「いってきまーす、あ、今日ちょっと帰り遅いかもしれないけど気にしないでね!」

駅近くに整備された平穏な住宅街。その中の1つの家のドアを開けた女性が、急ぎ気味にパンプスを履きながら玄関を飛び出していく。

「いってらっしゃい桜都花、気をつけてね」

「遅くなるって何なに、おねーちゃん恋人でもできたの?男?女??」

「できてない!ってかそもそも女って何よ、ソッチ系の趣味はないってば」

後ろから見送る母親と高校生の妹・小百合に返事をしながら、大卒社会人2年目の桜都花はいってきます、と言い残してドアを閉めた。柔らかな日差しが降り注ぐ駅までの道は、今日も学校や会社へと向かう人で溢れている。

(今日もいい天気だなあ……っと、今日の会議の資料読んどかないと)

駅へと向かう道すがら、桜都花は鞄の中を漁る。探していた資料は少しだけ折れ曲がっていたが、鞄の奥底にちゃんと入っていた。常備しているお気に入りの飴を口に入れた桜都花は、紙についた皺を伸ばしながら目を通していく。歩きながらの書類チェックは仕事場までの日課だった。

信号を渡った先に、最寄り駅が見えてきた。

駅に着いてもなお、桜都花は視線をほぼ書類に落としたまで改札を通過する。左側の階段を登れば、乗る予定だった電車がちょうどホームへと入ってきていた。順番待ちの列に並び、最後尾車両に乗り込む。あとは到着まで20分ほど電車に揺られるだけだった。

(座れるじゃん、珍しいな〜)

いつもは混んでいて座れない座席だが、今日は結構空いていた。祝日と土日の間で有給を取った社会人が多いのだろうか、いつもより学生の姿が目立って見える。会議さえなければ桜都花も同じようにしたかったが、嘆いても仕方のないことだった。

せっかくなので空席に腰を下ろす。日光に照らされたシートは絶妙な温もりになっていた。その心地良さが桜都花の眠気を誘う。

「……アラームかけて寝よっかな」

スマートフォンのアラーム機能を18分後にセットしイヤフォンを装着すると、小さく欠伸をして目を閉じる。1分もしない間に、桜都花はまどろみの中へと落ちていった。





[ → ]

[BACK]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -