ALBATROSS

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真島と朴の娘

*突然始まり突然終わる殴り書き
元はコレ


(にしたってニューセレナとか私じゃなかったらわからんぞ……。普通に考えてこういうとこ、中々来れないっしょ。場所わかりにくいし、一回裏まで回んなきゃいけないし、始めて来るのにしてはちょっと怖いよねー。スカイファイナンスも行くのを憚られる場所だ。それじゃなくても、”無利子で無制限”とか胡散臭すぎてぜってー行きたかねー)

 カン、カン、と足音を響かせ、陽も暮れて灯りもうっすらと不明瞭な階段をあがり、確実見たことのある、プレイしたことのある人なら確実に写メを撮りまくる扉を前に立つ。
 パ、と軽く安物の服の裾を軽く整えて、深く息を吐いた。これでも私が持っている中では一番いい奴、一張羅だ。だが同時に、一番動きやすい格好でもある。何があるかわからない神室町ですからね、いつでも逃げられる格好を。
 真っ先に逃げるルートを脳内で想像している分、私もかなり警戒しているようで。主要人物相手に何考えてんだか、と自嘲気味に笑い、ドアに手を掛けた。
 ぐ、と軽く力を入れて押すと、カラン、と音を立ててドアが開く。

「いらっしゃいませ。……あら、お客さん、うちは初めてよね?」
「どうも、お邪魔します。ちょっと待ち合わせで来まして」
「! ……朴名前さんですか?」

 清潔感のある店内、照明は暗めで、落ち着いた雰囲気を晒し出していた。カウンターの中で迎えてくれたニューセレナのママは、品のいい、それでいて色気を魅せる衣装で、年齢を感じさせない笑みを浮かべていた。
 私は軽く笑って言うと、奥のソファ席、入り口にいる私からは死角となっている席から声が聞こえてきた。こ、この声は、

「来て下さったんですね……! 初めまして、私が澤村遥です」
(くぎゅうううう)

 奥から、私よりも幾分か背の低い、若い女の子が出て来て私に軽く頭を下げた。目の前が一瞬くらりとした。くぎゅうボイスの破壊力といったら。
 初期からプレイし、ファンのほとんどが親と化す遥ちゃんに私はぐ、と耐え、大人の余裕だ、と笑みを浮かべ軽く会釈を返した。

「初めまして、澤村さん。遥ちゃん、って呼んでもいい?」
「は、はい!」

 とりあえずもう二度とないであろうヒロインとの接触、ここはぐいぐい行って記憶に残してもらおうかな、なんて下心を腹の中に隠し、私は遥ちゃんへにこりと笑った。
 とはいえ、あまり長居もしたくない。
 手紙を貰った時から薄々は気付いていたものの、ニューセレナへ来て確信してしまった。私は、ある意味まんまと罠にハマったのだ。

(真島、吾朗が大人しい、だと……!?)

 ママが美しく笑うカウンターの奥、お酒の瓶やら花瓶やらでカバーしてあるその場所に、思いっきり主要人物ズが座っているのだ。奥に見えてるあのでかい身体、隠しきれてないんです冴島さん。真島の兄さんの濃い蛇柄のジャケットは綺麗なお花でも隠し切れないんです気付いて。あと堂島の龍は隠す気もなくない?堂々とトイレに立ちおって……バレバレだわ!あんたらかくれんぼ下手か!
 全く、酷い奴等である。そして私もかなりなめられている。なんか悔しい、というより、ムカツく。
 そんな苛立ちをぐぐっと何重にも鎖を掛けて押し潰すと、私は遥ちゃんの向かいのソファに座った。

「何お飲みになりますか?」
「あー、お酒苦手なので、ノンアルコールの……いや、カンペリありますか?」
「ええ、ありますけど……苦手なのに、大丈夫?」
「まあ、たまにはいいかなって。ソーダ割りでお願しまーす」
「ふふ、かしこまりました」

 ニューセレナのママのちょっとエロい雰囲気の笑いからそっと目を逸らして正面を見ると、ぴったりと遥ちゃんと目が合い、そのまま意識して微笑んだ。
 その笑みに、遥ちゃんは、ハ、と息を吸い、目を見開いた。

「朴、社長……」
「似てるでしょ?家の母、昔から全然変わってないんだけどね、昔の写真とか見るとマジでそっくりなのよ」

 これ、ちょっと自慢ね。事実なので、中身はこんなんだけど!と付け加えてにししと笑った。
 決して朴美麗がしないその笑い方で再認識したのか、遥ちゃんは一瞬泣きそうに顔を歪め、「すみません」と下手くそに笑った。ご、ごめん、ちょっと不謹慎っていうか悪戯しすぎたわ……。

「お待たせしました、カンペリ・ソーダです。どうぞ」
「どうも」

 私は気を取り直して、来たカンペリ・ソーダを一口飲みこみんだ。
 実の父親が傍にいて、そんんでお仲間もいて、ママも含めると4対1なんて状態で酒も飲まずやってられっか。
 カンペリの苦味できゅっと鎖を引き締め、内心グレた思考になってきた自分を律す。
 そして、その場の少し気まずい空気を換えるように、一つ咳払いをすると改めて遥ちゃんの目をじっと見つめる。
 そんな私の視線が、というよりも予想以上に母似の私の顔に、若干居心地悪そうに身じろぎをして、遥ちゃんはそっと口を開いた。

「……あの、名前さん」
「はあい」

 口を開いた、と言っても言葉は上手く続かず、遥ちゃんは、はくり、はくりと口を少し動かしながら続く言葉を探していた。
 私はそれを、お酒を少しずつ嚥下しながらひたすら待った。もちろん、ちょいちょい奥の方の気配を気にしながら。だって……なんかこそこそ言ってるんだもの……。「遥、どうしたんだ」とか「兄弟が静かっちゅうんは、なんや気色悪いわ」とか聞こえてくるんだもの……。ついでに本気で真島の兄さんが静か。冴島さん、私もそう思う。全面同意する。
 私は結構外野に意識が行っていたりしたが、遥ちゃんはいつもの事で慣れているのか、もしくは気にならないほどに緊張、または集中しているのか。時間をかけて捻りだした言葉は、私には必要のない物だったんだけど。

「朴社長の事については、」
「あー、いい、いいよ」

 予想外だったのもあり、今更それかい、と思ったのもありで、遥ちゃんに対する返事が適当になってしまった。
 頑張って繋げた遥ちゃんには申し訳ないが、今の私にとってその情報は特に必要のないものだ。記憶がある、というのも理由の一つだけど、もし私に記憶がなかったとしても、きっと私はいらないと言っただろう。

「え……?ど、どうしてですか?」
「母は隠したくて黙ってたんだろうからさ、いいのよ。下手に話聞いて面倒事にもなりたくないしさ」

 私は、へらりと間抜けないつもの笑い方でひらひらと片手を振った。
 そもそも、警察に無理矢理「自殺」と片付けられるほどの面倒事に首を突っ込めるほどの勇気が私にはないのだ。それが例え母親だとしても、私に「真相を暴く」なんて正義感は存在しない。
 だって、怖いじゃん。
 隠された真相、なんてろくなことじゃない。ハッピーエンドで終わるのは大体がフィクションだ。しかもここはヤクザの世界が舞台、絶対アウトだと想像するまでもなく言い切れる。下手に首突っ込んで追われる身になるとか、そのための犠牲になるとか、そういうことは遠慮したいんでね。
 意図的に隠されたなら、その理由もあるんだからそれはそのまま取っておくのが一番だ、と思う。私は、隠された真相は隠されたままでいいのですよ。小心者には荷が重すぎるぜ全く。

「でも、朴社長は自殺なんかじゃありません」
「うん、だろうね」
「だろうね…? だろうねって、じゃあ、あなたは社長が殺されたって知ってたんですか?」
「知ってたっていうか……普通に考えて、あんな状況で無責任に自殺するような人じゃないじゃん、朴美麗って」

 遥ちゃんもそこはよくご存知なんじゃない? 少し喧嘩腰になった遥ちゃんに、余裕満々で返すと遥ちゃんは眉を寄せて、間を持って肯定した。せやろ?

「仮に自殺する、としたら、人間関係やら身辺整理をしてからやる人だと思うよ。……ま、それ以前にさ、自分の事務所の子達に”所属事務所の社長が自殺した”っていう一大スキャンダルを背負わせるわけだから、絶対しないはずだよ。過去の自分と同じ夢を追いかける子達に負荷をかけるようなこと、あの人は絶対にしないはず」

 ま、色々あった結果、そういうことになっちゃったけどね。
 ぺろりと舌を出してやっちまったぜーという顔をすれば、遥ちゃんは眉を寄せた顔のまま俯き、黙ってしまった。
 ちょっと意地悪し過ぎたかな、とも思ったが、事実なので私もフォローは入れない。そのまま、遥ちゃんに構わず続けた。

「全部私が見てきた朴美麗のイメージだから、きっと私より断然深く語り合った遥ちゃんの中の朴社長とは違うだろうけどさ。母が遥ちゃんに遺書を残したのも、過去を話したのも、全部それは母の意思だよ。でも、母は私に遺書は残さなかったし、過去も一切話さなかったし、自殺のまま終わるように何も残さなかった。っつーことは、私にはバレたくなかった、ってことっしょ?だったらそれはそのままでいいよ。それが母の意思なんだし、例え真相を知ったとしても、きっと私はどうもしなかったよ」

 ちなみに、私の存在を忘れてた、という可能性も無くはないが……いや、それは無いだろうな。だって、おかーさんは最後に家を出る日、珍しく私を抱き締めたんだ。そっと壊れ物を扱うかのように優しく、でも離さない、と言うように力強く抱き締められた母の最期の温もりは絶対に忘れられない。確かに、彼女は私の母だった。
 カラン、と私が持つ器の中でとろりと度数の低い薄赤のリキュールが氷を遊ぶ音がニューセレナの中に静かに響いた。いつの間にやら皆が黙ってしまったらしい。ちょっとシリアスすぎたというか、ドライすぎたかね。
 でも、これが私なのだ。理解してくれとは言わないが、まあそういう娘もいるのだ程度にふわっと認識しておいてくれればいい。
 きっと、こんな娘で真島もがっかりだろう。いや、もしかすると娘だって知らないのかもしれない。単に、昔の女の子供を見に来ただけとか。あ、その線濃厚じゃね?野次馬根性丸出しかい。ぽいわー、真島の兄さんっぽいわー。だけど昔の女の娘ってなんか緊張しちゃって黙っちゃったみたいな?うわー、予想以上に真島の兄さん可愛いわー、これはファン増えるの当たり前っすわー。
 内心にやにや笑いながら、表面は真面目にトゥットルーとお酒を煽っていると、遥ちゃんの「でも、」という小さな声が耳に入った。ン?遥ちゃんを見やると、遥ちゃんは顔を上げ、真っ直ぐ芯の通った瞳で力強く私を見ていた。

「でも、それじゃあ納得いきません。私は、朴社長の真実を名前さんに知ってほしいんです」

 遥ちゃんの真摯な言葉に、私は胸を打たれ……るはずもなく、ああ、若いなあ、と他人事のように思った。
 ぶっちゃけ、知ってるんですよね。だから必要ないんですよね、正直その説明いらないんですよね。そんな私の思いも届かず。届くはずもないんだけど。
 私は一回コップを机の上に静かに置くと、長くなるであろう話を聞くため完全リラックスモードに入った。つまりソファに背中を預けてぐでん、である。実家で使っていたソファ程じゃないが、まあそこそこにふかふかである。

「オーケー、遥ちゃんの思いは受け取ったぜ」
「! じゃ、じゃあ、」
「話しておくれ、朴社長の真実とやらをよ」

 もう自棄だ。多分これ聞かなければ話が進まないやつだ。ひたすら同じ選択肢が繰り返し出てくる無限ループ。
 私はふ、と笑うと、プレイをしていたあの頃を思い出し懐かしい気分に浸り、ひたすら遥ちゃんの朴美麗死亡の真実の話を聞き流していた。
 うんうん、そうですね、真島さんのね、手紙がね、うんうん、そうそう、奪い返そうとね、したんだけどね、ええ、ああ、うん、そうね、萩田って言ったっけね、殺されちゃったんだよね、うん。
 知ってるけどね。
 何度も言うけど!それ私知ってる!知ってるよ!ついでにさらっと元旦那の真島って言ったけどさ!遥ちゃんわざわざ私が真島の兄さんを知らないかもしれないことを考慮して軽くヤクザとは言わなかったが真島の兄さんのこと軽く説明してくれたけど!知ってるよ!
 かといってなんで知ってんだ、とか言えるわけもなく、前世のことを言ってみろ、すぐに神室町名物の一つ柄本先生の元へ連れて行かれそう。

「……だから、この万年筆も、名前さんへお返しします」
「ン゛ッ!?」

 やべっ、寝かけてた。遥ちゃんの言葉に一気に覚醒する。
 ま、万年筆……? なんだそれは、と遥ちゃんに差し出された箱をぱかりを開けると、中にはシンプルな万年筆が入っていた。うん、万年筆だ。当たり前だけど。
 万年筆、万年筆、何かあっただろうか。記憶をひょいひょいと辿っていくと、うっすらだが少し思い出した。これ、真島の兄さんが朴美麗にプレゼンツした思い出の品だったよな?

「ううん、いいよ、遥ちゃんが持ってて」
「えっ、でも……」
「母が遥ちゃんにあげたんだから、それは遥ちゃんのだよ。それに私、万年筆とか先っぽすぐ折っちゃってダメなんだよねー、時代は今やデータ保存だしね」

 正直に言おう、そういう原作イベントのものはなるべく触れたくない。原作の筋を壊したくない、というのもあるが、私にはおかーさんからの遺品とかたっぷりあるし……父親関係でもちょっと欲しくないって言うか……貰えるなら真島の兄さんよりも冴島さんからあの木彫りの熊頂きたいって言うか……。この思い、カウンターで隠れ切れてない可愛いおっさんへ届け!とかここぞとばかりに念を送ってみる。
 私は笑って「あげるよー」と遥ちゃんにいったが、遥ちゃんはまだ渋った。でも、言いにくそうにするのはきっと……”父親”がチラつくためだろう。脳裏にも、視界の端にも。

「……名前さんは、その、お父さんのこと、」
「おとうさん。……私の父の事?」

 私の白々しい反応に、遥ちゃんは「はい」と頷く。
 カタリ、後方からで小さく物音がした。なんてわざとらしい。「兄弟、落ち着け」という冴島さんの小声になってない小声が耳に入った。うん、知らないふり知らないふり。あー、後ろのお客さんにも聞かれちゃって恥ずかし……いや無理だ、無理がある。あんな無理矢理隠れようとする他のお客さんとか絶対嘘。
 顎に手を当てて、ううむ、と少し悩む。どう話そうか。私は真島の兄さんの事を知ってるが、向うは私を自分の子供だとは思ってないだろうし。でもこの感じだと遥ちゃんは私が真島の兄さんの娘だとわかってる風だ。多分おかーさんから聞いたんだろう。
 面倒だなあ、これ。
 私としては、真島の兄さんが私の事を知らないなら知らないままでいてほしい、と思う。だってバレたら面倒臭そうだし……もしこのままどっかに情報が漏れて、真島の兄さんに恨みがある方々に喧嘩吹っかけられたら冗談じゃない。
 かといって知っているとしたら、私に出来ることはもうない。精々「あっ、どうも……」と挨拶して気まずい関係になることくらいだ。真島の兄さんに20年もの間会ったことのない実子を愛するという感情があるとは……思えない……。結婚して子供作って、でも子供を勝手におろされて離婚する、っていう人だから、家族に対しての愛はあるんだろうけど。でもなあ、昔おろしたはずの子供が生きていたら、離婚した意味とか、もうその嫁は死んだとか、色々気まずいどころではすまないだろうし。
 どちらにせよ、まずは真島の兄さんが私を知っているのか知らないのか、それを確認するほかないかー。

「私さ、母から昔の話聞いたことないんだ。若い頃のこととか、父親とのこととか、何も」
「え……?そう、なんですか?」

 ぱちりと大きな目を見開かせ、遥ちゃんは戸惑ったようにちらりと私の後ろ側を見やった。それに気づかないふりをして、私は「そそ」と軽く笑う。
 動揺を含んだ笑みを浮かべ、ちらちらと真島の兄さんたちを見る遥ちゃんに、私の悪戯心はむくむくと膨らんでいく。

「遥ちゃんは私の父親の事、母から聞いた?」
「! あ、えっと、その、……は、い、聞きました」
「そっかそっか。私の父は、私の事、知ってるのかな?」
「えっ……」

 そっちが遥ちゃんを使うのならば、遥ちゃんには悪いがこちらも同じ手を使わせてもらおう。
 少し眉を下げて、困ったような顔をし私は遥ちゃんへ問いかけた。遥ちゃんは、私の想像通り、今日一番の動揺を見せた。げへげへ、ごめんねぇ。文句は後ろにいるテクノカットのおっさんに言ってくれ。
 「ええと、その……」言葉を濁し、援護を求めるようにちらちらと私の背後に目にやるが、当のおっさんたちは何もしようとしないらしい。「おい、いかへんのか」「冴島、今ここで兄さんが出たら遥の努力が無駄になるだろう」「……ふん、確かにな。せやけど、困っとる遥ちゃんを黙って見過ごすのもなんや、気分悪いのお」「それは俺もだ。それもこれも真島の兄さんの所為だからな……」「ほんまやで。兄弟にもこないなとこがあったんやな」うわああ冴島さん発言が格好いい。渋い。ファンです。
 私が内心で歓喜の舞いを踊り始めて数分、遥ちゃんは救援が期待できないことを悟り、こくり、と生唾を飲み込むと居住まいを正した。

「名前さんのお父さんは、名前さんの事、知ってます」

 すう、と息を吸った。

「そっか、知ってんだ」
「はい。……でも、その、まだ信じられないっていうか、ちょっと戸惑ってる、っていうか」
「なるほど。確かにDNA鑑定もしてないしね、違う男の子供かもしれないしね」

 カタリ、また背後で小さく物音がした。
 その音を聞き、私はにやにやと笑う。遥ちゃんからすれば、意味が解らないだろう。
 ふっふっふ、酒もいい感じに入って来たし?今の私の気分は一泡吹かせてやろうと高揚しているだァー!

「ところでさ、母から聞いてたと思うんだけどさ、元々仲良かったわけじゃないけど、私が思春期の頃からちょっと親子仲拗れてたんだよねー。その理由、何だと思う?」
「えぇ?うーん、なんでだろう……。一方的に距離を置いてしまった、って朴社長は言ってたけど……全然わかりません!」

 突然のちょっとした楽しい楽しいクイズタイムに遥ちゃんはノってくれ、少し明るい雰囲気がやっと来た。今までシリアス気味だったからね……普段下品な笑いばっかの場所で働いていたから、ああいう雰囲気にはあまり慣れてないんだ。もうしばらくはいらん。50年くらいシリアスさん家出してて。
 それはさておき、私は遥ちゃんに正解を応えるべく、少し長めの前髪をかきあげて遥ちゃんに見せた。

「この目、父親にそっくりなんだと。小っちゃい頃からも似てたらしいけど、思春期頃になって更に似たらしくてね、思い出すらしいよー」
「あ、本当だ、確かに似てるかも……!」

 カタリ、背後で物音が……ってもうこの流れ面倒だな。「なんや、兄弟に目が似てしもうたんか……女の子やのに気の毒なこっちゃで」「ああ。でも、少し気になるな。兄さんもそわそわするな、バレるだろう」気になるならいっそ来い。っていうかもうバレてる。最初からバレバレ。あんたそれで隠してる気だったとは……流石だぜ堂島の龍……。変なところで感動するのは仕様です。

「名前さん、お父さんに会いたくないんですか?」

 そんなところでまた突然ぶっこまれた言葉。
 ご本人を背にして何を言うか。これはどういう風に答えるのが正解なのか、全く持ってわからないが、私の答えはただ一つである。

「いや、別に」

 ガタン!今までよりも一際大きな物音がした。それに少し驚き肩が跳ねたが、私は気付かないふりをしてあげた。

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