ALBATROSS

http://nanos.jp/maskkkk/

名門純血家の姉妹の妹

元はコレ


名字家は生粋の純血一族であり、かのスリザリンの血を継いでいることで有名だ。しかし何代か前からパーセルマウスは出ておらず、純血だからといって劣化することは明白、というのに未だ純血にしがみつく無能ばかりの魔法界は近いうちに崩壊するだろうというのが名字家次女、名前・名字の見解だ。しかし名前は鷹だった。常に爪を隠す、いや、爪を出すことを嫌う鷹であった。そのため容姿や成績が優れている姉と比較され、嘲笑されても常につまらなさそうな表情で流し、懐く姉を甘やかしていた。
姉は優秀な女性だ。美しく、艶やかで、可愛らしい人。また賢く成績は常にトップクラス、しかし刷り込まれた純血主義だけが彼女の欠点だった。対して名前は確かに整った顔立ちではあるものの姉に比べれば醜く、幼く、可愛くない娘だ。コロコロと笑う姉と違い滅多に笑わず、どんなに華やかなパーティーでもつまらなさそうな顔で壁際に立つような娘。
そんな娘も今年からホグワーツへ行く。両親は成績さえよければ、と思っているようだが、名前の中ではさして重要なことではない。名前は、周りに知られていないだけで自分が優秀なことを理解していた。姉はたしかに優秀だが、確かに姉は女でしかないのだ。刺繍が美味く、話を聞くのが上手い。殿方に笑み暖かな気持ちにさせる、家の中で囲われるそんな女なのだ。対して名前は理解している。自分が家の中で持て余す存在だと、自分自身で立たなければならない人種だと理解していた。そのため、名前には密かな夢があった。ホグワーツを卒業したら、名前は家を出て、マグル界で暮らすのだ。魔法界なんて狭く秩序ばかりの場所ではなく、マグル界という広く大きな世界で生きるのだ。趣味を持ち、家にとらわれずに生きる、それが名前の夢だった。

「名前、今年からホグワーツだな。おめでとう」
「……レギュラス小父様、ありがとうございます」
「ドラコやパーキンソン家の令嬢も同学年だそうだ、上手くやるんだぞ」
「承知しております。私も名字の娘です、スリザリンに入ることは間違いありません」
「…………ああ、そうだな」

名前を誰かと重ねて見ているような目でレギュラスは笑う。大方歴史から消された兄のことを見ているのだろう。昔から、この男は度々そういう目で名前のことを見ていた。

「……例え名前がグリフィンドールになったとしても、君は名字家だ」
「私がグリフィンドールになったら、私はその日限りでホグワーツを辞めます。父も許してくださるでしょう」
「その通りだ」

つん、と言い放った名前にレギュラスは諦めたように笑い、いい夜を、と名前の手に親愛のキスを落として去っていく。名前がスリザリンではないなどありえない話だ、あの男は何を言っているのだか。名前はこっそりため息をつき、その日もまた壁際に居続けた。



「名前、私は監督生だから行くけれど、あなたはここにいてね。誰か来てもスリザリン生でしょうから軽く挨拶する程度でいいわ、あまり相手をすると疲れてしまうもの」
「ええ、わかりました姉様。お気を付けて」

ビシッと監督生のバッジをつけて姉がコンパートメントを出ていく。名前はそれを見送り、頬づえをついて窓の外を見た。周りはスリザリン生だらけの車両で安易に名字家のいる扉を開けるのはよほど家に自信がある者かバカだけだろう。他の車両より明らかに豪華なコンパートメントなのだ、バカでも怖気づきそうなものだが。そうタカをくくっていたら、そんなバカが来た。いや、この場合バカではなく、単に無謀なのか。

「あのすみません、ここにカエルが来て──まあ!すごい、こんなコンパートメントがあるのね」

栗毛色の髪をふわふわとさせた小さな魔女はキラキラと目を輝かせた。まるでお話に出てくるような内装なのだから興奮するのはわかる。しかし、場所が悪い。見るからに混血でマグルの出、しかも新入生ときたら一番嫌な形で現実を知るより今教えて逃がした方がいいだろう。名前は表情を変えず、同い年の魔女に声をかけた。

「カエルは来ていない、もし来ていたら私が捕まえておこう。それより、」
「親切にありがとう、もしも捕まえたら私かネビルのところに来てちょうだい。私はハーマイオニー・グレンジャー、魔法界は初めてなの!だからとても緊張してしまって、」
「そうか、ハーマイオニー・グレンジャー、私は名前。グレンジャー、悪いことは言わない、この車両から早く出て行って」
「あら、どうして?ひどいことを言うのね!」
「ここはスリザリン生の車両なんだ、混血を嫌う。案内人の教師に教わらなかった?なら今覚えていくといい、魔法界には純血と混血がいて、純血主義の者は混血を嫌う。マグル出身の者は尚更だ。わかったらスリザリン生に魔法を放たれないうちに安全な場所に行くといい」
「……そう、そうなの、私知らなかったわ。教科書は全部目を通したのだけど、そんなこと書いてなかったわ。教えてくれてありがとう、その……友達になれたら嬉しかったわ」

酷く素直な魔女だった。しかし名前は友達になれたら、という言葉に笑うしかない。笑って退出を促す。グレンジャーは寂しそうにしながらも怒らず元の車両に戻っていった。

(……マグル出身の生徒か)

ホグワーツを卒業したら名前もああした友人が出来たりするんだろうか。出来ると良いなあ、と思いながらまた元の体勢に戻り窓の外を見つめる。天気のいい空だ、太陽も機嫌よく照っている。
少しして、扉がノックされた。

「どうぞ」
「失礼するよ、僕はドラコ・マルフォイ。名字家のコンパートメントで合って……いるな、名前、久しぶりだ」
「……ああ、ドラコ、この前のパーティーで会ったばかりだろう」

マルフォイ家の嫡男のドラコとお供らしいクラッブ家とゴイル家の子らがコンパートメントに入ってくる。名前の正面に座ったドラコは聞いてくれよ、と怒り出す。

「ハリーポッターのところに行ったんだが、あいつは裏切り者のウィーズリーといたんだ!友人は自分で選ぶと!ウィーズリーとだ!ありえないだろう、理解できない!」
「……ウィーズリー?」

純血界でも血の裏切り者と有名なウィーズリーの子に同学年がいただろうか。姉と同学年に一人いたのは覚えているが、あそこの家は数が多くて覚えられない。そもそも覚える必要はないと名前は思っている。
それよりも、ハリーポッターとドラコは言った。ハリー、ハリーポッターといえば名字家も心酔しているヴォルデモート卿を倒した選ばれし子だ。確かに名前と同い年だったはずで、卿とは親戚筋でもある名字家の敵でもある。今思い出すとは、しくった、これは厄介だ、名前は内心頭を抱えた。この時点で無事にホグワーツを卒業出来るかさえ怪しくなってくる。おそらく、名字家はなんらかの形でハリーポッターを害そうとするのだろう。

「ああ、ウィーズリーさ!知っているだろう?」
「……あ、ああ、だが同学年がいたか?」
「さあね、あそこは家畜よりも子供が多いんだ、知るわけないよ」
「そうか」

ドラコの怒った様子を流し、窓の外を見る。名前が聞いていようがいまいがこの坊ちゃんは常日頃から勝手にキャンキャンと鳴いているのだから、今更聞いていようがどうでもいいのだろう。その証拠にドラコは姉が戻ってくるまでずっと喋り続けていた。
ハリーポッター、選ばれし運命の英雄、名字家の敵ではあるが名前の中で既に彼の勝利は決まっていた。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -