午前10時55分、エリオはホテルのロビーに置かれているソファーに座って来訪者を待っていた。何パターンかある内でより私服に見える隊服に身を包んでいる。ロビーはチェックアウトをする宿泊客で混雑していた。
時計が少しずつ11時に近づいていく。
(30、29、28……)
心の中で1秒ずつカウントしながら、何気なく周りを見渡す。海外からの旅行客のような団体が、楽しそうに売店でお土産を物色している。今のところ、目的の人物は見当たらない。
(10、9、8……)
座っていたソファーから立ち上がると、エリオは団体客に近づいて、さも自分もその一員であるかのようにお土産を眺め始めた。脳内のカウントが0に近づいていく。
「すみません、これ落としましたよ?」
11時ジャスト、1人の男がエリオに携帯電話を差し出した。見覚えのないそれを、エリオは笑顔で受け取る。
「ありがとうございます、助かりました」
「どういたしまして。混んでますし、落とすと見つからなくなりそうですね」
いかにも好青年を演じて、男はその場を離脱していった。
***
エリオは受け取った携帯電話を手にホテルの自室へと戻ってきた。
「受け取れば分かるって言われたけど……」
携帯電話には何のデータも入っていなかった。機械に詳しくないエリオにはそれ以上どうすることもできず、ベッドの脇に置いて電話が鳴るのを待っている。
(わざわざ別の端末を渡してまで話さなきゃいけない人がいるってことかな)
そんなことをぼんやり考えていると、不意に携帯電話が着信を告げる音を発した。
「はい、もしもし」
警戒しつつ、それでも相手には何も悟らせないように穏やかな声を心がける。もしかすると任務の内容に大きく関係しているのかもしれない。
だが、電話の向こうから聞こえてきたのはエリオが想像もしていなかった人物の声だった。
「やあエリオ、久しぶりじゃなあ」
「きゅ、9代目……!?」
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