ALBATROSS

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オールド・トム2

元はコレ


こんにちはー!と元気な複数の子供たちの明るい挨拶に、ポアロの店内が賑やかになる。おやつどきから少し過ぎた時間帯、お腹空いたと零す子供たちに安室はにこりと笑いケーキとジュースの準備をした。「ブレンドを」「お前に出すコーヒーはない」「ホォー……私は客ですが」わざとらしく肩を竦めるあか──沖矢に舌打ちをし、仕方なくコーヒーの準備もする。コナンくんが呆れた顔でこちらを見ているが、こればかりは生理的なものゆえに許して欲しい。子供たちからは見えないところでやるくらいの配慮はしている、問題ない。あまり眠れていない疲れた頭で、きっちりとした判断は出来ないのだ。

「あ、安室さん、4人席予約」
「予約?」
「蘭姉ちゃんが友達連れてくるんだって」
「それは賑やかになりそうですね」

子供たちが座る席から程遠くないソファー席に予約のカードを置く。ほとんど貸切かというくらい身内ばかりの店内に、安室の警戒心が少し和らぐ。ほのぼのとした空間に、日本の平和が表されているようで──しかし、そんな安寧もすぐにぶち壊されることになった。カランカラン、ドアベルが鳴る。こんにちは、と蘭ちゃんや園子ちゃんの明るい声の後ろに、黒髪の女子高生が二人──一人はショートボブのボーイッシュな少女、赤井秀一の妹と、もう一人──安室の体が固まった。どうしてここに、どうして赤井の妹と、どうして蘭ちゃんたちのすぐそばにいるんだ──オールド・トム!

「世良さんは前会ったけど、その人は…?」
「紹介するわねコナンくん、名字名前ちゃんっていうの。転校生なんだ」
「どうも、話は聞いてるよ。よろしく、コナンくん」
「うん!よろしくね、名前姉ちゃん!」

よろしくしちゃだめだコナンくん!食われるぞ!しかし安室の体は動かない。かろうじて笑みを保っているだけだ。あら沖矢さん!園子ちゃんの嬉しそうな声に、オールド・トムの視線が沖矢へ向く。まずい、とても、まずい、バレたら終わりだ。沖矢もまた内心動揺しているのか、頬がひきつっている。妹の隣に殺人鬼がいるのだ、当然だが──残念ながら、今すぐ逮捕出来るものではない。今までが全て泡になってしまう。耐えるしか、ないのだ。

「この人は大学院生の沖矢昴さん。新一の家に今住んでるの」
「──ふうん、そうなのか。どうも」

沖矢昴、にこりとするだけで何も言えず。笑えただけまだいいのだ。オールド・トムに関しては。沖矢の様子に、安室が少し調子を取り戻してきた。水と手拭きを持ち、テーブルをセットする。席についたオールド・トムはこちらをじっと、獲物を狙うかのように見つめてくる。胃が痛い。笑みを張りつけたまま、メニューを差し出した。

「いらっしゃいませ、本日こちらのケーキがおすすめです」
「あ!そうそう、この人は安室さんって言ってね、お父さんのお弟子さんでもあるの」
「あむろさん」
「初めまして、安室透といいます。探偵が本業でして、毛利先生にお世話になっているんです」
「探偵……なるほど。お似合いだな」

オールド・トムがわざとらしく唇の端を上げて、無理やり笑う。表情を作るのが下手くそすぎる。そして、初対面の相手に使うべきではない台詞だ。確かに安室さんシャーロック・ホームズみたいな格好似合いそう!と勝手に盛りあがってくれる園子ちゃんに感謝しろ。安室は愛想笑いで流した。
ちょうどお腹も小腹程度に空く時間であるし、女の子同士が話すのに甘味は欠かせないエッセンスだ。おすすめということもあり当然ケーキセットを頼むという3人に、オールド・トムはブレンドのみを言う。食べないの?という質問に、彼女は一瞬返答に詰まった様子に安室は内心ため息を吐いた。よかった、「毒の処理が厄介だ」なんて言い出さなくて心底ホッとした。しかし言い訳が思いつかないらしい。

「もしかして、甘いものは苦手ですか?」
「……ああ、うん、そう、それ」
「でしたらこちらのコーヒーゼリーはいかがでしょう、甘さ控えめですし食べやすいと思いますよ」
「いやいらな」
「いかがでしょう?」

いいから頼めオールド・トム。空気を読め、そんなので女子高生をやっていけると思っているのか。安室の無言の圧に不思議そうに首を傾げたオールド・トムは、そう言うのなら、と大人しくコーヒーゼリーを頼んだ。コナンくんから突き刺さる視線に言い訳を考えつつ笑みを剥がすことなく準備をする。「名前ちゃん、甘いもの苦手なんだ?」「うん」「好きな食べ物は?」「肉」カシャン。安室の手から皿が滑った。割れていない、セーフだ。失礼しましたと苦笑して何事も無かったかのように耳をすませる。「肉食系女子ってことね」「なんの肉が好きなんだ?ささみか?」「肉の種類か?部位か?」なんだその質問は。カシャン。ソーサーが滑り割れずに着地した。セーフだ。

「種類……種類、は…………なるべく、雑食のものだ。肉は心臓に近い方が身が締まっていて美味い。ああ、それとレアがいいな」

ガシャンッ。安室の手元と、それから沖矢のテーブルの方からも音がした。フォークの束がシンクに散らばっている。沖矢は水をこぼしたらしい。布巾を持っていくと無表情の棒読みで謝られた。安室もしっかり笑みを作れているかわからない。雑食ってなんだ、雑食って。人間か?人間のことか?一般人に人間と答えなかっただけ褒めるべきなのか?心臓に近い方が?身が締まっている?締めているの間違いだろう、肉用の人間にはわざわざ拷問しやがって。レアどころか血が滴っているのが好きなんだろう、血の味が。だらりと安室の背中に汗が伝う。

「……へえー!すごい、本当にお肉好きなんだね!」
「こだわりが強いのね、驚いた」
「雑食の方がまずいんじゃないのか?」
「風味というものがあるだろう」

女子高生たちが純真であることにここまで感謝したことは無い。そして風味などと洒落たことを言うオールド・トムを心底殴りたくなった。人間の肉の風味を味わうソムリエ気取りかこのサイコパス。

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