はっくしょん!はっくしょん!

止まらないくしゃみに嫌悪感がゾゾゾと背筋を駆け回る。悪い風邪を引いたときのように暴れ回るそれは、スリザリンの談話室で微かに香る。ほんの少しの匂いなのに、僕の身体が、穢れを厭うこの純血の血が拒絶している。
セルウィンが慌てて消臭魔法をかけているけれど、僕のくしゃみは一向に治まらない。

あまりにも嫌な匂いだ、穢れの象徴だ。
ユニコーンの血なんてものに近づいたのは誰だ。
僕はフラフラと覚束無い足取りをエイブリーに支えられながら、地下の薬学教室へ飛び込んだ。薬草の匂いにホッと心が落ち着く。ほろりと涙が零れて、勝手に入ってきた生徒にかんかんだったスネイプ教授もぎょっと驚いた顔をした。エイブリーの手が心做しか強ばっている。

「どうした」
「朝からスコルのアレルギーが止まらないんです。熱はありませんが、悪寒がすると。尋常じゃない様子で……」
「医務室へは?」
「むだだよ」
「なんだって?スコル、もう一度……」

僕の掠れたか細い声はエイブリーには聞き取れなかったようだけれど、スネイプ教授は察したらしい。ぐったりとした僕をエイブリーから受け取り、エイブリーには授業へ行くように告げると教室のドアを閉めた。心配そうなエイブリーにふらりと手を振って、倒れ込むように椅子へかける。
手を伸ばしてスネイプ教授のローブの裾をぐっとつかんだ。

「スリザリン寮引っ越して」
「馬鹿なことを」
「ユニコーンの血だ、あれはだめだ、本当にだめなやつなんだよ。教授は知らないでしょ、鼻がバカだから」
「鼻が優秀な貴殿の申すことを聞けと?」
「本当の穢れというものをあなたたちは知らない」

離れても匂いを覚えてしまった。ざわざわと肌が揺れて、今にも叫び出したい。触れてはいけないものに触れてしまったのだ、どこの誰だか知らないが一生消えない呪いをかけられている。そんな存在が近くにいる、それだけで群れは絶滅することだってあるのに、どうしてみんな危険だということがわからないんだ。
けほけほと咳をする僕をスネイプ教授は準備室へ押しやると、壁沿いの棚からいくつかの薬草を出して煎じはじめる。薬湯を飲んだところで気分が落ち着くはずもない。

「それを飲み次第戻れ」
「いやだ…帰りたくない……」

僕の必死の抵抗を教授は無視して、美味しくない薬湯を僕に飲ませるとそのまま廊下に叩き出された。
いがいがする喉を抑えて、酔っ払ったようなふわふわとした足取りで階段をあがるとガツンとまたあの穢れた匂いがした。脳を揺さぶられ、全身に悪寒が走り、本能から身体が恐怖する。がくがくと震える足から力が抜けて、階段の手すりに身を預けてずるずるとしゃがみこんだ。嫌な汗が皮膚から吹きでて、体内の水が全て押し流されるような感覚がする。は、は、と干からびそうな犬のような荒い息をする度に、肺の中が穢れで焼かれていく気がして呼吸するのも怖くなった。

「だ、だ、大丈夫、です、か?」
「ヒぃ!」
「ミ、ミスター、ワーグ?き、気分、が?」
「ぃ……ぁ…………ッ」
「ミスターワーグ?」
「それ以上スコルに近づくな!」

ステューピファイ!
赤い閃光が目の前を走る。魔法にぶち当たり気絶したのは、僕だった。


形を持たない化け物へ2/3

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