DQ6 | ナノ
 20-4

 アモスのトヘロスのおかげで、一匹も魔物が出ないままさらに階段を下る。
 いにしえの言い伝え通り進んだ先には、奥にキラキラ光る宝箱を発見。中をあけると、曇り一つないほど磨かれた「スフィーダの盾」をゲットした。
 もちろん、レックしか装備できない勇者専用の防具だった。

 続いて伝説の鎧の情報を、どこかの図書館の古い文献から得た。
 名前は大昔に滅びたグレイス城。
 数千年ほど昔に滅びた国らしく、なぜ滅びたかという記載はなかった。その内容を記せない事情があるのか、鎧の情報だけが残っている。とにかく、鎧の情報をもとに、その廃墟の城をレック達は魔法の絨毯で訪れる。
 数世紀は経った瓦礫の中には特に何もなく、なんとなく見つけた井戸に手を触れた途端、全員はその昔に遡り、滅びる前の城の幻影を見た。
「わたしは陛下のお考えがよくわからないよ。黒魔術で恐ろしい悪魔を呼び寄せるだなんて…。本当に我々の味方になってくれるのかい?」
 遡った先の城の食堂で、研究者と掃除のおばさんが会話している。
「…わからない。私も少し後悔しているよ。陛下にあの悪魔の存在をお教えしたことを…。そのチカラは、今の大魔王を越える力を持つ伝説の悪魔。そいつを呼び出し、あやつる方法を私は発見してしまったが、そのことをお聞かせしたため、陛下は狂ったように黒魔術にはまってしまった…。人間がその悪魔を操り、制御できる保証などどこにもないという事も伝えたが…聞く耳もたれなかった」
「はあ…その通りだよ。大魔王以上の力を持つ悪魔が安全とは思えないよ」
「しかし、あれでも陛下は国民の事を考えておられる。我々は信じるしかあるまい」
「でもねえ…」
 王様は大魔王に対抗するため、強大な大悪魔を呼び寄せようとしていた。
 それは人間界においてタブーとされている禁断の呪法により呼び寄せられるらしい。あの大魔王より強い者が存在する事自体が恐ろしいが、そんな悪魔を呼び寄せようとしている王様もある意味で狂っていた。
「大魔王を越える大悪魔だなんて…信じられねえ」
 ハッサンが深刻な顔をしている。
「…そうですね。大魔王でさえ厄介だというのに」
 チャモロは幻影を見ながら嫌な予感を感じていた。
「何者なんだろ…そいつ」
 全員は一抹の不安を抱く。
 その悪魔について詳しく聞きたいと話しかけるも、それに触れることも話しかけることもできない。
 そもそも、これは過去の幻影に過ぎないのだから。

「しかし、兵士長どの。大魔王は本当にこの城をねらってくるでしょうか」
 ある兵士長と兵士が個室で会話している。
「うむ。必ず来るはずだ。この鎧がこの城にあるかぎり…」
 二人の手前には、白銀に輝く立派な鎧が飾られてあった。
 見ているだけでまぶしくて、曇りも穢れの一つも見つからないほど美しい鎧だった。
 これこそが、勇者のみが装備できる伝説の防具の一つオルゴーの鎧。
 オルゴーの鎧は、大魔王の魔力を跳ね返し、邪を寄せ付けない聖なる力が備わっている。大魔王はその鎧を手に入れ、血と邪悪に穢すためにこの国に攻めてくるという。
「勇者が身につけたとき、真に力を発揮する鎧ですね」
「ああ。しかし、勇者の伝説を知る者は次々と魔物に殺され、あのダーマ神殿や、魔法都市カルベローナまでもが滅ぼされてしまったとか…なあゴーリキ。勇者は我々に残された希望の光だ。いつか勇者が現われるまで…決してこの鎧を大魔王に渡すわけにはいかん!たとえ、悪魔のチカラを借りたとしてもだ」
 兵士長は何者にも負けないという芯の強さで言った。


「ねえお母さま。お父さまが呼び出す悪魔は人間を殺したりはしないの?もしそうなら、大魔王が滅んでも、今度はその悪魔が世界中の人々を襲うのでしょう?」
 中庭で姫が不安そうな顔で王妃に話している。
「そんなことはないわ。あの人はちゃんとお城の学者に訊ねたのよ。なんでも魔物の魂を食べて生きている悪魔なんですって。だから、人間を襲ったりはしないのよ。安心してお父様を信じなさい」
「でも…」
 そんなうまくいかないと誰もが思っていた。
 儀式が始まる直前、薄暗い地下の部屋の中央で、王は何かに憑りつかれたような焦燥にかられていた。禁断の魔法円を描き、儀式のお供え物を置き、呪われた合言葉をつぶやく。
「地の底深くにひそむ悪魔の魂よ。今ここにお供え物を捧ぐ。伝説の魔法陣のチカラによりて、我々の前に現われ、その力をしめすべし…マハトラーナソテミシアレキダントランヒガンテパラシコロヒーア!」
 その時、ドロドロした気味の悪い空気が漂った。
 魔法陣が紫色に光り、怪しい髑髏の煙がそこから流れ出てくる。
 ゆっくりと、中から赤色の大悪魔らしき者が空気中に姿を見せた。
『私を呼び寄せるのは誰だ……』
 身の毛もよだつような地を這う声で呻いた。
「おお!現れたぞ!わしの声が聞こえるか?もし聞こえるのなら、我が願いを…!」
『…私は誰の命令も願いも受けぬ…死ね…』
 赤い大悪魔は邪悪な黒い稲妻を王の脳天に落とした。
「グギャアアアアーッ!」
 一瞬で王は灰となり、絶命した。
『私は破壊と殺戮の化身。すべてを無に帰す』
 赤い悪魔は腕を振り上げた。
 その場にいた大勢の兵士や、見物人達が黒い稲妻によって一瞬で灰になっていく。
 そして、その反動で柱が崩れ、倒壊していく城。
「なんだ…あいつは…!」
 衝撃を受けたまま動けないレック。
「恐ろしい闇の波動を感じます。かつてない程おぞましい…」
 チャモロが怯えた顔で見つめている。
「っやだぁ…みてられないよお…こんな場面っ!」
 バーバラが残酷に殺されていく人々の光景に目を覆う。
「えぐいぜ…っ!」と、ハッサン。
「ああ…なんとか…なんとか助けたいのに…!」
 アモスが悲痛な面持ちで拳を握る。
「落ち着いて…!これは過去の映像。どうにも…ならないのよ…」
 ミレーユも見ていられなかった。
 そんな中、あの兵士や兵士長も瓦礫の雨の中をオルゴーの鎧を持って走っていた。
「私はこの鎧を宝物庫の地下深くに封印する。中から板をはめてしまえば、つるはしでも使わぬ限りそこは見つからぬはずだからな。城のみんなを頼む!」
「はっ、かしこまりました。兵士長どの…どうか気を付けて」
 びしっと敬礼をする。
「お前もな…ゴーリキ。無事でな…」
 その後、大勢の人々が灰塵し、生き残ったものは数百人足らずだった。
 悲しみに暮れる人々を前に、画面がぐにゃりと切り替わる。ここで井戸に残された記憶の断片が終わったのだ。
 元の時代に戻ってくると、全員が深刻とも虚脱とも悲しみともとれる顔を浮かべ、後味が悪い幻影を見てしまったという脱力感は半端なかった。
「なんて…光景だったんだ…」と、レック。
「ひどい…!という一言につきますね…」
「…あたし…途中から見れなかった…」
 あのアモスやバーバラでさえ、笑いをとれる状態ではなかった。
「大魔王のほかに…あんな奴もいるなんて…悪夢だよな」
 ハッサンが苦しげに言った。
「その言葉のとおり、人々の悪夢が…そのまま残ってる感じだったわね…」
「悪夢…か。あ!そういえばあの兵士長が、地下のどこかに鎧を隠したって言ってたけど…まだあるのかな」
「探してみよう。その地下を…!」
 全員で手分けして廃墟になった城の床をくまなく探した。
 二時間ほど探していると、アモスが他とは異なる床を見つけ、持っていた黄金のつるはしで床を叩き割ると、隠し通路を発見する。
 長い長い階段や通路を経て、やっと奥までたどり着くと、はるか数千年も経ったというのに、あの時と何一つ変わらぬオルゴーの鎧がそのまま眠っていた。
 そばには、あの時の兵士長の白骨が転がっている。
 壁には血文字で「この鎧を身につけられるのは真の勇者のみ。どうかこの伝説の鎧を勇者のもとへ」 と、書かれてあった。
「…ありがとう…鎧を守ってくれて。もらっていきますね」
 レックがそっと告げると、白骨は役目を終えたように消えた。
「これで、あとは剣だけだな」
「ええ。これをすべて集めると何が起こるかわかりませんが、きっと、これらはレックさんに装備されるのを待っていたようにも思えます」
 チャモロが兵士長が亡くなった場所に墓を作っている。
「伝説の武器防具は、レックさんが装備してはじめて効果がでるみたいですしね」
 アモスがうらやましそうに鎧を見ている。
「勇者であるレックにしか装備できねーとか、なんかちょっとずるいよなー」
「そーだよねえ。あたしも専用の装備がほしい〜」
「ずるいって…お前ら子供かよ」
 レックが鎧を装備しながら呆れている。
「バーバラにはグリンガムの鞭があるじゃない」と、ミレーユ。
「まーそうなんだけどさあ〜」
 バーバラが最近手に入れたグリンガムの鞭を振り回している。
「それじゃあ、剣を探しにまだ行ってない町へ行ってみようか」
「「賛成〜!」」


二十章 完


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