DQ6 | ナノ
 23-4

「みんな、あなた方が秘密の抜け穴を見つけてから、元の世界へ戻れるかもしれないって希望を抱き始めたんですよ。それに、あのエンデさんの仕事ぶりに触発されてね…」
 どうりで酒場で酒を飲んでいた大半の男共が、朝からヘルハーブ温泉の方へすっ飛んで行ってしまったのかと納得がいく。
 あれほど大魔王の魔力に蝕まれつつ、絶望して将来を嘆いていた者達ばかりだったというのに、希望を取り戻した事によって町の雰囲気がガラリと変わった。晴れやかで清々しさに満ち溢れている。ここがあの絶望感漂っていた町かと思うほどに。
 それに町の緩慢な空気がなくなったせいか、嘘のように体がとても軽い。
「ねえ、なんだか私たちも力がみなぎってこない?」
 ピョンピョン飛び跳ねて嬉しそうなバーバラ。
「そういえば…元の世界にいた頃みたいに体が軽いですね」
 昨日までの、けだるくて動くのも億劫に感じていた気分は微塵も感じられない。
 全員、無気力状態から脱出できていた。
「あのひどい雰囲気も消えて、我々の力も元に戻ったようです」
 チャモロが両手を広げたり閉じたりしている。
「病は気からって言うしな。大半が元気になりゃあ、町の雰囲気も明るくなるだろうぜ」
 テリーも力が戻って嬉しいのか、先ほどから自分の剣を振り回している。
「よかった。これでこの町はもう大丈夫だろう」
 レック達が町の様子を見渡す。
 皆が忘れかけていた“普通”を取り戻し、あの独特な緩慢さはなく、きびきびと町の人々が動き回っている。誰もが有り余った力をみなぎらせて、自分のできることを行っている。寝たきりの老人が自分の力で立とうと奮闘していたり。死のうとしていた若者が考えを改めて生きようと決意したり。大魔王を倒すんだと体を鍛えはじめた子供がいたり。酒に溺れてばかりの武道家が力を取り戻して修行に勤しんでいたり。いろんな者が当たり前のように元気溌剌(はつらつ)としている。
「おお、お前たち…外に出ておったのか」
 そこへ、エンデがまっ白い包みを持ってやって来た。
「エンデさん。もう作業は終わったんですか?」
「ああ。少しずつ仮眠を取りながら徹夜で作ったからの。もう眠くて眠くて…。じゃが、久しぶりの仕事でいい汗をかいたわい。ほれ、これがわしからのプレゼントじゃ」
 包み紙の中には、見事なほど美しい盾が入っていた。しかも、とても軽くて扱いやすい。魔力が込められていて、ちょっとやそっとの攻撃など跳ね返してしまえそうだ。スフィーダの盾に匹敵するほどに。世界一の防具職人と言われるだけのことはある。
「わあ、これは見事な盾ですね」
「当然じゃ。わしが全身全霊を込めて作った盾じゃからな。それで必ずや大魔王を倒せよ」
「はい、必ず。そうだろ?みんな!」
 レックが頼もしく訊くと、
「「「当然だ(よ、です)!」」」
 それぞれが一斉に返した。

 その後、ファルシオンの怪我も治り、馬車の修理も完了した。
 絶望の町を後にして東の方へ針路を変える。一つの町が希望を取り戻したと言っても、紫色の空は依然として夜と変わらぬ暗い闇のまま。
 こうして馬車で荒野を駆けている中でも、どこかで大魔王が自分達を面白おかしく見ていると思うと油断ならない。人々が穏やかに笑って過ごせられるような平和な世界を取り戻す。大魔王の好き勝手にはさせない。
「そういえばさ、レック達が元の世界に行っている間、焚火をしていたおじいさんから聞いたんだけど、この世界には絶望の町も含めて三つ町があるらしいよ」
 バーバラがその老人からもらった地図を一同に見せた。
「三つか…残り二つはどんな町なんだろう…」
「大魔王が作った世界だろうから、きっと今度の町もある意味危ない町だろうな…絶望の町みたいに…」
 テリーが現実的に言った。
「もー!そういう事言うのやめてよね!もしかしたら普通の町かもしれないじゃない」
「…だと、いいのですけどね…」
 一抹の不安を抱きながら、一同は北東の町へ向かった。


二十三章 完




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