青りんごサイダー

いつの間にか無意識にため息をついていたらしく、そんな青峰を黄瀬は不思議そうに見つめた。
「どうしたんスか青峰っち?」
「あー・・・?」
部活が終わって帰り支度を済ませて、さあ帰ろうかとなった時のことである。鞄を肩に掛けてLet’s go to my homeしようとしていた青峰のもとに近寄ると、黄瀬は青峰の顔を覗き込んだ。
「なんか元気なさそうスね」
「そうかぁ」
「なんかあったんスか?」
へらへらと笑顔を絶やさないはずの顔が、心配そうに青峰を見上げる。そのいつもと違う雰囲気に一瞬たじろぎそうになってしまいながらも、青峰は視線を逸らして返答する。
「・・・わっかんねぇ」
元気がなさそうとか言われても、自分でも無意識のことなので分からない。ましてやその理由なんて探しようがないのだ。それでもどうせ黄瀬のことだ。きっと「青峰っちてば絶対オレになんか隠してる〜絶対暴いてやるっスよー!」とか言って詮索してくるに違いない。あぁ・・・ウゼェ。
「まああれか・・・強いて言えばあれだ、あの〜・・・『五月病』?」
「ぷはっ」
「なんで笑うんだよ」
間髪入れずに吹き出した黄瀬を咎めるように睨めつけるが、黄瀬は青峰から顔を逸らして肩を震わせている。どうやら大爆笑をおさえようとしているようだ。
「青峰っち・・・五月病とか・・・ありえねーっス・・・ちょ、ウケる」
「うっせーな・・・はーあ、なんかいいことねーかなぁ」
「・・・!」
なんとなくボヤいた青峰の言葉に、黄瀬の表情がパッと明るくなった。そしていつもの無駄に明るい人懐っこい笑顔で宣言する―――
「青峰っち、1on1しよっ」
「あ?さっきしたばっかだろうが」
「『さっき』と『今』は違うんス!」
「わけわかんねー」
他のメンバーがぞろぞろと帰宅していくのを尻目に、青峰と黄瀬はせっかく制服に着替えたにもかかわらず、再びバスケットボールを手に取った。



結果は当たり前だが黄瀬の完敗。
「あー、悔しいっス!もう〜・・・」
それでもとても嬉しそうにけらけら笑う黄瀬。その姿に自然と青峰の表情も緩んでくる。するとそれを見越したように黄瀬がくるりとこちらを向いた。
「へへ。やっと青峰っち笑ったっスね」
「?」
「元気のない青峰っちなんてらしくねースよ」
「そーかぁ?」

うーんと伸びをしながら、黄瀬は自分の鞄を肩に掛けて、手近にあった青峰の鞄を差し出す。青峰がそれを受け取ると、黄瀬はへにゃりと笑顔を向けた。

「だってさ。オレの憧れた青峰っちは、こーゆー青峰っちだから」
「どーゆー青峰っちだよ」
「だからこーゆー青峰っち」
ついっと人さし指で目の前の青峰を示す黄瀬は、なぜだかとても楽しそうだ。それにつられて、じわじわなにかが溢れてきて・・・

「ふはっ」
「なんで笑うんスかー!?」
「お前もさっき笑ったろ」
「ヒドイっスよもー」
「・・・ありがとな」
コツンッと黄瀬の頭を小突いてみせる。無防備だった黄瀬は少しばかり後ろに仰け反って、流したばかりの汗がきらりと散った。

「なにするんスか!?青峰っち!」
攻撃を受けた額を手のひらで隠しながらじと目で睨んでくる黄瀬。その様子がおかしくて、面白くてたまらない。

「・・・青峰っち、オレのこと絶対バカにしてる」
「ああ。だってバカだからな」
「バカにバカ言われたくねーっスよ!!」
「はぁ!?」
「青峰っちのバーカバーカ」
「黄瀬・・・テメェ〜!!」

わっと逃げる黄瀬と追いかける青峰。
外に出ると、もう既に星がうっすらと輝いていた。





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