吐く息は白く曇るのに、実際肌で感じる温度はもう全く寒くない。
1月9日は、カリカリという羽根ペンの音と、紙をめくる音、時折暖炉の炎がパチリと鳴るだけの静かな夜だった。

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