DQ6 | ナノ
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 翌日、ついに旅立ちの朝がきた。
 まだ朝日が現れて間もないころ、村の門の前では大半の村人が見送りにきている。忙しいから見送りはいいと言ったにもかかわらず、彼らは一目最後に焼き付けておこうと集まっていたのである。

「忘れ物ない?ハンカチ持った?通行証は袋の中に…」
「もー大丈夫だよターニア。ちゃんと全部持ったから」
 荷物はちょっとした着替えや日用品などが袋に入っている。
「だって、最後の最後だからこそ心配なんだもん。お兄ちゃんて戦いに関しては忘れる事なんてないくらいすごいけど、それ以外の事になるとたまにランドみたいに度忘れしたり、そそっかしい所あるし」
「そりゃあないよターニア。ランドみたいだなんてとんでもない間抜けって言われてるようなもんじゃないか」
「ちょ、おいおいそれって俺がとんでもない間抜けって事かよ!」
「その通りでしょ」
 容赦ないターニアの一言。
「ひでーよターニアちゃあん」
「「あははは!」」
 村人がどっと笑う。

「まあレック、ターニアの事や村の事は俺に泥船に乗ったつもりで任せとけ!」
「それを言うなら大船だろ。泥船じゃ困るわい」
「レック」
 そこへ、ジュディが仏頂面でレックの前へやってきた。
「もう…あたしの気持ちを聞かずに旅に行こうとするなんて…とことん鈍感なんだからっ。…まるであたしが告白もせずに振られたみたいじゃないっ。ほんと…やな奴…」
 ジュディはまた怒っていた。
「どこへでも行っちゃえばいいのよ。このあたしを置いていこうって言うんだから勝手にしなさい!このバカアホ!おたんこなすー!いーっだ!」
 一人でヒステリックになっているジュディ。
「…あ、あの…ジュディ、さん?」
 レックは圧倒されて呆然としている。
「その代わり、あたしに見向きもしなかった事をいつか後悔させてあげるんだからね」
「は、はあ…」
 最後まで一体何を言っているのか(鈍感な)レックにはわからなかった。
「がんばってこいよ、レック」
「旅の土産話を楽しみにしとるぞい」
「お前はライフコッド代表だからな。村人魂を都会人に見せてこい!」
「疲れたらいつでも帰ってきなさいね。あなたの故郷なんだから」
 次々と激励の言葉を投げかけられ、レックは目頭が熱くなる。
「みんな…ありがとう。行ってくるよ」
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
「…ああ、行ってきます。ターニア…みんな」
 村の声援を受けて、レックは手を振ってそのままダッシュで村の門を駆けて行った。一度も振り向かずに前だけを向いて。
 きっと、きっとまた帰ってくる。
 それまで…さようなら――…。




「よく頑張ったね、ターニア」
「…はい…」
 ターニアが涙でぬれた顔を覗かせた。
「涙を見せずに笑顔で見送るというのは辛い事だけど、最後の別れくらい笑顔の方がレックも嬉しいだろうからね。最後の顔が印象に残るっていうのはそういう事だよ」
「ええ、わかっています。でも、私よりジュディの方が重傷みたいですから」
 隣には激しくわんわん大泣きする一人の少女。
「ああーんレックのばかァ〜〜〜うわ〜〜ん。なんで行っちゃうのよおおお〜〜!あたし、レックの事が大好きだったのにいいいいい!」
「はあ…ジュデイったら…本当に素直になれないくらいプライドが高いんだから」
 こうして、レックの長くて険しい旅は始まるのだった。
 ただの好奇心から、二つの世界をまたにかける大冒険になろうとは露にも思っていない。魔王の事も世界の事も知らず、まだ駆けだしたばかりの少年は、やがては世界の真理を垣間見る事になるのだった。



 一章/完




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