DQ6 | ナノ
 13-3

 客席にいる大勢の魔物めがけてチャモロのバキマが吹き荒れ、アモスが変身術を使って群衆を翻弄し、ハッサンが得意の連撃殺法で縦横無尽に叩き伏せていく。魔物達は雑魚なだけあってそれほど強くはない。
 突然の革命騒ぎに、何が何だかわからない魔物達は騒然としている。
 バーバラは捕まった人々を出口へ誘導し、外へ逃がす役割を担いながら、自らもベギラマで応戦。
 すっかり大地を埋め尽くさんばかりの敵は半分に減りだしていく。隙を見て逃げ出す臆病な魔物も出てくる有様だ。
 レックは仲間達が魔物共と応戦している中で、どさくさに紛れるようにミレーユを横抱きにして掻っ攫い、安全な場所へ彼女をおろす。
「ありがとうレック」
「あんたはここにいろ」
「でも…」
 心配そうに見つめるミレーユ。
「大丈夫だ…オレに任せろ…。奴を…必ず倒す」
 吸い込まれそうな瞳に、ミレーユは女としてドキンとした。思わず見入ってしまうほどに。
 その精悍めいた声根と雰囲気は、今までのレックとは違っていて。普段の漆黒の瞳が、いつの間にか空より澄んだ蒼眼に変わっていたのである。セレストブルーの瞳が凛々しい。
 ムドーの時の様に勇者の覚醒モードにスイッチが入り、大人びた顔つきを見せた。
「…レック…」
「下がっていろ…」
 小声でつぶやき、そして正面を向き直る。
「そうか。こんなに血が騒ぐのは貴様らのせいか…何者だ」
 ジャミラスがレックを見下ろした。
「言わなくてもわかっているだろう、ジャミラス」
 巨大な鳥の化け物を睨みつける。
「…そうか、貴様…あのムドーを倒した勇者か」
 噂には聞いていたが、彼から漂ってくるこの聖なるオーラは紛れもなく勇者特有のもの。
 本当に勇者とやらは存在していたらしい事を知るジャミラス。
「ふふふ、まさかここで出会えるとはな…運がいいようだ」
「そうだな…」と、レックは不敵に笑った。
「貴様はここでオレに滅ぼされる運命だ。探しに行く面倒が省けて、オレにとっても運がいいようだよ」
 レックが破邪の剣を構える。
「ふふ…ははははは…ほざけ!」
 自慢の炎の爪をレックの体めがけて振り下ろす。
 腕をかすめ、二の腕から吹き出すように鮮血が流れ落ちる。
「どうだ…おれさまの爪は。鋼鉄などあっさり斬り裂く威力だ」
「…それがどうした?この程度の傷、オレはかすり傷にも思わないさ」
 余裕に笑う勇者の若者。
 底知れない力をまだ秘めているようで、ジャミラスが妙な焦りを感じてドッと炎を吐く。
「こんなものか…ジャミラスよ」
 レックが鬼気迫る顔で睨み、炎を破邪の剣の刃で受け止める。
「人の欲に付けこみ、人の魂を食らい、人を絶望に追いやった貴様の力量はこの程度なのかッ!傲慢にも程があるぞジャミラスッ!」
 刀身に奴の炎の力が宿り、炎の剣ができあがった。
「なっ…!?」
「貴様の行った非道の数々、あの世で後悔するがいい!オレが地獄という名の黄泉の国へ叩き送ってやる…覚悟するんだな」
 炎を纏った破邪の剣にすべてのエネルギーを込め、レックは走る。
 高らかに飛びあがり、ジャミラスの脳天めがけて振り下ろした。
 ジャミラスは驚愕な顔を浮かべ、硬直したまま炎の剣を真正面から受ける。そして、凄まじい一撃から「…手ごたえあり…」と、レックは静かに着地した。
 剣を鞘に戻したと同時に、ジャミラスの肉体は上から下までピシピシと亀裂が走り、巨体は炎に包まれながら真っ二つに割れた。
 断末魔の叫びと共に、二つの肉塊は空気中に燃え尽きて消えていく。儚いように。
 魔王を一刀両断した見事な火炎斬りであった。
「レック!」
 ミレーユが隣にかけつける。
 すぐに二の腕の怪我に向けてベホマを唱えた。
「…ミレーユ…サンキュー…」
「平気なの?気分は?」
「ああ…ただ…ちょっと…疲れちまってさ…」
 力なくしたようにレックの瞳はうつろだった。
 蒼の瞳が徐々にネイビーに染まり、うっすらと元の漆黒に戻っていく。そして、ぺたりと地面に座り込んだ。体が鉛の様に重く、瞼も重い。ひどい眠気が襲ってきた気分だ。
 視界にミレーユの姿が何重にもぼやけて見える。
「…ごめん…も…だめ、だ」
 そのまま大きく息を吐いて気を失った。
「…レック!」
 ふらつく彼を抱きとめ、そのままミレーユは抱きしめた。
「…っ…もう…また無茶して…バカ」
 勇者の覚醒というものは、ものすごい精神力と体力を消耗するらしい。慣れるまで、まだまだ当分は時間がかかりそうだ。
 ミレーユは抱きしめる腕に力を込めた。
「おーい!大丈夫かぁ?」
 ハッサン達が手を振ってやってくる。
「親玉が倒されたせいか、魔物たちが一斉に逃げていきましたよ」
「ジャミラスという化け物とは無縁な魔物も結構いたようです」
 アモスやチャモロが生傷だらけの姿を見せた。
「ていうか、レック大丈夫なの〜?」
 バーバラがレックの顔を覗きこむ。
「ええ。疲れたみたいだから眠っているのよ」
 ミレーユの膝の上で、レックは静かに穏やかな寝息を立てて眠っている。
「こうしてしゃべらずに眠ってれば、相当イイ男なのにねーレックって。口が悪い所が玉にきずだけど」
「けっ、男選びにはうるさい奴だな〜。ようは顔だけじゃなく、性格も重要って事だろ」
「それはわかるけど、彼女歴年齢のハッサンにだけは言われたくないし〜」
「ぐはっ!ひでー一言だぜ」
 途端、どっと和んだような笑い声が響き渡った。
「あ、みなさん!あれ、見てください」
 チャモロが指をさす上空には、キラキラと透明な魂の欠片が魔王の呪縛から解放された様にあちこちに飛んでいく。
 今までの儀式で捕まった人々の魂だろう。
 最後の方に、どこかの国の王のような姿をした者がにっこり顔を見せ、空の彼方へ飛んで行った。
 まるで「ありがとう」と言いたそうにして。
「生贄になった人々の魂が、あるべき場所へ帰っていくのでしょう」
 チャモロが手を合わせて合掌している。
「幸せの国だなんて…世の中そう簡単に楽な方向へは転ばないって事ですね。町の人々も少しはそれを理解してくれたらいいんですけど」
 アモスは微笑む。
「さあ、帰りましょ。人々を町へ送り届けなきゃ。それに、レックをはやくベッドへ寝かせてあげたいし」


 カルカドへの帰路は、元船長の老人がいたおかげで無事帰れそうだった。
 今まで捕まっていた人々も含めて、大勢の人々が幸せの国という甘言に騙された己を反省し、これからはまともに働いて生活することを決めたそうな。
 眠ったままのレックも半日程度で目を覚まし、怪我も航路中に順調に回復していた。
「いや〜これも勇者様のおかげです。病気がちな妻の薬を買いに幸せの国へ行ってみたはいいけれど、やはり名前からして胡散臭い事に気づくべきでした」
 一人の青年が祝い酒を飲んでいる。
「あなたはもしかして…カルカドに小さなお子さんがいらっしゃいますか?」
 ケティルの事を思い出した。
「え、ああいますよ。まだ五歳くらいの…いや、もう6歳になっているでしょうか。元気にしていればいいのですけど」
「…一番に逢ってあげてください」
 レックは強く訴えた。


 カルカドの町へ帰ってくると、町の人々が大いに身内の帰りを喜んだ。
 やはり、幸せの国だなんてものは嘘っぱちの国だったこと、勇者が現れて親玉を退治してくれた事など、しばらく喜びの話題は尽きなかった。
 もちろん、カルカドにいたケティルと父親も感動の再会を果たしていた。
「お父ちゃんなの?…お、お父ちゃぁああん!」
「おお、ケティル!おれの息子っ!」
 親子は抱きしめあい、感極まって嬉し泣きをしあった。
「あの子、ちゃんとお父さんにあえたみたいでよかったですね」
 アモスが涙ぐんでいる。
「お父さんの方は、その奥さんが病気で亡くなったって知って、また悲しむ事になると思うと…やっぱり可哀想…」
 バーバラが悲しげに言った。
「お兄ちゃん!」
 ケティル少年がレックに気づき、勢いよく抱きつく。
「…よかったな。お父さんにあえて」
 レックがしゃがみこみ、頭を優しく撫でる。
「お兄ちゃんはやっぱり勇者様だったんだね…。ありがとう、勇者様。ぼくのお父ちゃんを助けてくれて」
「…これから、お父さんと仲良くな」
「うんっ!」
 力強く頷くと、ケティルは最高の笑顔を見せた。
「よーし。今日は一日俺達と鬼ごっこで遊んでやるよ」
 レックがケティルを持ち上げ、肩車をしてあげた。
「ほんと?わーい」
「で、最初の鬼はハッサンよろしく」
「げっ!俺も参加するのかよっ」
「当然。全員強制参加な。今日はカルカド中の子供たちと遊んでやるんだから」
「く…ならば、小さい頃鬼ごっこの天才ハッちゃんと呼ばれた実力を見せてやるぜ!缶蹴り、かくれんぼ、色鬼、なんでも来いやあ!」
 当然ながらミレーユやチャモロ達も参加させられて、カルカド中の子供たちと茜空になるまで鬼ごっこを楽しみ、町に笑い声がいつまでも響いていた。


十三章 完

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