溺れるような苦しさがあった。息が出来ず、鼻の奥のつんとした痛みに涙が溢れていく。息を吐こうとしたけど、かふ、と空咳が出ただけだった。
薄ら目を開けると、ぼやけた視界の先には眉間に皺を寄せたエイブリーがいた。アルコールの匂いが強くてクラクラする頭で認識する。保健室にいるようだ。

「起きたか。大丈夫か、気分は?」
「……どっでも、最高、げほ」
「すまない、魔力加減を間違えた」
「最低……」

気絶呪文を僕に当てたのはわざとだったらしい。お陰で僕をあの人類史上最悪の男から引き剥がしてくれたわけだ。僕はホグワーツに入学して以来の親友に心から感謝をし、今後二度とDADAには出席しないことを決意した。試験さえ出れば問題ないはずだけど、あの男と同じ空間にいることと留年を天秤にかけたらきっと家族はみな留年しなさいと言ってくれるはずだ。
横向きで寝ていた僕の口元には厚手のタオルが敷いてあった。汚れているそれと部屋の匂いから、僕は寝ている間に嘔吐したらしい。エイブリーがタオルを取り替える。甲斐甲斐しい様子に驚いたが、そういえば魔力加減を間違えたと言っていた。今僕の中の魔力が安定しないのは彼のせいらしい。全身が重だるくて、存分に世話を焼いてもらいたい気分だ。

「クィレルと何を話していた?」
「なにも」
「尋常ではない様子だったぞ、お前。ドラコがそれはもう焦って俺を呼びに来てな。スネイプ教授はスリザリンの生徒が手を出されたと思って大激怒だ」
「そう」

スネイプ教授が僕を泊めてくれていたら、あんなことにはならなかったのに。
ふんと鼻を鳴らして目を伏せると、エイブリーが僕の前髪を撫でた。

「お前の体はマダムポンフリー曰く、ショック性の発作のようなものを起こしていたらしい」
「そうだね」
「アレルギーがそんなに酷くなっていたなんて…今まで気がつかなくてすまなかった」
「うん」
「……明日の授業は休むか?」
「うん」
「……夕食のプディングは俺が食べても?」
「うん……うん?ダメだよ」

喋るのも億劫で適当に返事をしていたことがバレてしまったらしい。エイブリーはキッと目をつりあげ、僕に怒った。こっちは真面目に心配しているんだぞ。はあい、ごめんなさい。優しい友人に甘えてしまったよ。
口の端をつりあげて、仰向けになり身体を起こす。たくさん咳をした胸が少し痛んだけれど、エイブリーに支えられて座位で水を少し飲んだ。

「あのねエイブリー、僕はしばらくDADAには出ない。だからノートよろしく」
「……そこまでのことがクィレルとあったのか?」
「そうともいえるし、違うともいえる」
「はあ…………魔法史」
「いやだよ、魔法薬学」
「魔法史」
「……仕方ないなあ」

ただでは頼まれてくれないのがエイブリーという男だ。魔法史の残りのノートは苦痛かもしれないが、DADAに出ることを考えれば楽勝な事に思う。

クィレルがあんな馬鹿げた禁忌を起こすなんて、本当にありえない。もともと臭い奴だったけれど、人の、生物の倫理を越えて何がしたいのか僕にはさっぱりわからない。
永遠の命を求める人というのは本当に存在するらしい。永遠の命の持ち主にクィレルが適任とは思えないけれど。現に呪われてしまったのだから、彼は一生本能的に安心することは出来ないだろう。可哀想に、ばかなやつ。


形を持たない化け物へ3/3

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