DQ6 | ナノ
 15-3

 それからすぐに頂上に到着した。
 てっぺんは標高一万メートルの頂で、世界の果てを見下ろしている気分になった。眼下には大いなる母なる大地が広がっている。大地に見えるクリアベールの町などもはや豆粒程度にしか見えない。雲や山を越え、遠くの海すらも眺める事が出来た。
 達成感と絶景にある程度感動した後、すぐに振り返って大きくて神秘的な鉱石の塊の方に目を向ける。年中雨も降らないこの場所で、元々黒色の塊だった物が、太陽の光をめいいっぱい浴びて金に染まったようだ。触ってみると見たことがない金属で出来ており、どんな石なのかは今の錬金技術で解明はできないかもしれない。それほど複雑怪奇な金属で出来ている。商人が見ても値段はつけられない程に。
「これだな…」
「ええ」
 レックが黄金のつるはしで少し砕き割り、破片を拾った。
「これが勇気の石の欠片か…」
「綺麗ね」
「みんなが挑戦してここを登るわけだ…」
 欠片を手に入れ、二人はルーラで一気にクリアベールに戻った。


 数日ぶりにハリス・マゴット夫妻の家を再び訪ねた。丁度今日がジョンの命日で、彼らは休日をゆっくり穏やかに過ごしていたようだ。お店の方も明日まで休みとドアに記されている。
「おや、あなた方は数日前の旅の方」
 マゴットが顔を出した。
「こんにちは。どうしてもあなたに渡したいものがあって…」
 レックが袋の中から欠片を見せた。
 呆気にとられたままじっと見れば、すぐにその正体がわかった。
「こ、これは…!」
 自分たちが探し求めていたあの勇気の石の欠片だと知る。マゴットの顔色が一気に変わった。
「ハリス!ハリス!ちょっと来てちょうだい!」
 興奮と感激にすぐに夫の名を呼ぶ。
 ハリスがなんだなんだとやってくると、その欠片を見て彼もまた驚く。
「まちがいない!これはジョンが欲しがっていた勇気の石の欠片。どうしてあなた達が…!」
「登ってきたんです。運命の壁の頂上まで」
 そんな二人の格好といえば、やけに泥だらけで傷だらけな理由に納得する。
「なんと…あの険しい死の壁をですか!そんな危険な場所へ…」
「あなた達は…一体…」
「しがない旅人ですよ」
「ええ。通りすがりのね」
 にっこり笑顔でレックとミレーユは返す。
「ああ…なんとお礼を申し上げたらいいか…この欠片があれば…あの子が欲しがっていた勇気のバッジを作ることが出来、墓前に飾る事ができます」
「ぜひ…お礼に今晩泊まっていってください。できる限りのお礼がしたいのです」
 お言葉に甘え、夫妻の家で今晩を過ごす事となった。
 豪勢な家庭料理をいただき、大食いのレックは目を光らせて数十人前はガツガツ頬張る。ミレーユも優美に口へ運んでいる。
 途中、二人は恋人同士なのかという質問に、お互い顔を真っ赤にさせて「違いますから」と慌てて否定した。それでもまんざらでもない様子である。
 三日ぶりの風呂にも交互に入り、二人してすっきりした所で寝室へ案内された。
「この部屋は…」
「ジョンが使っていた部屋ですよ」
 部屋は普通の家の部屋より少しばかり広く、家具やおもちゃのほかに、生前ジョンが寝ていたセミダブルサイズのベッドがあった。
「いいのですか?息子さんが使っていた部屋で休ませていただいて…」
「いいんですよ。勇気の欠片を取ってきたあなた方なら…ジョンもきっと喜んで泊まらせるでしょう。それにお二人は旅のお仲間同士。同じ部屋のベッドでも大丈夫よね」
「「え……」」
 二人は目を点にさせて硬直する。
「いや…そういう問題じゃ…!」
「それではごゆっくり…」
 弁解する前にマゴットは笑顔で扉を閉めた。
「………」
「………」
 耐えきれない沈黙が続いた。
 沈黙が苦痛な彼女はすぐに口を開いた。
「と、とにかくしょうがないから…寝ましょ?」
 恥ずかしそうなミレーユ。
「寝るのはいいけど…変な事はするなよな」
 こちらも顔が真っ赤なレック。
「それは私の台詞よ!バカ!」
「じゃ、じゃあ俺は床で寝るから…あんたはベッドで寝なよ」
「何言ってるのよ…い、一緒に…ね、寝なきゃ…せっかくのベッドで」
「い、いいのかよ?」
「い…いい…わよ、別に…旅の仲間同士ですものねっ」
「旅の仲間同士…ねェ」
 野宿とベッドの中じゃわけが違うんだけど…と、言いたげだったが、レックはあえて黙った。二人してベッドで横になる。
 それは寝心地最高の感触と肌触りである。
「ふかふかだなあ。こんなベッドだったらぐっすり寝れそうだよ」
「ほんと。ただのベッドじゃないわね…これ」
「いえーい!跳ねる跳ねるぅ〜!マジふっかふか〜!綿あめみたい」
 無邪気に飛び跳ねているレック。
「もうレックってば子供みたい」と、振動で揺れているミレーユ。
「だって、やっぱこんなにフカフカだと飛び跳ねたくなるだろ。あー気持ちがいいもんだなあ」
 しばらく、男女二人がベッドの上で飛び跳ねたり、ゴロゴロしている和やかな光景が続いた。
「て…事で…俺寝るよ」
 騒ぐことに飽きたレックは、ミレーユの隣の定位置で横になった。
 シーツに包まり、互いは30センチほど離れた場所で背中を向けあう。
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい。変なことしないでよね」
「あんたがな」
 その夜、二人は不思議な夢を見た。
 一人の散切り頭の少年が元気にクリアベールの町を走り回り、そして、背中に翼を生やしながら飛んでいくというもの。
 少年は花開くような笑顔でレック達がいる部屋へやってきた。外は真夜中だったはずなのに、なぜか青い空が広がっている。
「こんにちは」
『わあ、背中に翼があるわ…』
『君は空が飛べるんだな…』
 夢の中の二人はうらやましそうに眺めた。
『うん。ぼくには自慢の翼があるから空を自由に飛べるんだ。あ、改めてはじめまして、ぼくがジョン。勇気の欠片…ありがとう』
『…いや、それはいいけど…』
 気が付いたら、このベッドは浮いていた。
 ハリス夫妻のご厚意で借りたベッドが、家の窓から飛び出し、自分たちを乗せたまま宙高く進む。
『お兄さんもお姉さんも飛んでるよ…ほら、ぼくのように空高く』
 ベッドは澄み切った青空を飛行し続ける。どこまでもどこまでも。
 二人は驚きながら周辺の景色を見渡す。まだ見ぬ大地を――…
『そのベッド…魔法のベッドなんだよ。あんまり高くは飛べないけど、広い海や草原なんてあっさり越えちゃえるんだ。ぼくはもう空を自由に飛べるからベッドはいらない。勇気の欠片のお礼にあげるね』
『ジョン!』と、レックが名前を呼ぶ。
 少年は応えるようににっこりまた笑うと、自分たち以上に空高く舞い上がる。
『本当にありがとう…お兄さん…お姉さん……さようなら…』
 白い翼をはためかせて、まるで天使の様に無邪気な顔を見せて消えて行った。


「空飛ぶベッドかぁ〜。二人とも変わった乗り物手に入れてたんだね」
 翌日、やっと体調不良から立ち直ったハッサンとバーバラ達に近況報告していた。
「ひょうたん島に今度は空飛ぶベッドか…。夢の世界ってなんでもありだよなあ」と、ハッサン。
「しかも、どんな原理なのか…馬車まで乗っちゃうとは思わなかったわ」
 ベッドを不思議そうに眺めるバーバラ。
 空飛ぶベッドは一見外から見ればただのベッドだが、手を伸ばすと自分が小さくなり、逆にベッド自体が恐ろしく広く感じるようになる。
 ベッドの上だけは別次元のようで、一体どんな力が働いているのか見当もつかない。
 それでも便利な乗りものを手に入れることが出来て、この先の旅はもっと楽になるだろう。
「ハッサンの言うとおり、夢だからなんでもありなのですよきっと」と、笑顔のアモス。
「全く持って複雑怪奇ですねぇ…」と、チャモロ。
 空飛ぶベッドは飛び立つ。
 まだ見知らぬ大陸へと――…。


十五章 完



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