DQ6 | ナノ
 11-3

「あなた達は……とっくにこの町を去ったかと思いましたが…」
 理性の種を持ち帰り、再びアモスのお宅へお邪魔していた。
 ベッドの上で、依然とアモスは痛々しい重そうな体を休ませている。前よりひどい怪我のようだ。そばにいた愛犬のハトラッシュが悲しげに鳴いている。
「アモスさん、あなたにいい薬をお持ちしたので、ぜひ飲んでほしいんですよ」
 レックがそう言うと、チャモロが薬を調合するための道具や器材をテーブルに出した。
「薬、ですか?」
「ええ。今からすりつぶすので、ちょっと時間がかかりますが待っててください」 
 すり鉢でチャモロが理性の種を潰し始めた。その様子をアモスは怪訝そうに眺めている。一体どんな薬なのだろうと不思議に思いながら。他の仲間達はアモスの家の掃除をしたり、ハトラッシュの散歩をしたり、身の回りの世話を行った。
 そんな数時間後、黒い粉末状にしたものを持ってきた。
「これを飲んでください。大丈夫です。よく怪我にききますので」
 チャモロが手渡す。
「…不思議な匂いですね。では、お言葉に甘えていただきます」
 アモスが一気に飲み干した。
「う…!?こ、これはっ…なんて苦い…!ぅ…ぐわああー!」
 怪我などおかまいなしにベッドから飛び出し、喘ぐように苦しみだすアモス。みるみるうちに彼の体が大きくなり、魔物に豹変していく。
「え、ちょ…ちょっと!」
「うそっ!アモスさんがまた魔物になっちゃった!」
「ねえねえ、治ってないのぉ?チャモロどおゆことお!?」
「そんな…!理性の種はどんな魔物の怨霊も祓う絶大な効果があるはずなんですが…っ」
 レック達の顔が最大限に引きつっている。
 狼狽える仲間達を前に、またもや魔物と化したアモスとの再戦かと思われた。もうだめだ…と、武器を手に取ろうとした時、魔物はレック達を無造作に襲うことなく輪郭を失い、元の青年の姿に戻っていく。
「あ、あれ…あれれ?」
 身構えていた一同は呆気にとられている。
「あはは、すみません。驚かせちゃいましたね。冗談です」 
 アモスはおちゃめに笑っている。仲間達はぽかーんとしたまま棒立ち状態。
「じょ、冗談…?」
「冗談って…オイオイ」
 ハッサンがぺたんと床に座り込む。
「もーいきなり魔物になるなんて笑えない冗談だよ〜!本当にびっくりしたんだからぁ。やめてよねーそーゆーの」
 バーバラは腰を抜かしたまま溜息を吐いた。理性の種の効力はちゃんと効いていたようで、夢遊病どころかアモスの傷すらも完治していた。
「いや、本当にすみませんでした。ただ、確かめたかったんです。自分が魔物だったのかどうかを。日に日に増えていく身に覚えのない怪我を見て…変だなって。それで、怪物に変化していたのはどうやら幻覚ではなかったようですね。知らないうちに、私は町を荒らしまわり、人々に迷惑をかけていたようです」
「でも、それは仕方のない事ですよ…町の人もわかってくれていましたし」
「いいえ。それでも町の人に多大な迷惑をかけた事には変わりません」
 アモスはきっぱり言い放った。
「それで、私はこの町を去ろうと思います」と、突然宣言した。
「え、そんな…!」
「ただ、去るんじゃないんです。旅をしているあなた達のお供にさせてくれないかと思っているんですよ」
「え、お供って…」
 アモスが仲間達をじっくり見渡す。
「聞いた所…あなた方は、世界中に散らばる魔王や、魔物退治をしながら旅をしているとの事。そして、魔王ムドーを倒された勇者一行だという事も知りました。そんなあなた方と、旅がしたいなと思っていたんですよ」
「アモスさん…」
「それにこの力、魔物になっても理性を保ったままでいられるようになったし、自由自在に魔物にもなれるようになりました。自分はこの力を世界平和に役立てたいと思うんです。依然と町の外にいる魔物が消えないのも…ムドー以上に強者がいるからだと思っていましたし。あなた方がいなければ、いずれ私はこの町を滅ぼしてしまっていたでしょうから。だからこそ、感謝とお礼も含めて…」
 その瞳には、確かな決意と闘志が宿っていた。
「アモスさん…いいんですか?この旅はきっと辛い…」
「勇者様と旅をするんです。危険などは承知の上ですよ。ぜひ、仲間に入れてください」
 アモスはにっこり笑った。

 翌日、町中の人々がアモスの病気が治った事を喜ぶ反面、旅に出てしまう事を寂しげに思っていた。すこしどんよりムードが漂っていたが、ムドーを倒した勇者一行のお供になる事を話すと、町の人々は切り替えたようにこぞって喜んだ。
 この町の英雄アモス様が勇者様と組むなら、世界平和もまちがいない百人力だ、と。
 人々は激励しながら笑顔で彼を見送る。
「アモス様…どうか気を付けてね!いつでもモンストルに帰って来てね」
「ああ。必ず」
 見送りに来ていた小さな子供の頭を撫で、町の英雄アモスは立ち上がる。
「さあ、行きましょうか。レックさん、みなさん」
 新たな仲間が加わり、この前とは打って変わってすがすがしい気分で町を後にしたのだった。



「アモスって、大勢の魔物から町を救ったくらいだから、相当強そうだよね」
 バーバラが荷馬車で話している。
「そんな事もないですよ。まだ修行中です。それに、寝込んでいた時期が長かったので、体もなまっていますしね。今日から剣の素振りや腕立て伏せなどを少しづつやり始めて、新たに体力作りをするつもりです」
「努力家なんだなあ。俺も腕立てとスクワット三千回してるぜ。旅の武道家として当然よ」
「おお、私など人より倍以上努力しないといけない人間なもので、すべてを含めて一日六千回はしていました」
「ろ、六千!?」
 一同が驚愕する。
 手綱を握って聞いていたレックでさえ、驚きで御者台から落ちそうになった。
「はい、六千です。あれ、そんなに少ないですかね?」
 逆に不安がっているアモス。
「いや、少ないどころじゃないというか…」
「…俺より倍以上鍛錬してんのか…」
 ハッサンは肩を落とした。
「こりゃあ、うかうかしてられないですね。ヘタをするとアモスさんに先を越されちゃいますから、ぼくも魔法の勉強と、瞑想と、鍛錬に励まなければっ」
 チャモロがすぐに魔法書を取り出し、黙々と読みふけた。
「お、俺も特訓するぜ」
 ハッサンも馬車の中でダンベルを持ち始めた。
「あたしもしなきゃー!」
 バーバラもスクワットをし始めた。
 追い抜かれたくない精神で、各自修行を始める面々。アモスの努力家ぶりに触発された仲間たちは、明日から今まで以上の修行を決めたのであった。
「いい傾向ね。アモスさんのおかげで、士気が高まりそうだわ」
 ミレーユがレックの隣でやる気を出し始めた仲間達を頼もしく見ている。
「そうだな。俺もがんばんなきゃ。もっともっと強くならないと。明日からみんなで特訓だ」
「頼りにしているわよ、勇者様」
 ミレーユがレックの背中を軽く叩く。
「それは言うなよ。その呼び方嫌いだし」と、不満顔。
「ふふ、あなた…ダーマ神殿で嫌になるほどそう呼ばれ続けていたものね」
 ほくそ笑むミレーユ。
「そりゃあ、バカみたいに勇者様呼ばわりされ続けていたら、いい加減うんざりしてくるさ。俺は勇者っていう名前でもないんだから」
「うふふ、そうね。あなたは勇者である前に、レックという一人の人間なんだもの。あなたは、これからもあなたらしさを忘れないでいけばいい。ありのままの勇敢なあなたがいいんだから」
「ミレーユ…ありがとう」
 仲間達は新たな大陸へ突き進む。
 そんな天気のいい昼の出来事だった――。



十一章 完




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