DQ6 | ナノ
 19-3

「…きて、しまったんだね」
イーザは崖下の、夢の世界のランドがいつも昼寝をしていた場所にいた。黄昏ながら、広い海の地平線を眺めている。
 レック達は彼の哀愁漂う背中をじっと見つめていた。
「わかってるよ…君は…レックって名前でしょ」
 涙声でイーザがつぶやいた。
「…知ってるんだな」
「そりゃあね。夢で…散々君の事を見ていたから」
「………」
 その夢の存在が自分なんだと改めて実感した。
「それに…さっき君に触れた時、なんとなくわかった気がする。ムドーと初めて戦う時は…ボク達は一人だった」
「そうだ。俺達はムドーのまやかしにやぶれ、心と体が乖離しちまったんだ」
「そして…ムドーが倒れた今…ボクと君は戻らなければならないんだってことも…知った」
 涙顔のイーザは振り向く。
「わかってるよ!一人にならなきゃいけないことくらい!でも…でも…怖いんだ。ボクらが一つになった時、ボクが君になるのか、君がボクになるのか、あるいはボクらじゃない別の誰かになってしまうのかが…!」
「………」
 自分だって怖い。
 この人格が消えてしまったら、もう自分はレックじゃなくなってしまう。その名前すらなかった事にされて、時と共に忘れ去られてしまうんだ。
 今まで見てきたもの、感じたもの、さまざまな経験、そして…内に秘めている特別な感情さえも…消えるかもしれない。でも、自分たちが一人に戻らない限り、本当の自分を取り戻せない。
 本当の勇者の覚醒には至らない。
「だからさ…お城の父上や母上には…君から伝えておいてほしい。今更…あの子を…ターニアを一人になんてできないし…とにかく!ボクの事は放っておいてほしいんだ…!忘れてほしい!…この今の幸せを…壊したくないんだ」
「お前……っ!」
 レックが失望の眼差しでイーザを鋭くにらむ。
 本当に根性なしだなと言いかけたその時、大地が大きく揺れた。
「…な、なんだ!?」
 全員が狼狽える。
「あ、見てよっ!村がっ…!」と、バーバラが指さす。
 ライフコッドの村が赤く燃えていた。
「イーザ兄ちゃーん!だれかあ!」
 ライフコッドの子供が息を切らしてやってくる。
「ど、どうしたの?」
 イーザが訊く。
「村に魔物がおそいかかってきたんだよ!」
「「なんだって!」」と、同じ顔が同時に声をあげた。
「すぐに戻るぞみんな!村を守らなければ!」


 ライフコッドは大勢の魔物に占拠されていた。あちこちに火をつけ、村の人々を襲ってまわっている。
 民家だけじゃない。酒場や萬屋、武器屋などにも火が付けられた。
 燃え盛る炎と魔物の奇襲に村人は必死に逃げ惑うばかり。
「さあ殺せー!村人を八つ裂きにしろー!」
 魔物が村人の一人に襲い掛かろうとする。
「やめろー!」
 レックが走りながら背中の剣を抜き去り、青い魔物を斬りつけた。
「ぐはあ!くっ…貴様がレックかキキ!我ら魔族の脅威となる勇者のガキは、やはりここにきていたかキキ」
 魔物はずしおう丸とバーサクオークだった。
「俺を…俺を狙ってきたのか貴様ら!許せないっ」
 レックは怒りを滾らせる。
「許せないならなんだというんだキキ、レックを殺せキキ」
「わかっているキキ」
 バーサクオークが鉄球を振り回す。
「そんなもの…こうだ!」
 レックは鎖の部分を剣で切断した。
「げっ…!」
「ミレーユ!」
 名前を呼ぶとレックが退き、背後にいた彼女のサークレットが輝く。掌を敵に向け叫んだ。
「べギラゴンッ!」
 掌から燃え盛る業火が唸り、二匹の魔物を包みこんで奴らは燃え尽きた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい!ありがとう」
 礼を言うと、安全な教会へ走って行く。
「はやく逃げろッ!魔物は俺達が蹴散らす。さあはやく!」
 レックが大声で促し、教会へ老人や女子供を誘導させた。
 事情を知らない村人は「あれがイーザかい?信じられんくらい勇ましいな」と、感嘆の声をあげている。
「みんな!手分けして逃げ遅れている人を助けるんだッ!急げ!」
 村中に複数魔物がいる事で、仲間達は一斉にバラバラに散った。それぞれが魔物と対峙する。
「キキーっ!人間どもめーキキ!」
 村の入り口付近に向かったチャモロとハッサンは、背中合わせで周りの敵をにらむ。
「村を襲うなんて許しません!ええい!バギィ…クロォースッ!」
 チャモロの真空魔法が、全身鎧の重そうなてっこうまじんと、ずしおう丸数匹を一度に吹き飛ばしていた。
「はああ!回し蹴りからの爆裂拳だあ!」
 ハッサンの連続技が、複数いるバーサクオーク達を殴りつけ、すべてを蹴散らす。
「さあ、はやく逃げてください!安全な教会の方へ」
「おーし!次行くぜ」
 二人はその場にいた村人を逃がし、残りの魔物を蹴散らしに向かった。
「さあ、あたしの華麗なるメダパニダンスをくらいなさーい」
 村長の家付近では、バーバラの元踊り子としての特技がいかされた。魔物たちは一斉にメダパニで混乱し、同士討ちをはじめている。そこへ、躍り出たアモスが華麗に五月雨剣を放ち、バーバラもムーンサルトで仕留め、一度に数匹を絶命させてカタをつけた。
「大丈夫ですか?」と、腰を抜かしている女性に、アモスが手を差し伸べた。
「わあ…あんなの初めて見たわ。あなた達、強いのね」
「さあ、はやく教会に逃げて。あたし達が魔物を全部蹴散らしてあげる」



 井戸の前付近では、ランドが魔物相手に必死でターニアの家に近寄らせないように、石を投げたりしてやりすごしている。
「くっ…こいつ…強い…俺の力じゃあ…とても…」
 ランドは腕を不意に怪我し、全身は生傷だらけだった。このままでは…と、焦る。
「ランド!」と、背後からレックとミレーユが走ってくる。
「ギギッ!きたな。我らを仇なす勇者め!」
 ずしおう丸とボストロールが待ち構えていた。
「い、イーザが勇者…?」
 ランドが驚いている。
「ランド!お前は隠れてろ!はあああ!」
 ボストロールを目にもとまらぬ速さで斬り捨てて絶命させる。
「で、でもよ…」
「いいからあなたは離れていなさい!」と、ミレーユが声を荒げる。
「キキ!しねえ勇者ァー!」
 ずしおうまるが咆哮しながら突進してくる。
レックも迎え撃つようにして剣を構える。
「バイキルトッ!」
 ミレーユが攻撃力を二倍にする補助魔法を唱え、レックの攻撃力を底上げする。
 一人と一匹が交差するその刹那、激しい金属音がぶつかる音がした。両者背中を向けあって動かない。
 その直後、ずしおう丸の体が傾き、「ぐはあ…」と、呻き声をあげて絶命した。
「イーザ…オマエ…」と、あまりのすごさに言葉が出てこないランド。
「馬鹿野郎!はやく逃げろって言っただろうがッ!」
 レックが怒鳴る。
「いや…そ、それより今!ターニアが…ターニアの家に魔物が入って行ったんだ!」
「なんだとっ!それをはやく言えっつーの!いくぞミレーユ」
「ええ!」
 レックとミレーユは走った。



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