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ハリーに肩を貸して歩き出す。ゆっくり様子を見ながら階段を降りようとしたとき、ハリーが立ち止まった。つられて私も立ち止まる。頭痛いのかと様子を窺うと、ハリーはじっと私を見ていた。

「どした?」
「……医務室には行かない」

なんですとな。聞き返すと、もう一度はっきりと医務室には行かない宣言をされた。頭痛いんじゃないの?あ、寮帰るってこと?しかしハリーの答えはNoらしい。

「校長室に行く」
「……なんで校長室?」
「それは……。」

沈黙のハリー。こういうとき、城はいやに静まり返っている。口を噤んだハリーが自分でしっかりと立って私からほんの少し離れた。俯くハリーの目元が影になって、眼鏡の奥が何も見えなくなる。
……ふーむ。私は察した。これはアレだ、最近の忙しい原因と絡んでいる気がする。わからんけど。熱中症疑惑はもちろんある、けど、ハリーは多分あの暴れた理由をわかってるんだろう。透視云々はよくわからないし夢見が悪いってだけかもしれないけど、ハリーの周りにははややこしいものがいっぱいあるし、今回のもその中のひとつかもしれない。憶測でしかないからなんとも言えないけどさ。かといって私には言いたくないわけだから、そこは尊重したい。

「わかった、校長室へ行こう。でも、校長室への前まではついて行く。ここで1人で行かせて途中で倒れてましたーなんて冗談じゃない」

オーケー?語尾を上げて聞くと、ハリーはパッと顔を上げた。翡翠が数回瞬きで隠れて、それから細まる。白い顔で、ほっとしたように小さな笑み。

「……うん、ありがとう、ナマエ」

よし、じゃあ行こうぜ。階段を下りずに方向転換をする。歩き出して少し、きゅっと片手が熱に包まれた。しっかりと震える手を握り返した。こんくらいおやすい御用さ。
ハリーの頭痛の様子を見つつ辿り着いた校長室もやっぱり静かだった。ダンブルドアせんせーい、と呼んでも距離的に声は遠いだろう。ダンブルドア先生おじいちゃんだから耳も遠そうだし。でもガーゴイル像が道を塞いでいるから通ることが出来ない。えーとね、合言葉この前聞いたから覚えてるはずなんだよな。

「なんだっけな……あー確か……いや違うな糖蜜パイは今朝食べたヤツ……」
「ナマエ?」
「……ゴキ……板チョコみたいな……あっゴキブリゴソゴソ豆板!」
「…………え?」

無事突破しました、ステージクリアです。ガーゴイル像が退いて、道が出来た。が、私はここで立ち止まる。ここから先は行かないから安心してくれよな。そっとハリーの背中を押した。2歩ほど足を出してから、ハリーはくるっと私を向く。

「どうして、知ってるの?合言葉を」

そりゃこの前来たからねと言いかけて唇を噛んだ。やべっ。ハリーたちには、私が聖マンゴに行ったことを話してないんだよな。別に絶対隠さなきゃいけないってわけじゃないけどここで言うのもアレだし、…………いや隠さなきゃダメじゃないか?もしノット先生の言う通り金で揉み消すような事態になったらマズいじゃん。そもそもハリー自身今こんなに大変なのに、余計なこと考えさせちゃダメだ。うん、ダメだろう。少し悩んで答えが見つかった私は、いつも通りへらりと笑った。

「私のことも、今は聞かないでくれる?」

ひゅっとハリーが息を呑んだ。別に深いわけはないんだよー。それよりユーは早く行った方がいい。なんだか翡翠の瞳が揺れたような気がしたが、一瞬でいつものハリーだ。気のせいだったかな。そしてハリーは頷いた。

「…………わかった」

ハリーが校長室に入るまで見送り、私は一応占い学の教室へ戻った。シビレル先生にめちゃくちゃ睨まれたけど、しれっとするくらい屁でもない。そんで心配するロンに大丈夫だと思うと言って、また遅くまで話すんだろうと思ったからハリーが帰ってくるのを待たずに先に部屋に戻った。

翌朝会ったハリーは物言いたげな顔をしていたけど、昨日のことに触れることはなかった。
それから数日間、ちょくちょく察して場を抜けつつ勉強と呪文特訓の反復だった。半泣きで羽根ペンを握ってひいこら言って杖を振る。もうむり……。空き教室でべしっと机に突っ伏すと、頭に感触が。目だけ動かして見るとハリーが私の頭を撫でている。うむ、くるしゅうない。

「僕、これからは1人でやるよ」
「……ハリー?」
「どうしたの」
「唐突」

魔法リストを見ていたハーミーと教科書を確認していたロンが顔を上げる。私もハリーを見た。どうしたんやいきなり。ハリーは言う、試験も近いのにみんなを付き合わせて申し訳ないと思っていると。だぁ〜っはっは。体を起こして笑った。

「今更なに言ってんの、いきなりしおらしくなっちゃってまあ」
「わっ、ナマエ!僕は本気で、」
「私たちもハリーを心配してるから付き合ってるんだよ。ちゃっちゃと魔法覚えてちゃっちゃと無事に第3の課題終わらせられればそれでいーの」

こやつめ〜!むにっと頬をつまんでそのまま顔をうりうりと両手で挟んで揉む。うぶっとハリーが情けない声を出して眉尻を下げた。そうそうと2人からも賛同される。

「少なくとも、お陰でDADAは好成績だわ。ナマエは……そうね……」
「無理して言わんでいいよハーミー……」
「ま、僕たちが闇祓いになる訓れ……おっとごめん」
「おーらー」
「なんでもないよナマエ」
「なんでもないのよ」
「……お、おう」

おーらーって前にも聞いた覚えがあるが、なにやら私には知らせたくない様子を察知。へらっと笑って流した。察知レベルプロに続いてスルースキルもプロ級だなこりゃ。さて続きやるかあ、と伸びをする。と、ハリーが「ところで、ねえナマエ」と口を開いた。

「……シリウス・ブラックのこと、どう思ってるの?」

ピシリとなにやら空気が張りつめたような気がした。おやおや。ハーミーとロンを見ると硬い顔をしていて、ハリーもまた似たような表情だった。

「いや、別にどうとも」
「でも、でも……シリウスは冤罪なんだ。本当に、本当の犯人はピーター・ペティグリューで、」
「うん?うん……ダンブルドア先生から聞いたよ。それがどうしたの?」

そもそも事件とやらもよくわかってないんだよな。しかし何故かよくシリウス・ブラックの名前を聞く。去年のハリー狙い事件もあったし、今年も……なんでフリットウィック先生といいダンブルドア先生といいハリーといい、私にシリウス・ブラックの話題を?私になにか関連があるんだろうか。いや、ない。反語使って強調しちゃうくらい思い当たりがナッシング。なんなら黒歴史を思い出して、苦いものを食べた気分になった。医務室ベッド暴れナマエ事件は忘れたいけど、しばらくは忘れられないだろう。もうあれから1年近く経つのか。

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