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「うっいたっ、いたっ、いたいってば!」
「さっさと呪い逸らしをせんか!」
「無茶言うよね!?」

誰だよコイツをDADAの教授にしたのは!ヒンヒン言いながらヒュンヒュン飛んでくる魔法を物理的に避ける。でも何せ連射速度が早いため避けきれず結構当たり、私の身体には傷とよくわからない効果が増えていく。何が授業じゃ!

「魔法使いならば魔法を使え!それとも貴様は”穢れた血”か?え?」
「ムーディ教授!」
「死喰い人のクソ共はこんなものではないぞ!」
「私は何と戦うんだよ!?」

わけもわからず怒られたので杖を振る。何も起きない。デスヨネ。そして結局避け続け時間切れとなり次の人交代──ネビル、健闘を祈る。
無理マジ無理。床に倒れ込みゼェハァと息を整える。こ、ここまで息が上がったの久々だよ。勝手にひくひく動く耳が鬱陶しいったらありゃしない。

「ナマエ大丈夫?」
「大丈夫にっ、みえ、ます、かっ、うう〜〜」
「見えないね……」

苦笑したハリーが手を引っ張り起こしてくれた。そんな彼の耳もひくひく動いていて、お揃いだねと空笑いをするしかなかった。もうDADA嫌い。
授業が終わったんなら早く出たいのに、ハーミーは質問があるとかで残ってしまった。私はガチ泣きのネビルの肩を叩きながらとっとと教室を出た。ハリーとロンと3人で、玄関ホールでハーミーを待つこと数分、ハーミーは小走りですぐに来た。そしてハリーの耳を抑える手を引き離し、何故か私に渡してくる。お、おう?大人しくハーミーに差し出されたハリーの手を握った。そしてムーディ教授はリータを見ていないって言ってたわ!と興奮するハーミー。透明マントってなんだそりゃ。マジックの小道具かなんか?しかし3人は普通に話しているから私が知らないだけらしい。魔法界の常識アイテムなのかな透明マント。よくわからないのでうんうんと聞いていると、ハリーが虫の話をし始めた。所謂盗聴器の類だ。ロンはよく知らないらしい。魔法界に盗聴器はないんだってよ、不便だね。

「でももし盗聴器しかけてたら犯罪じゃね?しかも未成年相手。裁判で余裕で勝てるぞ」
「確かに……でもバレなければいいって思ってるのかも」
「んなアホな」
「ちょっと3人とも、いつになったらホグワーツの歴史を読むの」

君が暗記してるからいいでしょ、というロンにハーミーは呆れたようにため息を吐き、言った。

「ホグワーツで電気機器類は使用できないのよ。空気の魔法が強くてめちゃめちゃに狂うの」
「……えっ」
「だから盗聴器はないわ。使えていたら去年、吸魂鬼ではなく監視カメラを設置しているはずだもの」
「え、エエーーーッ!」

お、驚きの説得力……!私は目をひん剥いた。嘘でしょ、通りで誰も携帯持ってないし今どき電話じゃなくて手紙のやり取りなわけだよ!情報規制激しいとかいうレベルじゃないじゃん!う、うわあ。思わず両手で顔を覆った。そんな私にロンが声をかける。

「ど、どうしたんだよ?大丈夫?」
「だいじょばねえ…うっわマジかあ……ふりだしどころかマイナス地点に戻るじゃん……」

突然私の個人的事情にも影響が及んできた。つまりホグワーツの中での録音は不可だ。使うならせめてホグズミードまで行かなくちゃならない、しかし私が行ける可能性は今のところ低いし……詰んだ。真実薬にはもう手を出せないし、録音も出来ないし、私のホグズミード事件は迷宮入りってやつか。うそでしょ。めっちゃ落ち込む。ハーミーは私の様子に不思議そうにしながらも続けた。

「だから、リータが使っているとしたら盗聴の魔法だわ。それが非合法だったらこっちのものよ、ね、ナマエ」
「ああ、うん……」
「ハーマイオニー、他にも心配することがあるだろ?復讐劇までおっぱじめる気か!?」
「あなたに手伝ってくれなんて言ってないわよ!」

そしてハーミーは私の手を取り行くわよ!と言った。必然的にハリーと繋いでいた手が離れる。えっなに。どこに行くの、と連れていかれたのは私だけだった。なにこれデジャヴ。
ハーミーに引っ張られてついた先は図書館だった。入館するとき、マダムピンスにギロリと見られる。うっと縮こまった。その節はすみません……。ハーミーは呆れている。こっちもすみません……寮点取り返してくれてありがとう……。

「……そういえばナマエ、虫除けで追い払い呪文を使ったって言ってたわね」
「うん。……あれ、そういえばあのときクラムくんと話してたときだったな。マジで虫が盗聴してたりしてって、あっはっはそんなわけな……ハーミー?」
「……ふうん、そうなのね。虫、ね…」

今の笑うところだったんだけど、とは言えず、眼光の鋭くなったハーミーにピッと背筋が伸びた。か、狩人の目をしている……。





イースター休暇が近いから、とかよくわからん理由で課題の量がめっちゃ増えてきた。ハーミーはそれをこなしながら狩人を続けているらしい、素直にすげえ。普通休暇入ってから課題増えるんじゃないの。頬についたなかなか落ちないインクを袖で擦りながら、向かいのノットくんに声をかけた。in数占い学、計算は得意な方ですよっと。

「この前の本どういうことよ」
「……ああ、どうだった。思い当たる節はあったか?」
「ノーコメントで」

自分が二重人格とかにわかには信じ難いところだが。改めて聞くと、ノットくんは声を抑えて言った。この前の私が遅刻したと思ったらいつの間にか授業が終わっていたタイムリープのとき、様子が明らかに違かったらしい。ノットくんの顔は超真剣の本気の大マジで、本当に病気かもしれない路線で話されてしまった。冗談でしょ、とは笑えない雰囲気。袖にうっすらついてきた黒色を見つめながら、私も考える。

「……確かにマグルにもそういう病気はあるよ。脳の病気とか、精神的なものとか。でもそれだったら聖マンゴに入院した時点でわかってるはずじゃない?」
「マグルと魔法界の病気の認識は異なる。種族が違うのだから種類も違うことを想定しろ。だが、あなたの病状が報告されていないということはないはずだ。ならばあなたが忘れている、もしくはもう1人のあなたが把握しているかのどちらかだろう」
「やっやこしい話になってきたな……」
「少なくとも、あなたがヤヌス・シッキー棟にいたということは、可能性は濃厚だ」

重病患者が入るところだからな。そういえばそうだった。擦りすぎて痛くなってきた頬を諦め、少し熱を持ち始めたそこに手のひらを当てて机に肘を着く。……私が重病ねえ。こんなにピンピンしてるのに?信じられないし、実感もないなあ。
そもそも、記憶が飛んだ最初のきっかけは──マルフォイくん、か?学校が始まってすぐの、ムーディ教授がマルフォイくんをイタチにしたとき、気づけば拳が飛んでいた。あのときは家族のことを言われたから、だけども、私の精神の混乱状態があったことも確かだし……カウントしていいものやら。その後だと、多分DADAの、服従の呪文のときだ。これは呪文が呪文だったらしいし、ノーカウントでいいかなあ。そしたらやっぱりこの前のホグズミード事件か。……いやいや、共通性も無ければ全くもってヒントもない。ぜんっぜん役に立たない。はああと深くため息を吐いて机に突っ伏す。

「そう思い詰めるな」
「いやほんとにマジでリームー」
「何語だ」

ちらりと目だけで見ると、ノットくんはいつもの無表情だったが、真面目に「りーむー……?」と呟いているのがちょっと面白かった。ま、私程度の頭で考えたところでどうしようもないし、なんとかなるか!

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