DQ6 | ナノ
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 ムドー討伐の報告のため、ルーラでゲントの村にも顔を出した。
 まだ見ぬ魔物退治の事、ムドーより凶悪な魔王がいる事を報告すると、長老から神の船を自由に使っても構わないと許可をもらった。これで世界中を船で巡る事となる。
 チャモロもこの世界が真に平和な世の中になるまでお供すると名乗り出てくれて、引き続き旅に同行した。
 改めて一行は新たな旅路へと出発する。まだ見ぬ地へと…。
 魔王の情報が全くない中で行く当てはないが、世界中を周ることが出来るならばきっと、他の魔王の手がかりもつかめるだろう。
 そして、レックの本当の自分自身も、どこかにいるはず――…。
 これからが本当の長い長い旅の始まりだった。








――第十一章 モンストル ――






 ムドーの島の北の方角を悠然と進む神の船。
「は〜船旅って何日も続いてると退屈だよなあ」と、ハッサン。
 単調な海の景色ばかりで飽き飽きした様子だ。
「なら、船揺らしてあんたが嫌いな船酔いにでもなってみる〜?」
 バーバラが悪戯っぽく笑う。
「よ、よしてくれやい!神の船なんだからそんな揺れないだろうにっ」
「荒波が来れば、いくら神の船とて揺れるでしょうね」と、チャモロ。
「ひーー!船酔いはもう勘弁してくれよお」
「「「あはは」」」
 どっと笑い声が響き渡る。
 和やかなムードで仲間達からは笑顔がこぼれた。
 以前、レイドック行きの船で、ハッサンが大参事を起こしたことは記憶に新しい。
「おい、あそこに看板が立ってる」
 レックが指さした。
 船を停泊させ、岸にあがって確かめると『この北モンストルの町』と、手書きの文字。
「町があるようね。行ってみる?」
 ミレーユが訊く。
「ああ。せっかくだしな。長く船に乗ってたら体もなまっちゃうし、ファルシオンにも適度な運動をさせてやらないと」
 ファルシオンが待ってましたと言わんばかりに咆えた。


 見飽きた海の地平線とはしばし別れを告げ、数日ぶりの大陸上陸とともに馬車を走らせた。レックが御者台に乗り、手綱を引く。
 景色を仰げば、天気よし、見晴らしよし、空気もよし。馬車内ではハッサンとバーバラがチャモロにヨガ体操を教えてもらっている。ミレーユは隣で編み物に興じ、こんな光景を見ていると、意外に平和だと思った。
 たしかに魔王退治という使命は苦難な道ではあるが、こうやって頼もしい仲間たちとまだ見ぬ場所へ旅をしては苦楽を共にする。
 昼間は(魔物は出るが)悠然と景色を見ながら広い荒野を駆け、夜には星空を見ながらみんなで焚火を囲む。
 旅をする事は嫌いではないし、むしろ好きだからこそ、なんて贅沢な日々なんだろうかと充実感に浸る。
 こんな日が長く続けばいいのに…と、無理ながらそう思ってしまった。
 
 数時間後、こじんまりとした小さな町モンストルに到着した。
 町として機能を果たし始めたのは最近で、開拓してからざっと五十年ほど。他国とはまだあまり交流がないような出来立ての町のようだ。
 門をくぐると、どこにでもある石造りの住宅が立ち並び、町のシンボルである中央の噴水広場で、子供たちが楽しそうに遊んでいる。どこからどう見ても普通の町そのものだった。
 町の雰囲気を除けば――。
 人々が妙によそよそしいと感じたのは、門をくぐった途端、町人に「暗くなる前にこの町を離れた方がよい」と言われた時からだった。仲間達は首を傾げる。
 どの町人も、あまり旅人にいい顔も歓迎するムードもなく、はやく帰ってほしいとまるで言いたげで、どこか曇った表情を垣間見せていた。
 地面や噴水広場では、あちこちに魔物にでも荒らされた爪痕が残っている。地面に亀裂が走ったままで、家の壁にも爪で裂いた痕がそのままになっていた。
 誰がみても魔物にでも襲われているんじゃないだろうかと思うほどに。
「旅人さんが訪れるのはたしかに歓迎したい所ですが、魔物の血の匂いがする方々を泊めるわけにはいきませんので…どうしてもというなら仕方ありませんが」
 宿屋へ行っても渋るような態度であった。
 何か隠し事を秘めているように見えるのは気のせいではなさそうだ。
「血の匂いって失礼しちゃうわね!旅人なんだから魔物の血の匂いくらいしょうがないでしょうがっ」
 バーバラがぷんすか怒っている。
「やっぱりこの町なんかおかしいぜ。さっきこの町に滞在している吟遊詩人に話を聞いたらよ、夜になると地震が起きるらしいんだ。しかもなんか魔物の鳴き声みたいなのも聞こえてよ、寝られないって言ってたぜ」
「地震…か。噴水広場で何かに荒らされた形跡があったけど…やっぱり魔物の仕業なのか」
 レックが難しい顔で腕を組む。
「あと、この町には英雄がいるみたいよ」と、ミレーユ。
「あ、それあたしも聞いた〜!みんながアモスさまって呼んでたよ。なんかの病気みたいで、はやくアモス様の病気が治りますようにって、教会でお祈りしてた人がたくさんいたんだよね」
「アモス様という人が病気ですか。なら、ゲントの民として、ここはぼくの出番ですね」
 チャモロが僧侶として立ち上がる。
「えーっと、たしか町の一番左奥の家に住んでるんだって」
 レックとチャモロの二人でアモスという人の家へ向かった。



「旅人の方、私になにかご用ですか?」
 金髪のアモスという人のよさそうな人が玄関先に出てきた。愛犬のハトラッシュという柴犬を連れて。
 誠実で、とても優しそうな雰囲気を持ち、誰からも好かれそうな印象だと思った。
 大けがを負ったのか、手足を包帯でぐるぐる巻きにした姿が痛々しい。とりあえず、旅の僧侶という肩書きで名乗り、チャモロがアモスの怪我の具合を見る事となった。
「怪我…どうですか?」
 チャモロが怪我によくきく薬を塗っている。
「ええ、これくらいなら平気ですよ。最近魔物が町を襲ってきましてね、なんとか全員倒せたのですが、ちょいと無茶をしまして…この有様なんです。魔物にお尻をかまれちゃったんですよ、とほほ」
「それは災難ですね…痛みますか?」
 レックもチャモロの助手として手伝っている。
「いえ、痛みはもうほとんどありません。この程度の怪我なら、塗り薬と薬草をたんまり飲めばすぐに治りますよ。たいしたことはありません。みんな私が何かの病気なんじゃないかと心配してくれているようですが、怪我を病気だと勘違いしているだけなんですよね。あはは」
「そう、ですか。それならいいのですが…」
 チャモロがほっと肩をなでおろす。
「それにしても、魔物から町を守るなんて、だからあなたが英雄って呼ばれているんですね」
 レックが素晴らしい人だなと感心した。
「いやあ、お恥ずかしい。私は当たり前のことをしただけなので…と、そろそろ暗くなる頃ですね。旅の方、今日はこのモンストルに泊まっていくとよいですよ」
 その言葉通り、今晩はこの町の宿をとることになった。宿屋の店主に「本当に泊まる気ですかあ?」と、渋った反応をされたが、今更野宿なんて嫌だったので「泊まるんです!」と、意固地になったように押し通した。
 なんとか全員分のベッドを確保でき、久しぶりのベッドでの就寝に、一同は疲れた体を休めようと床に就いたその深夜――…
 ずしいいん
 ずしゃああん
 どごおおおん
 町中に大きな揺れが起こった。
 並大抵の揺れではなく、なにか大きなものが暴れまわっているような足音も聞こえる。
 レックとチャモロはベッドから飛び起き、隣に寝ていた寝相最悪のハッサンでさえ床に落ちて目を覚ましたほどだった。
 地響きが起こるたびに天井がギシギシと軋み、パラパラと埃が落ち、石造りの家が悲鳴をあげている。
「変だ!絶対に!」
 レック達は寝間着のまま武器を持って部屋の外に出ると、他の客も何事かと飛び出しては慌てている。
 ミレーユとバーバラも寝間着のまま外に出ていた。
「なんて格好だよあんた」
「あなたも同じじゃないの」
 寝間着姿のミレーユやバーバラの姿といえば、いつもの服と違ってどこか色っぽい。
 普段見せない生足を披露し、髪もおろしている。
 レックは不意にドキンとして頬が熱くなった。
「と、とにかく、この揺れは尋常じゃない。外に出て確かめないと!」
 全員は寝間着のまま玄関へ向かった。



「みなさん、大丈夫ですから!なんでもありません。お願いですから外には出ないでください」
 フロントにいるバイトが、玄関をふさいで通せんぼしているのが見えた。大勢の客が「どうなっているんだ」と騒ぎ立てている。
「はやく開けてくれ」と「開けることはできません」の押し問答を繰り返しており、宿屋の中は大混乱であった。
「そこをどいてくださいよ。外には一体何があるんです?」
「本当に何でもありませんから!毎晩こんな感じなのです」
「毎晩だって?おいおい、何を隠してるんだよあんたらは」
 しびれを切らしている客達に対し、依然として口をつぐみ、どこうとはしない店側。
「このままじゃ店が潰れちゃうどころの話じゃないよ。町がやられちゃうかも」
 バーバラがハラハラしている。
「みなさん、あそこに大きな窓があります!あそこからなら出られそうです」
 チャモロが天井の窓を指さす。
「ハッサン!」
 目線でアイコンタクトをとると、ハッサンが「おうよ」と前かがみになる。
 その背中を土台にし、レックが上にあがって窓のカギをあける。窓めがけてジャンプし、よじ登るとようやく外の空気に触れた。
「…あれは…魔物か…!?」
 レックは目の前の光景に驚愕した。



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