棒アイスってえろくない?

うだるような夏の暑さの中、太宰は部屋で棒アイスを齧っていた。
「あつい〜……」
ぼやきながらタンクトップの襟ぐりを握ると、中に風が入り込むようぱたぱたと仰いだ。生温い風が包帯越しに伝わってくる。
部屋には古びた扇風機が一台、一定のリズムでゆったりと首を振っていた。扇風機の風が太宰の髪を揺らすものの、その風すら生温い。
「あついあついあーつーいー」
声を上げて、太宰は部屋の主の背中に擦り寄った。この狭苦しくて暑い1Kのアパートの部屋の主――織田は机に向かって書き物をしていた。
「どうした?」
太宰を振り返って尋ねる織田の額にもうっすらと汗が滲んでいた。
「あつい」
そう言って、太宰はじとっとした目で織田を見上げた。そうして溶けかかっていたアイスをぺろりとひと舐めする。
「暑いのはどうにもできん」
「クーラーつけようよ〜?」
うーん、と織田は首を傾けると、
「電気代が」
と呟いた。
「それくらい私が出してあげるよ」
「そういう訳にもいかないだろ」
「どうして?」
はむっと太宰が棒アイスを口に含んだ。じゅるり、と舐め啜る。
「……歳下のお前に甘えてばかりもいられないからな」

窓の向こうで蝉が鳴く音がした。
太宰はしばらくの間、アイスを舐めしゃぶっていた。やがて溶けてきた頃合で、しゃくりと音を立てて齧ると、冷たいそれを嚥下した。
「織田作はいつだってそうだ。私のこと子供扱いする」
「そうか?」
とぼけたような織田の顔に、太宰は精一杯の嫌味を込めて表情を崩した。
「そうです〜」
いーっ、と口元を崩す。くすっと織田が微笑んだ気がした。
織田の手がペンを置く。その手がそのまま伸びてきて、太宰の頭に触れた。
柔らかく髪を撫でてから、髪の根元へ指先を差し入れる。汗で湿った感触を感じながら、織田はそのまま太宰の髪を掻き上げた。
「暑いならこれ、取ればいいのに」
これ、と織田が言ったのはどうやら包帯のことのようだった。
「怪我してるんだもん」
「まだ治らないのか?」
「…………」
ごまかすように太宰はアイスを口にした。黙ったままの太宰を見下ろしながら、織田はそっと包帯の留め具を探った。
太宰はこれといって抵抗せずに、ただアイスを舐めていた。半分以下にまで減ったアイスが、小さな口の中を出たり入ったりを繰り返す。
その様を視界に収めて、織田は留め具を外してやった。
はらり、と包帯が散る。
この瞬間、いつも織田は時間が止まったかのような錯覚を覚えた。異能が解けたみたいに、白い螺旋を描いて散る包帯。その向こうから現れる太宰の素顔。
いつも隠れているその顔が露わになる時、いつだって織田は息を呑んだ。
太宰の頬に触れてみる。親指を使って、隠れていた右目の瞼を撫でる。そこには痣の痕がうっすらと残っていた。
それだけではない。そのまま手を滑らせて、熱を計るように額に手の平を当てがって前髪を上げてみる。どこかにぶつけたのか、はたまた誰かに切りつけられたのか、擦り傷のような切り傷のような微妙な痕がついていた。
表情を変えることなく、織田はそれらを観察した。まじまじと見詰められてしまうと恥ずかしいらしく、太宰は気まずそうに視線を逸らしていた。
「ふたりきりなんだから、別に見られても構わないだろ?」
「そうかもしれないけど……」
「けど?」
アイスの最後のひとくちを口に含んで飲み込んでから、太宰は織田を睨み付けた。
「織田作は乙女心が分かってない!」

ざわざわと外で蝉の鳴く音がひときわ騒がしくなった。
織田はぱちくりと瞬きをすると、
「すまない」
と軽く謝った。しかし、太宰の機嫌は治ることなく、ぷいっと顔を背けた。
「謝っても許してあげないんだから」
アイスの棒を指揮棒みたいに上下に振る太宰。意味もなく織田はその手元を見詰めていた。
「じゃあ、どうすればいい?」
変わらない声のトーンで織田が尋ねる。太宰はチラリと目を細めて織田を見遣った。
「……ねえ、織田作」
太宰が両手を畳の床に置いた。四つん這いになって真下から織田の顔を覗き込む。
四つん這いになったことで、太宰が身に付けていたタンクトップの襟ぐりから大胆に胸元が覗いた。胸元にも包帯が巻かれていたが、それでもあられもない格好なのは確かで――無意識に織田は視線を逸らした。
「暇だから面白いことしようか?」
微笑む太宰の顔は小悪魔のようだった。
「面白いこと……?」
「そう。面白いこと」
そして、太宰はその場から立ち上がった。部屋のゴミ箱にアイスの棒を投げ捨てて冷蔵庫へと向かう。
やがて戻ってきた太宰の手には新しい棒アイスが握られていた。
「食べ過ぎは良くないぞ」
「違うよ。食べるのは私じゃない」
再び織田の正面に座り込むと、アイスの袋を剥がしていく。そんな太宰の行動をただ傍観していた織田の眼前に、剥き出しになったアイスが突き付けられた。
「はい、織田作。あーん」
「俺が食べるのか?」
「うん」
太宰が何を意図しているのか、織田には良く分からなかった。それでも太宰の行動に対して突っ込むということを知らない織田は、言われるがままに口を開く。
「齧っちゃダメだからね」
「は?」
「舐めて食べて」
言われた通り、織田は棒アイスを口に含むと舌を使ってアイスを舐めた。口の中の温度によって次第にアイスが溶けていく。その汁を啜りながら、織田はアイスが溶け落ちてしまわないよう必死に舐め取った。
「そうそう……さすが織田作」
上手だねぇ、とか言いながら太宰はアイスを傾けた。
冷たいアイスが織田の口蓋を擦る。
「んん」
織田の喉からくぐもった声が漏れた。それが楽しくて、太宰はアイスを軽く引っ張ったり押し込んだりを繰り返した。窄めた織田の唇がアイスの汁で濡れていく。その唇を舐めたらきっと甘いのだろう。
そんなことを考えながら、無意識に太宰は舌舐めずりをしていた。
「おい、太宰……」
「だーめ。ちゃんと全部食べなきゃ」
ほらほら〜、と織田を煽るみたいにアイスを動かす。織田は太宰にされるがままになっていた。だが、次に太宰がアイスを動かそうとしたタイミングで、ガシッと太宰の手首を掴んで動きを止めた。
「?」
太宰が首を傾げる。織田の目付きがさっきまでと違って、心なし鋭さを増していた。
「食べ物で遊ぶな」
それだけ言うと織田は太宰の手からアイスを取り上げた。そのまま自然な流れで自らの口元へ運ぶと、溶け落ちそうなそれを齧った。
「あ」
思わず太宰が声を上げた。
「だって……」
ぷうっと頬を膨らます太宰を見下ろしながら、何食わぬ顔で織田はアイスを食べた。
「棒アイスってえろくない?」
何を言い出すかと思えば太宰は突然そんなことを言い出した。
「……俺はそう思ったことはないが」
そう言って織田はアイスを口に含もうとした。すると、太宰がその手を掴んで引き止めた。
身を乗り出した太宰がアイスをはむっと口に含んだ。織田の肩に手を乗せて、口を窄めてアイスを啜った。
「んっ……」
鼻から抜けるような声を漏らしてアイスを舐める。真上から太宰を見下ろしながら、織田はその光景に唾を飲んだ。
「……ね?えろいでしょ?」
「…………」
織田は本心を悟られるのが嫌で自らの口元に手を添えた。途端に太宰を意識してしまう。

実のところ。
昨晩、太宰は織田の部屋に泊まった。そのまま今日は休暇が重なっていた為、やることもなく部屋で過ごすことにしたのだ。
太宰が身に付けているタンクトップは織田のものだった。サイズの合わない大きめのタンクトップに下着姿の太宰の格好を意識した途端に、僅ながらに織田は下半身が疼いてしまった。

「……大人を煽るのも大概にしろ」
「興奮した?」
無邪気な顔でそんなことを尋ねてくるものだから頭を抱えたくなってしまう。
それでも嘘をつくのが嫌で、織田はゆっくりと首を縦に振った。
太宰の顔がぱああっと華やいだ。
「私も……」
そのままの体勢で太宰は織田に抱き着いた。
「織田作のえっちな姿を見てたら興奮してしまったのだよ」

時刻はまだ昼過ぎだ。
外は明るく、一般の人々は勉学に勤しんでいたり、勤労に励んだり、そんな時間である。
それなのに、昼間から良いのだろうか。
うだるような暑さの中で。
狭い部屋にふたりきりで。
せっかくの休みなのに何処へも行かず。
最年少幹部と最下級構成員――未成年の少年とうだつの上がらないろくでもない大人が肌を重ねる。

(こんなことをしているから、いつまで経っても俺は駄目なのかもしれんな……)
織田は心の中でそう思いながら、ゆっくりと太宰へ顔を近付けていった。
太宰がそっと目を閉じる。
ふわり、と唇と唇が重なった。
触れるだけのキスをして離れると、織田は溶けかけのアイスを太宰の眼前へ翳した。
「とりあえずこいつを片付けよう」
織田の舌がアイスを舐める。すると太宰もその反対側へと舌を這わした。
一本のアイスをふたりで舐める。
時折、舌と舌がぶつかってもどかしい気持ちになった。れろれろと舐めていくうちに、アイスが溶けて畳に滴り落ちた。それが勿体無くて、織田は根元の部分を啜った。太宰が先端部分を口に含むと、甘噛みをして飲み込んだ。
そうしているうちにアイスを舐め終えると、至近距離で見詰め合う。
熱を孕んだ互いの眼差しの触発されて、どちらからともなく唇を啄ばんだ。
アイスを食べたからといって、別段涼しくなるわけでもない。
クーラーの効いていない暑い部屋で抱き合いながら、アイスの甘い味のする唇で熱っぽく口付け合う。
「ん、ふ……ぅ」
太宰の鼻から吐息が漏れる。その吐息は外気と同じくらいかそれよりも熱いくらいだった。
織田の手が太宰の腰を撫でる。するり、とタンクトップの裾から手を忍ばせるとそのまま素肌を撫で上げた。
「ぁ、織田作……」
タンクトップを捲り上げる形で、両手を使って撫でていく。ごつごつとした織田の大きな手が、華奢な少年の体を愛撫する。
胸元まで辿り着くと、包帯越しに突起の箇所をまさぐった。めぼしい位置を探り当てると、親指でそこを押し潰した。
「んあっ、や……」
太宰の脇を掴んで、両手の親指が乳首の位置を捏ね回す。くにくにと揉んでいくうちに、包帯越しにぽっつりとした形が浮かび上がってきた。
「さ、触るならちゃんと……」
「じゃあこれも外していいか?」
織田の指が太宰の脇の下にあった包帯の留め具に触れた。太宰は顔を真っ赤にしたまま少しだけ考え込むそぶりを見せた。それからゆっくりと、遠慮がちに頷いた。
織田の指が留め具を摘む。慣れた手付きで弾くようにして外すと、包帯を引っ張って解いていく。タンクトップの下から包帯が滑り落ちた。
「太宰……」
太宰の腰を抱き寄せる。太宰は膝立ちになって織田を見詰めた。
「……織田作」
ちゅっとキスをしてから、舌を絡め取る。離れてから見詰め合うと、太宰は自らタンクトップを捲り上げた。
「もっと触って……?」
やけに弱々しい声でそんなふうに懇願されてしまうと理性なんて吹き飛んでしまう。織田の手の平が素肌を撫でた。
「ん」
太宰の肌は汗が滲んでしっとりとしていた。ぺたぺたと触れていって、淡い色をした小さな粒を爪の先で弾いた。
「やっ」
太宰が腰を揺らす。窘めるように織田は片方の腕を太宰の腰へまわした。
ぐいっと力強く引き寄せた弾みで、太宰の胸元へ顔を埋める。そのまま舌を押し当てて舐め上げる。塩辛い味がした。
ねっとりと体を舐めていき、乳首を唇で挟み込んだ。
「んん、そこ……舐めちゃや……」
挟み込んだまま、舌を使って押し倒したり潰したりする。すっかり充血したその箇所の弾力を確かめるように吸い付いた。
「んあっ、あ……」
もじもじと太宰が腰を揺らす。ちらりと視線を向けてみれば、太宰の下半身が下着越しに主張しているのが見て取れた。
「苦しそうだな……」
掠れた声で織田はそう呟くと、太宰の下半身に触れた。盛り上がっている箇所を手の平で包み込んで持ち上げる。ゆっくりとさすってやれば、太宰は体を強張らせた。
「あ……ぉ、おださくだって……」
太宰の視線が織田の下半身へと向けられる。
「……硬くなってるくせに」
いじけた口調で言いながら、太宰は織田の下肢へ触れた。脚の間に手を押し当てると、案の定そこは既に硬くなっていた。
「一緒に気持ち良くなろ……?」
そう言って太宰は織田の肩を押した。
されるがまま、織田は背中から床に倒れ込んだ。太宰は織田の上に跨ったまま、自ら下着を押し下げた。
そして、体の向きを変えると織田の上に四つん這いになった。
太宰は織田の下半身へ頭を向けて、織田の目の前に太宰に下半身が晒される。
その体勢のまま、太宰は織田の下肢を寛げた。下着ごとズボンを脱がすと、硬くなった織田の欲望を取り出した。
一方の織田は太宰の尻を鷲掴むと、僅かに腰を落とさせた。すっかり芯を持ってしまったそれを躊躇いなく口に含んだ。
「あっ……」
ねっとりと熱い口の粘膜に包まれると、気持ち良くて眩暈がしそうだ。このまま身を委ねてしまいたい衝動に駆られながらも、なんとかして太宰は踏み止まった。
織田を握って扱くと、ゆっくりと口に咥えていく。
アイスとは違う。
熱くて硬くて大きい。
先端にちうっと吸い付くと、とろりとした透明なものが溢れてきた。それを舌先で掬ってしゃぶりつく。とろとろと溢れてくるそれは、苦いけれどなんだかアイスの汁みたいだった。
零してしまうのが勿体無くて、太宰は必死にしゃぶりついた。
じゅるじゅると音を立てて吸い付くと、織田の歯が太宰を甘噛みした。
「ひゃ……」
先端の窪んだ部分を歯を使って刺激されてしまうとたまらない。じゅっと強く吸われると、そろそろ限界な予感がした。
「あ、ぉ……ださく……もう……」
ひとりだけ先に達してしまうのは嫌だ。
力なく、太宰は織田を握り込みながら先端の部分を口に含んだ。
「も、もう……だめ……」
目の前がチカチカしてきて、体が小刻みに震え出す。熱いものが下腹部をぐるぐると渦巻いてから、体の外へ放出された。
「んっ……んん」
達しながらも太宰は口淫を続けた。その健気な姿に触発されたのか、やがて織田も太宰の口の中で果てた。
ねばねばした白濁を口で受け止めて、太宰はそれを飲み下した。
「は……ぁ、おださく……」
一度達しただけなのに、太宰の体は汗でびっしょりになっていた。体にタンクトップが張り付いていた。
織田を振り返って体の向きを変える。顔と顔を向き合わせて見詰め合う。
「……暑いな」
織田がそれだけ呟いて太宰の体を抱き締めた。互いの体が熱を放って、くっついた部分が火傷しそうなくらいに熱かった。
「もっと暑いことしちゃう?」
太宰が問い掛ける。

外は炎天下。
けたたましく蝉が鳴いている。

この暑さはアイスなんかじゃ冷め切らない。




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