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名門純血家の姉妹の妹3

元はコレ


 無事グリフィンドールに選ばれたハリーは、スリザリンの席に妖精を見つけた。ベルベットの、時折キラキラと光る髪にバラのような唇、鼻を寄せればアプリコットの香りがしそうな頬はまろやかに笑みを浮かべ、アクアマリンの瞳が輝いて笑っていた。思わず見惚れていると、ロンが同じ場所を見て鼻を鳴らす。

「やめろよ、名字なんか見るなよ」
「どうして? あの人、すっごく綺麗だ」
「でも名字なんだ。それにスリザリンじゃないか、……まあ、確かに綺麗だけどさ」

 ぼそぼそと話すロンに聞けば、名字家というのは魔法界きっての純血一族らしい。代々スリザリンで、その血の殆どがほかの純血の家と繋がっている。ハリーが見つめていた彼女はその名字家の長女で、ヴェロニカというらしい。ヴェロニカ、と口の中でその名を転がすとなんだか頬が熱くなった。

「でも、ほら見ろよ、あっちの。あれも名字家なんだ。しかもヴェロニカ・名字の妹。確か名前は──」
「名前・名字」
「そう! それだ! って、フレッド!」
「俺はジョージさロニー坊や。なんだい、名前の話かい?」
「ああ、ごめんジョージ。そう、知ってるの?」
「残念、ジョージは俺。そうとも、名字姉妹の話を知らない魔法使いなんていないのだよ」
「どうせロニー坊やに名前の悪口を吹き込まれてたんだろう? 全くその通りだからな!」
「……その通り?」

 パチリの瞬きをして、名前、と言われた魔女を見る。キラキラと光らない黒い髪、真っ白な唇はもくもくとものを食べていて、前髪が重たく顔にかかっているせいで瞳の色が全く見えない。それにヴェロニカは楽しそうに笑い話しているが、名前はあまり口も開かず表情も変えず、淡々と食事をしている。
 姉妹といっても全然違う、そうハリーが思った言葉をジョージ、あるいはフレッドも口に出した。

「姉妹と言っても全然違うだろ? 全く似てない、あいつら本当は血が繋がってないなんてもっぱらの噂なんだ」
「しかし名字夫妻はそれを否定、知っているのは母親の腹だけってね」
「そうなの? そんなことってあるの?」
「さあね、俺達スリザリンなんかに興味が無いんだ」
「美人の姉ならともかく、陰気で重たい妹ならなおさらね」

 双子のどちらかの言葉に、確かに、とハリーは頷いた。本当に姉妹かどうかも、スリザリンで純血主義なら自分たちにはどうでもいい話だ。ハリーはそう蓋をしたが、それでもヴェロニカは美しく目を離すことは出来なかった。

 授業がはじまった。魔法薬学の初っ端、ハリーはスネイプのせいで散々だった。教科書の端っこに書かれているようなものを聞かれたってわかるわけがないのに、そんな文句をいえば減点をされてしまう。イライラしながら魔法薬の作業をしていれば、ネビルの鍋が爆発してしまった。教室内は大騒ぎで、スネイプもカンカンに怒っていたし、なにより全身に薬をかぶったネビルはいたいと大泣きしていた。周囲の生徒も薬をかぶり痛い思いをしていたが、ネビルの比ではなく、それほどにネビルの肌は膨れていた。しかし、そんなことはどうでもいいと騒ぐのがスリザリンだ。

「きゃあっ、名前! そんな、酷いわ、大丈夫? いいえ、大丈夫じゃあないわね、先生!」
「なんて酷い……! 名前、大丈夫さ、僕がいるからね」

 パーキンソンがぎゃーぎゃーと高い声で話し、マルフォイは悲痛そうに顔を歪める。しかし、騒がれている本人は薬がつき膨れた頬にハンカチを当て、じっとこちらを見ている。すぐさまスネイプが医務室へ、と指示を出すも、ネビルは動けない。スネイプがだした解毒薬でも治らないのはネビルと名字の2人だけのようで、しかしネビルは泣いている。
 名字がゆっくりとネビルに近づいた。グリフィンドール生が身構えたが、それに構わず名字はネビルの傍らに片膝をつき、その腕を引っ張った。

「ほら、立てって。痛いままずっと泣いてる気? 泣くなら医務室で泣きな」

 ロンがうそだろ、と小さく呟いた。ハリーもびっくりしたが、名字の淡々とした言葉と、ネビル手を引きながら教室を出ていく様子を見て少し彼女に期待を持った。
 名前・名字は案外いいやつなのかも、と。


##


 寮の窓際、湖の暗い底を見上げてため息を吐いた。ホグワーツに来てしばらく立つが、正直今の状況は家と大して変わらない。家の方が楽かもしれない、と思うふしさえあるのだから参ってしまう。姉がいるからなおさらなのだろうか。姉のことを負担に思ったことは無いものの、周りの目は厳しいものばかりだ。

「どうしたんだ、名前」
「……クリスマスが近いなあと思って」
「ああ、確かに。そうだ、名前も来るだろう? 我がマルフォイ家のクリスマスパーティーさ、もちろん招待状も出すがね」
「返事は父からさせていただくよ」

 イキってるマルフォイの子犬に苦笑する。この前までのトロール騒ぎは鎮火してしまい、普段の悪口と自慢だらけが戻ってきてしまった。いや、スリザリンは常にそればっかか。何故スリザリンになってしまったのか、と少し頭が痛いが、おそらくスリザリン以外になってしまえばそれもまた頭が痛いのでこれで良かったのかもしれない。少し我慢すればいい話だ。
 純血一族で主義の家の洗脳力はすさまじい。自分が正しいと信じ込んでいる集団はたしかに怖いもの知らずなのだろうが、これでヴォルデモート卿が戻ってきたらと考えるとさらに苦しいものだ。私も姉も所詮は道具なのだろうし、誰に嫁がされるかもわからない。……その前に死ぬかもしれないし。そんなのをまだ知らないマルフォイの子犬のような子たちは道具として扱うようになる親を自慢し誇るのだ。ひっでえカルト集団だことで。正直私はあいつらのために働きたくもないので、そのうち記憶喪失のふりでもして、あるいは死んだことにしてそっと雲隠れしようかと思っている。マグルの方が圧倒的に数が多いのも事実、いつまでもダークサイドにはいられない。最後は大体ジェダイが勝つから。

「あらドラコ、ごきげんよう。名前も、元気かしら?」
「ヴェロニカ!」
「……ごきげんよう姉様」

 ハープの音色のような声、と称したのはどこの貴族だったか。そんな姉の声に振り返れば、姉は楽しそうにマルフォイの子犬と話していた。マルフォイの子犬も頬を染めてもじもじしている。初恋の理想が高すぎるんだよなあ……。

「名前、マルフォイ家の招待もちろんお受けするわよね?」
「父様に任せます」
「もう、またそんなこと言って」

 未だ独り身のブラック家当主に心寄せるのは構わないが、利用される初恋の心が可哀想で少しマルフォイの子犬に同情してしまう。確かにブラック家当主はあまり社交場に出ないらしいが、姉の美貌ならすぐに落とせるだろう。ブラック家に嫁ぎ実家のぶんの子供も産んで私の雲隠れを手伝ってほしいものである。

 ひたすらローストビーフを食べたクリスマスパーティーも過ぎて、ホグワーツに戻って少し、マルフォイの子犬がやらかした。いや、やらかしたのはグリフィンドールの伝説のジェダイことハリーポッターで、それに巻き込まれた形らしいが、正直どれでもいい。

「……ち、父上に怒られやしないだろうか」
「さてね」
「名前からも弁明してくれないか、僕は良かれと思って、」
「良かれと思ったんなら胸を張っとけばいいじゃないの、ほら背筋のばしな。こわくなーいこわくなーい」
「馬鹿にしてるだろう!」

 親子の遺伝らしい青白い肌をカッと赤くさせて大きな声を出すマルフォイの子犬のあらわになっているおでこをぺちりと叩き黙らせる。おお、犬だ。よしよしいい子、と撫でればその手はぺしっと払いのけられ、馬鹿にするな! と怒られる。よその飼い犬に手を噛まれてしまった。

「ドラゴンなんぞ放っておけばいいものを」
「放っておけるか、違法なんだぞ」
「真面目だねえ、関係ない話だってのに」

 仮に違法だとしても逮捕されるのはあんたの嫌ってる森番なのにお優しい話だ。くありと欠伸をして姿勢を変えれば、寝るな、おい、寝るな! という子犬の鳴き声がしたが、それを少々うるさい子守唄にして目を閉じた。

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