だから壊して

太宰は酒が入ると甘えん坊になることがある。
もともと太宰は酒に強い。
だからある程度の飲酒量ではまず酔わない。酔ったとしても、ちゃんと自我を保てる程度に留めている。
それなのに、たまに太宰は無茶な飲み方をする。
度数の高い酒をちゃんぽんにして飲んで、わざとでろでろに酔っ払うのだ。
そして、厄介なことに太宰がそういう飲み方をするのは、決まって織田と二人で飲みに行った時に限った。
基本的に他人の行動に対して余計な口出しをしない主義の織田は、そんなふうにして酔っ払う太宰をただ眺めているだけだった。もし、この場に安吾がいたとすれば、お酒を取り上げてやめさせているかもしれないのに。
やがて酔いが回ってくると太宰はふらふらと頭を揺らして、もにゃもにゃと何かを呟きながら、織田の肩に寄りかかってくるのだ。それから、頭をすりすりしたり、腕を絡めたりして妙なスキンシップを取り始める。
至って平然とした態度で、織田はグラスに口を付けながら、ちらりと目線を太宰へと向けた。
太宰は黙って織田を見上げていた。
その表情に思わずドキッとしてしまう。
酒に酔って上気した頬。
焦点の定まっていないとろんとした眼差し。
薄くピンク色に色づいた唇の隙間から覗く赤い舌。
だんだんと、織田は体温が上昇していくのを感じた。
周りの音が音が聞こえなくなった。
聞こえてくるのは心臓の音だけだった。
自分の心臓がドクドクと早鐘を打っていた。

太宰の酔いが酷くなってくると、織田は会計を済ませて店を後にした。太宰に肩を貸す形で外に出る。
すっかり酔ってしまったらしい太宰は自分の力で歩くのすら難しいように思えた。
「……ん、おださく……」
「どうした?」
「おださく、おださくぅ……!」
がばっと太宰が抱き着いてきた。
酔って弛緩した太宰の体は思ったよりも重量感があった。織田の首に腕を絡めて、ぶらさがるみたいにして抱き着く。
織田は太宰の背丈に合わせて腰を落とした。
「……大丈夫か?」
目線を合わせて声を掛けてやる。目を合わせてくれたことが嬉しかったのか、太宰はにっこりと笑った。
「へへへ……」
ぎゅううっと首に絡まる腕の力が強くなる。織田はバランスを崩しそうになってしまい、咄嗟に太宰の腰を抱きかかえた。
やけに甘ったるい香りがした。香水の匂いだった。
太宰が常に身嗜みに気を配り、香水を身に付けているのは知っていた。いつもは清潔感の漂うサッパリとした香りが多かったが、たまにこういう甘い香りを漂わせてくることがあった。
どことなく織田は匂いの出所が気になった。抱き着いてくる太宰の後ろ頭を撫でてやりながら、ふわふわの茶髪に鼻先を押し当てた。
柔らかい髪質がくすぐったい。
なんだか妙な気持ちになってきた。
「……太宰」
「ふぇ?」
「離れろ」
ぶんぶんと太宰は首を振った。
「やだ……」
更に腕に力が入る。ぴったりとくっついた体から、太宰の心臓の音が聞こえてきた。
「……離れたくない」
どことなく舌ったらずな口調だった。
「離れたら私、死んじゃう……」
「死なれたら困るな」
「だから離しちゃダメ!」
ぎゅうぎゅうしてくる体をしっかりと抱き留めてやって、織田はその背中をぽんぽんと撫で叩いてやった。
「分かったから。そばにいてやるよ……」
「ほんとに?」
「ああ」
「ずっと?」
おずおずと体を離して、不安げな面持ちで太宰は織田を見詰めた。
包帯で半分ほど隠れた顔。
真っ直ぐに見詰めたまま、ゆっくりと織田は頷いた。
「ああ。ずっと、だ」
みるみるうちに太宰の顔が華やいでいった。
「……うふふ。やった」
それは無邪気な子供の顔だった。欲しいものを与えてもらって喜ぶ、ただの子供の顔をしていた。
(……駄目だ)
おかしな感情が燻り始めてしまっていたのを察した織田は、心の中で首を振った。
「帰るぞ」
取り敢えず、太宰を家まで送ろう。そう思って手を引いたら、
「ぃ、や――!」
太宰に手を引っ張られた。
思ったよりも強い力で引かれて、ふいに織田は体が揺らいでしまった。
太宰めがけて倒れ込む。咄嗟に近くにあった壁に手を着いた。
太宰は壁に背を預けたまま、黙って織田を見詰めていた。
太宰の頭の上あたりに手を置いたまま、思わず織田は目を瞠った。
至近距離で見詰め合う。
はたから見たら、織田が太宰の体を壁に押し当てて、迫っているように見えるだろう。
なんだか、気まずくなってきて織田は目を逸らしてしまった。
「……おださく」
織田の肩に腕を乗せて、太宰は舌ったらずに名前を呼んだ。
「えっちなことしたい……?」
小悪魔的に微笑む太宰の顔は魔性の色気を孕んでいた。
その表情を魅力的に感じると同時に、織田の中に良くない感情が湧き起こった。
嫉妬と独占欲。
つい最近まで、織田には縁の無かった感情だ。
太宰に対してのみ、唐突に織田はそういった情動に駆られた。
太宰はモテる。男女問わずに、太宰に魅了される連中は少なくない。
もしかしたら、太宰はこういう顔を自分以外の誰かにも見せているかもしれない。
いい歳した大人が情けない。
子供の言動に煽られて、感情的になってしまうなんて。
そんなことくらい分かってはいるけれども――
「……ああ」
満足そうに太宰は微笑んだ。蠱惑的な笑みだった。
それを合図に、織田は太宰の唇を塞いだ。
待ってましたとばかりに太宰は必死にキスをねだった。ちゅっちゅっと唇に吸い付いて、舌を差し出して織田の歯列をなぞった。
顔の角度を変えると、織田は口を開いて太宰の舌を口に含んだ。ぬるりと入り込んできた舌は熱くて湿っていた。
やんわりと甘噛みしてやって、舌の先をジュッと吸い上げる。
「……ふ、んっ…んむ……」
切なそうに吐息を漏らして、太宰は頭を傾けた。我慢できずに、織田は太宰の顔を両手で挟み込むと、少し乱暴に壁に抑えつけた。
ドンッと鈍い音がした。構わずに太宰の唇を貪る。舌の表面を、ざらりと擦り合わせて、裏側をつついてやれば、ぶわっと唾液が溢れ出た。
「んく、んんぅ……」
身長差の都合で上を向きながら、太宰は辛そうに喉を鳴らした。こくこくと唾液を嚥下するものの間に合わず、口の端から唾液が滴り落ちた。
ぴくっと震える舌が愛らしかった。
もっと可愛らしい反応が見たい。ついそんなことを思ってしまった。
太宰の体を捩じ伏せながら、意地悪にも織田は太宰の脚の間に膝を滑り込ませた。そのまま、ぐっと股間を圧迫する。
「んひ……!ぅ……」
びくっと体が跳ね上がる。織田が口を離すと、ねっとりとした唾液の糸が伝った。
「ん、や……」
弱々しい声を上げて、太宰は顔を背けた。目の前に晒された耳に噛り付きながら、織田は膝をぐりぐりと押し当てた。
「ひゃ!?ぃ、痛い……」
力なく太宰の体が倒れ込んでくる。
抱き留めてやると、改めて太宰の線の細さを意識した。思ったよりも細くて華奢だ。
か弱くて小さな存在。
守ってやらなければ、という気持ちにさせる。
「ん、んんぅ……」
切なそうな声を絞り出して、太宰は物足りなげに腰を揺らした。
蕩けた顔で潤んだ目を向けられると、織田の中で欲望が高まっていった。
太宰に対して、こんな感情を抱くのは如何なものかと気が引けた。それでも、どうしても「欲しい」と思ってしまった。
太宰の頬に触れると、顔にかかる髪を撫でた。
包帯で隠れてしまっていない方の目を、真っ直ぐに見据えていたかった。
「どうしよう……」
「なぁに?」
「帰したくなくなった」
太宰の腕が再び首に絡まる。
そのまま引き寄せあうようにして口付けを交わした。


一体自分は何をしているのだろうか。
自分で自分に突っ込みを入れながら、織田は今のこの状況をどう正当化すべきか考えた。
ベッドに仰向けに寝転がりながら、ぼんやりと天井を見上げる。ぼうっとしていたら、ぴちゃぴちゃという粘ついた水音が聞こえてきて、織田は下の方へと視線を向けた。
織田の脚の間に体を滑り込ませて、太宰はベッドに寝そべりながらご奉仕していた。
織田の雄を口一杯に含みながら、視線に気付いて上目を向けた。
「……気持ち良くない?」
濡れた唇から弱々しい声が発せられた。
「いや……」
だんだんと芯を持ち始めてきたそれを、ゆっくりと上下に扱きながら、太宰はその先端を口に含んだ。
生温かい粘膜に包まれると、昂りが大きくなった気がした。

結局のところ、成り行きでホテルに泊まることになってしまった。
こんなことが首領にバレたら、ただ事じゃ済まないだろう。
首領どころではない。
そもそも、未成年の少年をホテルに連れ込んで淫らな行為に耽るなんて、あってはならないことなのだ。
そんなことくらい百も承知なのに。

「ん、んっ……」
一生懸命に喉を鳴らして口淫を続ける太宰。織田は上半身を起こすと、その頭を撫でてやった。
「……はふ?」
愛くるしい上目遣いを向けられる。幼い子供のような顔をしているのに、していることは実に淫靡だ。
そのギャップに不覚ながらも織田は痺れた。ずくり、と下腹部が重たくなった。
口の中で膨れていく織田の欲望。
我慢できずに、太宰は寝転んだまま自らの下肢を寛げた。下着ごとズボンを押し下げると、恥ずかしそうに膝を擦り合わせた。
そのまま、太宰の手は自身には触れずに腰を滑った。まだ乾いたままの入口を擦るのを見て、織田はベッドヘッドに置いてあったボトルを手に取った。
「……使うか?」
「ん……」
太宰が手を差し出した。その手の平に中身を垂らす。とろり、とした透明な粘液を受け止めると、ぬるぬるに濡れそぼった手で太宰は再び入口を弄り始めた。
浅く抜き差しをする度に、ぷちゅぷちゅと音がした。
男のものを咥えながら、体を解す姿は視覚的にかなりきた。
「……く」
織田は声が漏れそうになるのを堪えようと口元に手を添えた。もう少しで達してしまう予感がした。
「太宰……」
さすがに口の中に放つのは躊躇われた。
だんだんと鈍くなっていく思考と、上がる息を堪えながら、精一杯に織田は告げる。
「もう出るから、離せ……」
太宰は首を振った。離すどころが、ジュッと強く吸い付いて射精を促した。
「っ、おい……!」
太宰の髪を掴んで引き剥がそうとするが、頑なに太宰は離れようとしなかった。
「太宰!」
少しばかりキツイ口調で怒鳴る。太宰の肩がびくっと跳ね上がった。
そのタイミングで太宰を引き剥がすも――
「ッ、んんぅ!?」
太宰の顔面に白濁が散った。反射的に太宰は目を瞑った。
「……ぅ」
顔にかかってしまったものを指先で拭う。
すぐに織田は手近にあったティッシュを引き抜くと、太宰の顔を拭いてやった。
「悪い……」
顔を覆っていた包帯までも、どろどろに汚れてしまった。拭ってやるついでに、太宰の髪に指を差し入れて包帯の留め具を探った。
慣れた手付きで留め具を探り当てて外す。はらり、と包帯が解けていった。
太宰の顔が良く見たくて、織田は手の平を頬に当てがった。さっきまで隠れていた方の顔にかかる髪を掻き上げる。
とろんとした顔で太宰は織田を見上げた。
半開きになった口の中を粘液が糸を引いている様が猥褻だった。そのまま織田を見詰めたまま、太宰は汚れた指先をしゃぶった。
ごくり、と織田は唾を呑み込んだ。
かろうじて保とうとしていた理性が一気に崩れていく。
太宰を「欲しい」と思ってしまった。
そっと太宰の手首を掴んで口から引き離すと、入れ違いに唇を塞いだ。
キスをされるのが嬉しいのだろう。太宰は大人しく甘受した。
雛鳥みたいに、ちゅうちゅうと必死に吸い付いてくる。太宰の髪を撫でながら、もう片方の手で体を愛撫する。
上半身の服を着たままだった太宰のシャツの裾から手を忍ばせる。撫で上げていくと、やがて突起に触れた。それをキュッと摘んで、引っ張ったり捏ねたりする。
「んや……、ゃ」
キスをしながら太宰は首を振った。声が漏れるのすら惜しく感じた。唇が離れるとすかさず塞いだ。
するすると手を滑らせていき、下腹部を撫でる。股間に手を忍ばせると、太宰のそれは可哀想なくらい張り詰めていた。
すっかり勃起したその先端からは、とろとろとした透明な蜜が溢れていた。先っぽに触れると、ぬるりと指先が滑った。
「んく……ぅ、ん!」
割れ目の部分を指の腹で擦って、握り込んで上下に扱く。
太宰の舌がぴりぴりと痙攣した。
「……太宰」
ふいに織田が太宰の肩を掴んで、体を引き離した。離れた唇と唇の間を唾液が糸を引いた。
そのままの勢いで、太宰をベッドに突き倒す。驚いて目を丸くする太宰に覆い被さる。
ベッドのスプリングが、ギシッと音を立てた。
「おださく……?」
太宰は怯えたような顔をしていた。
今の自分は、そんなに怖い顔をしているのだろうか。
そう思ったけれども構わずに、織田は太宰の脚を手に取った。足首を掴んで持ち上げると、太腿の内側の柔らかい部分に口付ける。チュッと吸い付いてから、優しく噛み付いた。
織田が目配せをすると太宰と目が合った。
太宰は顔を真っ赤にして目を逸らした。
「続き、するんだろ?」
「…………」
何も言わずに目を伏せたまま太宰は頷いた。
膝裏を掴んで押し曲げる。織田が身を乗り出す。既に織田の欲望は再び熱を持っていた。
猛ったそれを見下ろすと、太宰は期待に胸が高鳴った。
その切っ先が埋め込まれていく。
「ぃ、や……!あぁぁ――!?」
一気に内壁を擦り上げると、呆気なく太宰は達してしまった。ぴゅっと飛び散った白濁が服を汚した。
「は、ひ……ぃ……」
絶頂した余韻に浸って打ち震える太宰に対して、織田は容赦なかった。
萎えた太宰を握り込むと、敏感になっているその先端を弄った。
「やっ、ん……!いまさわったら……だめ……」
「嫌だ」
言いながら耳を舐め上げる。
びちゃびちゃと唾液が粘つく音を直に受けると、太宰はひたすら首を振った。
織田が与える刺激のひとつひとつに、敏感になって反応する姿が愛らしかった。
「……太宰」
太宰の耳へ名前を吹き込む。
吐息を含んだ、色を持った声音だった。
「ひぅ……っ。声やだ……」
そんなことを言われてしまうと、つい意地悪したくなってしまった。嫌がる太宰の耳へひたすらに声を吹き入れ続けた。
ついでに腰を揺らして中を掻き回しながら、濡れそぼった前を弄る。
同時に与えられ続ける快楽を、太宰はどう処理したら良いのか分からなかった。
まだまだ子供の太宰にとっては強すぎる快楽だった。
早くもまたもや吐精しまうと、とうとう太宰はぐずり始めてしまった。
「うっ、ぅ……も、やめ……て……!」
「じゃあやめるけど?」
あっさりと織田は身を引こうとした。
「や、やだ……!」
すぐに太宰は織田を引き止めようとした。織田の両腕を掴むと、弱々しく頭を胸元に押し当てた。
「……やめない、で……」
「どっちだよ……?」
「う……」
太宰の目から涙が、ぽろっと零れ落ちた。泣いている顔を見られたくないのか、太宰は下を向いた。
「……い、いじわる」
さすがに泣かせてしまうと罪悪感が込み上げた。太宰の顔に手を添えて上を向かせると、そっと指先で涙を拭ってやった。
「た、たまには……私だって……」
際限なく涙が溢れてくる。
透明できらきらと輝く雫。
その雫の形を崩してしまうのは勿体無く感じられた。
溢れてくる涙。
それを受け止めてやれば、少しは太宰が抱えるものを呑み込んでやることが出来るだろうか。
頬を濡らす涙を舐め取ってやってから、額と額をぶつけて見詰め合う。
「…………寂しいよ。おださく……」
まだまだ子供なのに、背伸びした生き方を求められるが故の孤独。寂寞。
少しでも、力になれたら良いのに。
頭を掻き抱いてやりながら、ただ真っ直ぐに織田は見詰め続けた。
「そうか……」
ぎゅっと太宰が抱き着いてきた。その体を受け止める。じっとしていると、触れている部分が熱くなった。
「寂しくなったら、いつでも俺のところに来いよ」
「……いいの?」
「ああ」

誰にも渡さない。
俺だけのお前でいて欲しい。
「だから、俺だけにしろ」
太宰の手を取って、離れないように指と指を絡めて強く握った。
「頼むから……、そういう顔をするのは俺の前だけにしてくれ……」
誰にも知られたくなかった。
俺だけが知っていれば良い。
「……わかった」

太宰は従順な態度で受け入れた。
へにゃっとした顔を崩すと、涙を零しながら破顔した。
「おださくのものになっちゃった……」
その笑顔は反則的で、今まで見てきたどんな景色よりも心惹かれた。

「ねぇ、おださく……もっとして……?」
いやらしく体を捩らせて、太宰は空いている方の手でシャツを捲り上げた。
「もっとわたしをおださくのものにして……?」
お願い、なんて懇願されたら、どうして突き放すことが出来るだろう。
「……煽るなよ」
「ふふふ」

夜はまだまだ長い。
いっそこのまま朝が来なければいいのに。
そうしたら、この世界からお前を隔離させることが出来るのに。
いつまでも、一緒にいることが出来るのに――
そんなことを考えながら強く抱き合った。


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