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昨日は色々と疲れて寮に帰るなりすぐに寝たから知らなかったが、今朝ハリーから小声で話を聞いたところによるとハーミーとロンはまた喧嘩をしたらしい。曰く原因はしもべ妖精に対しての価値観のズレ。まあマグルと魔法族なんて環境が違うんだからそりゃそうだろうなあ。でも2人とも朝食の場では喧嘩はしていなかったし、多少苛立ってるけど飲み込んでるっぽかった。ハリーがほっと息を吐いていて、私はハリー・板挟み・ポッターの背中をそっと撫でた。
ハーミーはベーコンを食べながらずっと上の方を見ている。怖い怖い何かいるの?魔法界の幽霊って見えるはずじゃなかった?と思ったら、なんでも新聞を待っているらしい。預言者新聞を定期購入したのだとか、流石の私も物好きねーという視線を向けてしまった。情報源は必要だけど偏った情報はちょっと……図書館に置いてあるやつで良くない?だめ?あっスリザリンか……ウム……。私がチキンサンドの最後の一口を口に入れたとき、フクロウが一羽降りてきた。ハーミーが手を出す。と、更にバッサバッサといくつもの羽音が聞こえ、私たちに影がかかる。……多くね?

「一体何部申し込んだの?」
「せめて同一梱包してくれよな……うん?私にも来てんの?」
「ナマエなにか頼んだ?」
「いやなんも」

フクロウは私のところにも降りてきた。それも何羽も。えっなに怖い怖い。鳥が何羽も来るって普通に怖いから。ビビりつつ手紙を受け取る。……いや全く知らない差出人だわ。開けるべきか迷っていると、ハーミーの怒りの声を上げた。その手元にも同じような手紙がある。後ろから覗いてみると、悪口が並んでいた。……と、いうことは。席に戻り私に来た手紙を開ける。あんれまー。スリザリン生でも言わなさそうな罵詈雑言がズラリ。

「ナマエもなのね」
「……みたいだね……あー……破棄!」

その手紙をビリッと破いて、机の上に置く。残りの手紙は当然受け取り拒否一択だね。もし知り合いだったらって?ウケる〜誰だよ。ホグワーツ以外に知り合いとかいねーし。家族もいないっぽいし。自虐乙。私はよっしゃと気合を入れて杖を出した。それを、横からハーミーの警戒の混ざった声で問われる。

「……なんの魔法?」
「追い払い呪文!昨日図書館で虫除けに使ったら本ごと飛んでった威力だよ、負ける気がしない」
「やめなさい、大惨事よ」

杖はそっとハーミーに抜き取られ、両手はハリーに繋がれ、口はロンの手によって抑えられた。呪文も唱えるなと。はあい。
私とは違いハーミーは真面目に1枚1枚目を通していく。偉いなあ、と見守っていると、最後の1枚を開けたときに悲鳴が上がった。

「あー!」
「ハーミー!」

慌てて近づくとハーミーの手が爛れるように腫れ物だらけになっていく。見てても痛い傷だ、本人はもっと痛い。ハーミーはポロリと涙を流した。

「ハーマイオニー、医務室に行った方が」
「わかっ、わかってるわ!」
「大丈夫っていうかどう見ても大丈夫じゃねえーーはよいこ!」
「だめよ!ナマエは授業にいって!あなたたちもよ!」
「えっっ」
「そう言うと思ったよ。はあ……だから言ったんだ、リータ・スキーターには関わるなって忠告しただろ!」

医務室へ駆けて行く背中をおろおろと見送る。付き添いたいのはやまやまだが、ハーミーから授業に出るようにと言われてしまえばどうしようもない。憤慨するロンとハリーに私も気をつけるようにと言われ、しかし手紙には気をつけても追い払い呪文は使わないようにとしっかり釘を刺されてしまった。
ハーミーの傷の原因は腫れ草らしいから薬を飲めば治るはずだけど、それでも心配なものは心配だ。そんで授業に間に合うかも心配。廊下をダダダッと疾走しながら角を曲がり、やっぱ曲がりきれず壁にぶつかり情けない声が出た。へぶう。遠心力が。やっべ本当に時間がやっべ。





「──では今日はここまで」

「……あれ、今何時?私遅刻し……うん……?」

ハッと気づいた。ぼーっとしてたようだ。ころりと手から羽根ペンが落ち、それを拾おうと手を伸ばすと、隣の人の手に当たってしまった。おおすまない。

「ってノットくんじゃん。授業間に合ったのか…………いや何その顔?」

ノットくんは目を見開いて、驚きです!という顔で私を見ていた。珍しく口まで空いている。

「……ミョウジ、か?」
「それ以外誰が」

妙な質問だなと笑うと、ノットくんは首を振り口元に手を当てた。外人のようなリアクションをノットくんがするとは思わなかったぜ。ちょっと面白い。っていうか何さその反応は。

「ミョウジ、あなたは……」
「おう……?」
「いや、だが……」
「何?」

煮え切らない反応になんなんだと眉を寄せた。ノットくんは目を閉じて何かを振り切るように首を振ると、保留だ、とだけ言って席を立つ。待って授業は、と教卓を見ると、ベクトル先生はいなくて、黒板にはぎっしり文字が書かれていた。……あれ?そういえば羽根ペン、と拾いそびれた羽根ペンを拾って、手元に広げられていた羊皮紙を見ると、しっかりと板書がされていた。……あれ?あれれ?少し寒気がしてきた。これは、あれだ。ノット先生の言葉を借りよう、保留だ。私は考えることを一旦やめ、ノットくんと同じように荷物をまとめて席を立った。
さっき食べたばかりの気分だが、周りの生徒の流れに乗って歩くと大広間からは食事のいい匂いがした。

「ハーミー!」
「ハァイ、ナマエ。酷い顔ね」
「心配したんだよお!」

グリフィンドールの席にハーミーがいるのを見て私は飛んで行った。両手は包帯で巻かれているが、痛みは無いようでほっと息を吐く。そのままハーミーの隣に座り、ロンがおかわりするついでにお皿にローストビーフを貰った。やっわらけーうめー。体はちゃんと空腹らしい。味わっていると、ロンが唐突に「貧乏って嫌だな」と言い出した。どうした。

「ナマエもそう思わない?惨めだよ」
「今軽くdisられた気がする」
「僕も稼げたらいいのに。僕ニフラーが欲しい」

ニフラーってなに、と向かいのハリーに小声で聞くと、なんでも先ほどの魔法生物飼育学でやった光るものが好きな生物らしい。へえーカラスみたいだね。魔法界にも似たようなのいるんだなあと勝手に鳥のようなものを想像している私の横で、ロンに対してハーミーがそのニフラーとやらをクリスマスプレゼントにすると言った。更に軽く自分の手を自虐した後、強く事件の引き金人に仕返しをすると宣言した。ナマエも手伝ってねと言われもちろんと頷く。倍返しだ!拳を握り、おー!と上に突き上げる。と、うわっと声がした。おろ?

「危ないだろう、なんなんだ」
「……ノットくんなんでいんの?あ、ごめん、当たった?」
「いいや」
「スリザリンがなんの用だよ」

さっきの授業ぶりのノットくんに、ロンがピリピリした声で言う。ミョウジに用だ、との返答に私は体をひねって後ろを向いた。あ、待って、とハリーに言われもう一度前を向くと、ナプキンで口元を拭われた。えっなんかついてた?ローストビーフのソース?やだ言ってよありがとう。テイク2で振り向く。ノットくんはいつもの無表情で、私に数冊本を渡してきた。

「何これ?」
「当てはまるものはないか読んでおくといい」
「………記憶障害?二重人格?ちょちょちょ」

本の表紙の文字がどれも不穏で、それだけでいなくなろうとしたノットくんの裾を掴み待ったをかける。伸びるだろうと振り払われて素直に謝った。最近背伸びたから制服きついってこの前言ってたもんね。

「俺は次の授業がある。聞きたいなら来い」
「え、あー……ごめん私先に、」
「待って」

これで放置されても困るわ。しかしトリオに向かって言いかけたところで、ハリーから待てが入った。おろ?ハリーを見ると、眼鏡の奥の翡翠の瞳が私をじっと見ていた。

「……いかないで」
「んっ?」
「行かないで、ナマエ」

ハリーの頼みに目を丸くした。どうしたの。えーと、と言い淀んでいると、ハッとノットくんが鼻で笑う。ちょっと嫌味な感じだ。いや今のどこに鼻で笑う要素が。

「なんで今鼻で笑ったの?ねえなんで?」
「いや……そういうところだと思うぞ、ポッター」
「…君には関係ないだろ」

なんの話しだ。はてなマークを浮かべる私に、ハーミーがそっとノットと仲良かったのねと耳打ちしてきた。数占い学の授業が一緒なんだよね、と簡単に返す。ハリーがもう一度、「行かないで」と言った。う、うーん……そこまで念押しされると仕方がない。わかったよ。とりあえず大広間にいるという意思表示としてデザートのアップルパイをよそった。ノットくんはまた鼻で笑い、じゃあなと去っていく。その背中にわざわざありがとう、と声をかけた。膝の上に乗せた本を鞄にしまい、アップルパイを口に入れる。ふと顔を上げると、3人が何か言いたげな顔で私を見つめていた。

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