カーテンの隙間から陽の光が差し込む。午前9時を少し過ぎた頃、エリオはホテルの自室でまだ眠りについていた。

今日は土曜日で学校は休みだ。それを見越して、昨晩エリオは深夜に立海周辺の調査を行った。結局成果はなく、明け方過ぎにホテルに戻ってきたエリオはそのままベッドへと倒れ込んだ。



ジリリリリリリリ!



そんな部屋の静けさをぶち破るように、任務用の携帯端末がけたたましい音を発する。あまりの爆音に飛び起きたエリオは、携帯端末の画面に表示された名前を見て一気に目が覚めた。

「スクアーロ作戦隊長……?!」

まさかかかってくるとは思わなかった電話に、脳内を驚きと焦りが行き来する。任務の進捗状況を聞かれるのだろうか。だとすれば何も答えられない。

それでもこのまま出ないわけにはいかず、エリオは恐る恐る通話ボタンを押した。

「もしもし……?」

「う゛お゛ぉい!エリオ、てめー俺からの電話にすぐ出ねーとはどういうつもりだぁ!?」

「す、すみません!!!」

想像通りの声量と怒りの言葉に、一瞬にして恐怖がエリオの頭を支配する。さっきまで寝ていた自分が恨めしい。その時間を調査に当てていれば解決の糸口を見つけられたかもしれなかった。

「まあ、今回は用件があってかけた。そう畏まらなくてもいいぜぇ」

「用件、ですか?」

スクアーロの言葉を聞いてエリオはやっと納得した。幹部格であり、ましてや自分の直属の上司でもないスクアーロが一隊員である自分に任務の進捗状況に関して電話をかけてくることなど、よくよく考えれば有り得ない。それでも、スクアーロ自身が電話をしてくるからには何か重要な用件なのだろう。エリオはベッドサイドに置かれていたホテルのメモ帳を手に取った。

「ああ。そっちの時間で午前11時、ホテルのロビーにお前を訪ねて男が来る。そいつからこれとは違う携帯端末を受け取れ。受け取れば詳しいことはすぐに分かる」

電話越しのスクアーロは心底面倒くさそうな声で説明した。

「分かりました、……しかし、どうしてわざわざスクアーロ作戦隊長が私に?」

「てめーの上司が何かの拍子にボスさんの逆鱗に触れて、城の中が一大事なんだよ!!その流れでレヴィのアホがマーモンのコレクションを破壊しやがって、キレたマーモンの幻術に当てられた一般隊員がぶっ倒れてルッスが看病中だ」

ほらよ、の一言の後にスピーカーモードにされた携帯端末からは、凄まじい爆音とともに、何かが飛び交うような音や物が壊れる音、叫び声が聞こえてきた。どうやら電話の向こうは相当酷い状況になっているらしい。

(あ、ベル隊長の声だ……)

たくさんの音が乱立している状況の中に、楽しそうなベルの笑い声が混じって聞こえた。特徴的な笑い方をするせいで、どんなに騒がしい中でも聞き分けられる。たった数日離れただけなのに、エリオはその声がひどく懐かしく感じた。

「一体ベル隊長はボスに何を言われたんでしょうか……?」

「そんなもん俺が知るわけねーだろーがぁ!」

怒鳴るスクアーロの声は心なしか疲弊しているようだった。



「とにかく用件は伝えたからな、遅れんじゃねーぞぉ!」

「はい、必ずやご期待の通りに」

てめーらいい加減にしろぉ!!というスクアーロの怒声が少しだけ聞こえて、電話は切れた。

「スクアーロ作戦隊長、大丈夫かな……」

恐らくこれからスクアーロは事態の処理に走り回るのだろう。エリオはその身を案じて、通話が終了した携帯端末の画面を見つめた。端末にはスクアーロ以外にもう1人、連絡先が登録されている。しかし、これまで一度もその番号から連絡が来たことはない。

(ベル隊長に迷惑かけないようにしないと。早く終わらせてまた任務に随行したい)

ふと見ると、壁の時計が10時20分を指していた。今からならシャワーを浴びても約束の時間に間に合う。エリオは足元に広げていたトランクケースから着替えを引っ張り出すと、バスルームへ急いだ。





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