119

この前さあ、ハリーに偉そうに言ったじゃないすか。私たちも心配だから云々。……マジでさ、あんな調子乗ったこと言ってる場合じゃなかったよね。本当にバカ。だから大量の大鍋を洗うことになるんだよ。魔法薬学のレポート、1つ間に合いませんでした……。めちゃくちゃ怒られた挙句、1年生が授業で使った大鍋洗いの罰則が与えられてしまった。洗い方はもちろん素手だよ。たわしと石鹸だよ。楽しようとして魔法使おうとしたら大鍋大破するわ寮点クソ減るわ罰則追加されるわのオーバーキルを経験してからは真面目に素手でやっておりますとも。っていっても魔法薬学で罰則は久々でもある。最近の私は真面目なよく出来……てはないけどさほど問題を起こ……比較的起こさない生徒だったってわけだ。

「終わんねー。1年生ってこんなに人数いんの……」

午後イチで来てもうそろそろおやつの時間じゃね。ぜんっぜん終わらない鍋の量に気が滅入ってきた。過去イチ私に効いてるこの罰則。1年生、うちの学年より多くね?魔法界ベビーブーム世代か?いい加減擦りすぎて手が痛くなってきた。たわしが手に痛いんだよこれが……。まだ半分くらい残りが、えっ半分か!?本当に多いな。もうキッツいわーと弱音を吐いて、壁に耳を当てて周りの音を確認する。……スネイプ先生いないしいいよね。少し赤くなった手のひらを流水で冷やし、一旦休憩!と椅子に座りだらけたときだった。

「何故ここにいるミョウジ!」
「ビッッッッ!?」

ガタガタどすんってな具合に椅子から転げ落ちた。びっっくりした。床に四つん這いになって心臓を抑える。スネイプ先生かと思った。今までで1番ビビった。こっわ。

「ノックくらいしろし!?」
「油断大敵!」
「うるせえ」

手が痛くて休んだのにさらに痛くなってしまった。ヒリヒリする手をタオルで軽く包んだ。いてえ。そして突然入ってきたノックしないおじさんを見る。

「何をしている」
「いや見たらわかるでしょ。ここは今ナマエ・ミョウジの罰則リサイタルなんすけど」
「フン、無観客でようやるわ」
「うるせえ」

やかましいわ。やっと落ち着いてきた心臓と驚きの疲れに一気に脱力してしまった。まだ大鍋残ってんのにーーやりたくねえーー。今のでめちゃくちゃやる気失くした。しょうがないね。ムーディ教授ならまあいっか、と休憩を続けることにした。
ムーディ教授がなにやら戸棚からごそごそと出しているのを見る。材料?なんか作んのかな?と思ったらあの野郎、目的のものとった以外仕舞わないわ戸棚開けっぱで行こうとしやがった。

「ちょ待てよ!」
「なんだ」
「お片付けしてから出ましょーや教授」
「そんなものはしもべ妖精の仕事だ」
「知らんのか、スネイプ先生のナワバリはしもべ妖精も出禁だし生徒だって許可なく立ち入ってはいかんのですよ」
「ならばお前がやれ」
「ハアン???」

なんでや。おかしいでしょ。いい歳したオッサンがお片付けもできないんですかプククーと煽ると、ムーディ教授はぐるぐるさせていた義眼をギョロッと私に向ける。び、びびってなんかないんだからな!

「そんなことより必要なものは見つかったか」
「またそれぇ?」

メイでもないおじさんにトトロいたもん!と言われてもなあ。実際はトトロじゃなくて部屋だけども。

「いや全然わかんないんですって。つかムーディ教授は入れたんでしょ?ならいいじゃないすか」
「いいわけあるか!」
「うわっビビったあ……怒鳴らないでくださいよお」
「わかるはずだ。貴様に必要なものだ、貴様は過去を知りたくは無いのか!」
「………過去ぉ?」

過去、とはどういうことだろう。今の私には十分すぎるワードだが、同時に警戒心もむくむくと出てくる。ムーディ教授は私のことを知ってる?……なんで。確かに私が聖マンゴに行ったことは先生なら聞いているかもしれないし、去年の終わりに私が医務室で混乱したことも、……ああそうか、ムーディ教授は授業で私の様子を知っている、と?

「……必要の部屋に行けば、私は」
「貴様の祖母は必ずいるはずだ」
「………………祖母?」

なんて?そ、祖母?ムーディ教授、今祖母って言った?なんで祖母?唐突すぎねえ?う、うん?混乱してきた。少し口を閉じて考える。
……もしかして、これは……すれ違い通信……。一瞬で顔がスベチナになった自覚がある。こほん、私は咳払いをした。

「エー、祖母、祖母ね、私の」
「ミセスミョウジは貴様を待っている……救いたいとは思わんのか!孫のくせに」
「ンッ、ンン。ウス、スクウ」
「わかったのなら早くしろ!時間が無いのだ!モンキーに割いている時間など、本来ならば──グゥッ」

ムーディ教授は突然喉元を抑えた。そしてむせたように数回咳をする。えっなにどしたん急に、興奮したから唾とか誤嚥した?おじさんっていうかおじいちゃんじゃん。言われてみればそんな歳に見えなくもないけど……。大丈夫か?と少し心配したが、ムーディ教授は「とっとと見つけろ!」と怒鳴ると乱雑に準備室から出ていった。シーン。天使が通る。
墓穴掘らなくてよかった。あっぶね。ほっと息を撫で下ろす。しかし、祖母、祖母なあ。私のおばあちゃんといえば梅干しだ。でも多分、これは違うんだろうなと感じてる。救うとか私を待つとかよくわからないな。囚われの身なのか?老人が?なんで?意味わからん。ムーディ教授もしかして頭がちょっとアレなのかな…。
考えてもわからず、とりあえず悩みは置いて大鍋洗いを再開せねば。そう思ってたわしをつかんだとき、目線の先に戸棚が見えた。…………か、片付けろや電波ジジイーーー!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -