永遠の21歳誕生日

高校を卒業し、成人式を迎えた。
成人式でひさしぶりにあの化け物と会った。
新羅は「さすがに大人になれば君達が啀み合い、争い合うことはないだろう」と思っていたのだろう。
俺はあの化け物が嫌いだった。
出来ればあの化け物には会いたくなかった。
会ったら、忘れようとしていた気持ちを思い出すことになるから。
嫌でも思い出してしまうから。
「嫌い」の言葉の裏側に張り付く、正反対の二文字の言葉を――


「……全く。新羅のせいで最悪な目にあったよ」
成人式を終えてしばらく経った頃。
季節は春がそろそろ終わるくらいで、桜の木々を覆う新緑の若葉が眩しい頃合い。
「人生三大最重要イベントのひとつに、この世から消えて欲しい存在ぶっちぎり一位のシズちゃんを放り込んでくるなんてさ」
「ちなみに君にとってあと二つの最重要イベントってなんだい?」
全く悪びれる様子もなく、新羅はけろっとした様子で問い掛ける。臨也は厭わしそうな目で新羅を見やった。
「誕生と死亡」
ほとんど抑揚を付けず告げる。
「へえ……」
新羅は感心したように目を丸くした。まるで物珍しい怪事件でも目の当たりにしたみたいに、その目が好奇心旺盛に輝いた。
「君でも死について畏れがあるんだ?」
「まさか。俺は死なないよ。死なないし歳も取らない」
さらりと言い放つ。新羅は小さく「ふふっ」と笑った。
「さっき君は人生には三つの最重要イベントがあるって言ったけれど、君の場合はどうしても外せないあとひとつがあるんじゃないのかな?」
「それじゃあ四つになっちゃうじゃないか」
「いいんじゃない?四つあっても」
にこにこ笑って新羅は指を一本立てた。
「誕生」
そう言って、次に二本目の指を立てる。
「成人」
三本目の指を立てる。
「死亡」
「……最後は?最後は何?」
少しばかり苛々した口調ながらも、新羅の口からどんな言葉が飛び出すのかわくわくしていたのもまた事実。
新羅は眼鏡の奥の目を輝かせた。
ゆっくりと最後の指を立てていく。
「静雄くんに出会ったこと」
思いも掛けない新羅の発言。
臨也は目を丸くしてぱちくりした。
しばらく間を置いてから、ようやく時間を取り戻したように、
「…………は?」
と聞き返すのが精一杯だった。
「静雄くんに出会ったことで君の人生は二転三転、今まではあらゆる事象は君の手の平で思うように転がされていたけれど、静雄くんの登場によりそれも七転八倒」
はっ、と臨也は鼻で嘲笑った。
「確かにシズちゃんとの出会いは思い出したくもないし、シズちゃんのせいで俺は何度も計画を狂わされることもあったよ。でも、だからと言ってシズちゃんが俺の掲げる三大最重要イベントに並ぶなんてありえない」
「そうかな?その存在そのものが君の人生を左右するって思うと、死ぬことより規則性がなくて面白くない?」
「俺は『面白い』『面白くない』で最重要イベントを決めていない」
臨也は眉間に皺を寄せた。ソファに座ったまま、組んだ脚の膝に肘を立てると頬杖をついた。
「じゃあなに?」
新羅は全く臆することなく追及を続ける。テーブルに置かれたティーカップを手に取って口を付けるついでに、向かいに座る臨也へ向けて身を乗り出した。
「それは……」
臨也の前のテーブルに置かれたコーヒーカップ。その中身のブラックコーヒーの水面に、自分の顔が写った。
それをそっと見下ろす。不覚にも臨也の脳裏を静雄の姿が掠めた。
(シズちゃんはきっと子供舌だから、ブラックコーヒーなんて飲めないんだろうなぁ)
そんなことを考えてしまったのだ。
臨也はゆっくりと唇を動かした。
「『楽しみにしていること』」
「……ふぅん」
今度はなんだか冷めたような反応が返ってきた。カタンと新羅がティーカップをテーブルへ置いた。
「案外普通なんだね、君」
「当たり前だろ。俺は人間なんだから」
そう言って、臨也はコーヒーカップを手にした。ブラックコーヒーを啜りながら、「シズちゃんならこれに、ミルクと砂糖は何個入れるんだろう?」とか、どうでもいいことを考えてしまった。


「あ?もうすぐノミ蟲の誕生日だ?」
電話の向こうで発せられた言葉を、静雄は押し売りを断るみたいな口調で返した。
『そうそう。そろそろゴールデンウィークでしょ?ゴールデンウィークといえば折原くんの誕生日』
「ゴールデンウィークといえばこどもの日だろ?」
真面目に返す静雄。電話越しに新羅が、
『君の頭はいつまでも子供だからね』
と笑いながら言った。
「あ?」
もしこれが電話じゃなく、面と向かって相対していたら新羅は間違いなくぶん殴られていただろう。
『話を戻そうか』
静雄のイラつきを悟ったのだろう。途端に新羅は真面目な口調になった。
『高校の時さ、門田くんも交えて皆でそれぞれの誕生日を祝ったりしたよね?』
「ああ……。そんなこともあったな」
『卒業して皆ばらばらになってからはそういうのもなくなったじゃない?でも、せっかくの機会だからまたそうやってワイワイお祝いするのも悪くないと思うんだよ』
「じゃあ勝手に祝ってろよ」
『……話聞いてた?』
新羅が言いたいことくらい、さすがの静雄にだって理解できる。
『折原くんの誕生日、また皆で祝おうよ』
改めて宣言されると、静雄はゾワッと寒気がした。
「なんで俺があのノミ蟲の誕生日を祝ってやらねぇといけねぇんだよ。せっかくの休みだってのによ……」
『静雄くんは友達は大事にするものだと思ってた』
「あいつを友達だと思ったことは過去に一度もねぇ!」
『じゃあこれからは?』
新羅の発言はいつだって鋭い。
さすが医者だけある。(無免許だけど)
「…………たぶんない」
『今ちょっと考えたでしょ?』
「う、うるせぇ!!」
最後に臨也に会ったのは成人式の時だ。
高校時代からあまり変わらないその容姿と立ち居振る舞いに苛ついた反面、不思議と落ち着いた気がしたのを覚えている。
――自分だけじゃない。
そう思うと安心した。
あの時のまま、変わらない。
新羅が言いたいのは、そういう気持ちにさせる友人を大事にしろということなのか。
頭が悪いながらにそこまで考えると、静雄は観念したようにそっと息を吐いた。
「……わかったよ」
『ありがとう!静雄くん!』
新羅の笑顔が見えた気がした。「また連絡するね」と言って新羅は電話を切った。


そうして迎えた臨也の誕生日当日。
5月4日の池袋。
待ち合わせ場所にしていた「いけふくろう」の前で静雄は愕然とした。
(騙された――!!)
その場に佇んで、目の前の人物を凝視しながら拳を強く握り締めた。
目の前の人物――臨也は静雄を馬鹿にしたみたいな薄ら笑いを浮かべた。
その顔の憎たらしさに、衝動的に静雄は拳を振り上げそうになったが、ぐっと堪えた。
今日はゴールデンウィークだ。人で賑わう駅構内で騒ぎを起こしたくはなかった。
「……まさか本当に来るとはねぇ」
「あ?」
「やっぱりシズちゃんは馬鹿だ」
ピキッとこめかみのあたりで何かが弾ける音がした。
「んだとテメェ……、なんでわざわざせっかくの休みにテメェの顔なんて見ないといけねぇんだ――」
「新羅の仕業だろ?」
臨也は目を細めて静雄を見た。
「は?」
「わかってるよ……。新羅にハメられたんだろ、俺達」
臨也の口元が緩く弧を描いた。
「誰も来ないかと思ってた」
静かに目を伏せる臨也を見てハッとした。
臨也は分かっていたのだ。
今回の誕生日会。新羅は静雄と臨也を二人きりにさせる算段だったということを。
そして、きっと静雄は新羅と門田がいたとしても来ないだろうと。
だから今日はひとりぼっち。
ひとりきりで誕生日を迎えるつもりだったのだろう。
「…………」
静雄は握り締めていた拳を緩めると、改めて臨也の姿を眺めた。
いつもと違う臨也の格好。黒のファーコートではなく、清潔感漂うグレーのジャケットとスリムなデザインのパンツ。心なし、髪型も美容院でカットしてきたばかりみたいにサラサラツヤツヤしていた。
(……まさか、俺のために?)
我ながら単純だとは思う。
それでも、そう思ってしまうや否や、静雄はじわじわと顔が熱くなったのを感じた。
つい咄嗟に、手の平で口元を覆って目を逸らす。
そんな静雄をちらりと見上げて、臨也もほんのりと頬を染めた。
静雄の格好もいつもと違っていた。
お決まりのバーテン服とサングラスではなく、パーカーにジーパンというラフな格好だった。
はっきり言って、おしゃれではない。
けれど、静雄は背が高くてスタイルがいいから、返ってシンプルな格好の方が良く似合う。シンプルだからこそ、金髪も良く映えている。
(シズちゃん、ちょっとかっこいいかも……)
胸がドキドキした。今日の池袋で、今の静雄を「自動喧嘩人形」などと囃し立てる者などいないだろう。(静雄が暴れなければ)
「おい、ノミ蟲」
「な、なに……?」
「なんか欲しいもんとかねぇのか?」
照れ臭そうに静雄はサングラスを押し上げる動作を取った。が、今日はサングラスを身に付けていないことを思い出すと、空いた手で後ろ頭を掻いた。
「……シズちゃんの安月給で手に入るような物なんていらないよ」
「あ?」
「だから物じゃなくてさ」
たくさんの人が通り過ぎていく。
彼等は自分達の存在なんて気にしていない。
まるで世界に二人きり。
取り残されたような錯覚を覚えた。
けれど今は、そんな孤立感が心地良かった。
「お願い、聞いてくれる?」
「なんだよ?」
「今は必要ないから言いたくなったら言うね」
ぷいっと顔を背けて、臨也は歩き出す。
「早く行こ。シズちゃん」
くるっと振り向いた臨也の顔は実年齢には不釣り合いに思えるほど幼く見えた。

60階通りを人混みを縫いながら歩いて、首都高の高架下の横断歩道を渡って、乙女ロードを横切るとサンシャインに到着した。
サンシャインの中へ入り、向かうのは水族館。
エレベーターで上がり、到着すると入場料を払う。
「すごいね、シズちゃん。お魚いっぱいだ」
ガラス張りの水槽の中を自由に泳ぎまわる魚の群れ。見上げながら、静雄は感嘆の声を漏らした。
「すげぇな……」
しばらく静雄は水槽の前に佇んでいた。
「シズちゃん」
早く次を見たい臨也は静雄の顔を覗き込んだ。
「次いくよ」
他の魚とか、ペンギンとかを見ながらも、静雄は積極的に前に出て覗きに行くというよりは、人混みより後ろに立って眺めている感じだった。
そんな静雄を観察していたら、なにやら良からぬ予感がした。
静雄から視線をずらすと、見知らぬ女の子のグループが静雄を見てコソコソ話をしていた。
最初は「平和島静雄に気付いたか?」と思ったが違うようだ。笑顔でキャイキャイしている様子から、どうやら静雄へ好意を抱いているらしい。
臨也は少しだけ嫌な気分になりながら、次のコーナーへ移動した。
背後を伺うと例の女の子達も後をついてきていた。心なし、さっきより近い距離で女の子達は静雄を眺めていた。
臨也の耳に会話が入り込んでくる。
「やっぱり幽平に似てるって!」
「顔小さいし、脚長いしスタイルいいよね。モデルさんかな?」
「隣の子も髪の毛サラサラで華奢だし綺麗だよね。彼女かな?」
「男の子かな?にしては女の子みたいに綺麗だよね」
女に間違えられたことは少しだけ腹立たしかったけれど、綺麗と言われて悪い気はしない。
臨也は静雄の隣へ寄ると、無防備なその手にそっと触れてみた。おもむろに握ってみると、静雄は我に返ったみたいにピクッと反応した。
「テメェ、触んじゃねぇよ……!」
「やだ。俺はシズちゃんに触りたい」
にこっと笑って見上げると、静雄は「うっ」と目を逸らした。
「どうせテメェお得意の嫌がらせだろ……?」
「そう思う?」
にこにこと臨也は微笑んだ。その笑顔には不思議と不気味さの類は感じ取れなかった。だから静雄は、もしかしたら騙されているかもしれないと思いながらも、いっそ騙されてもいいやと思ってしまったのだ。
「だったらとことん乗ってやるぜ?臨也くんよぉ?」
ぎゅっと手を握り返す。静雄の手はとても温かくて、臨也はブワッと体温が上がったのを感じた。

水族館を出ると、次に向かったのは個室のカラオケ屋さんだった。
静雄は受付に二言三言告げると、部屋の番号札を受け取った。部屋に向かおうと臨也より前を歩こうとした時、何かを思い立ったように静雄は立ち止まって振り返った。
「なに?」
「…………」
静雄はほんのり頬を染めると、思い切ったように臨也の手を掴んだ。
そのままグイグイ引っ張られる。
「シ、シズちゃん……!?」
「うるせぇ。テメェが触りたいっつったんだろうが」
今度は振り向くことなく歩き続ける。
部屋まで着くと、思ったよりも広い個室だった。
「……言っとくが、言い出したのは新羅の奴だからな」
「え?」
「ここの予約。本当は四人で予約したんだけどよ」
それなのに蓋を開けてみたら二人だったというわけだ。
席に着くなり、見計らったかのように食事が運ばれてきた。
静雄と臨也はカラオケで歌うことなく、黙々と食事をしていた。特に話すこともない。
「……ねぇ、シズちゃん」
「ん?」
ピザを頬張りながら、静雄はもぐもぐと口を動かしていた。
「津軽海峡うたってよ?」
「やだ」
「えー!」
じとっとした眼差しを臨也は向けた。
「じゃあルビーの指輪」
「……しょうがねぇなぁ」
「やったあ!」
口の中のものをオレンジジュースで飲み下すと静雄はマイクを手に取った。臨也が慣れた手付きで曲を予約するのに使うタブレットを操作する。
やがてイントロが流れ出す。
早く静雄の歌声が聴きたくて、臨也は胸が高鳴った。
すうっと静雄が息を吸う音がした。そして喉仏が上下する。
静雄が歌う「ルビーの指輪」――
(シズちゃん、こんな切ない恋の経験なんてしたことないのに……)
どうしてこんなにも心を打つ歌声が出せるのだろう?
泣きそうな気持ちで聞き惚れていたら、あっという間に終わってしまった。
歌の余韻に浸る間もなく、最後のデザートが運ばれてくる。
店員さんが運んできたのは、ホールのショートケーキだった。部屋に入ると同時に、
「おめでとうございます」
と言われて驚いた。
テーブルに乗せられたケーキ。
その上には真っ赤な苺がルビーみたいにきらきら輝いて鎮座していた。そして、その苺に囲まれた中心に――
【HAPPY BIRTHDAY  IZAYA】
と記されたプレートが乗っていた。
「シズちゃん、これ……」
「あー……これを言い出したのは門田らしいけどな」
まじまじとケーキを見下ろす臨也。その目は子供みたいに幼くてあどけなくて、苺みたいな形をしていた。
写真を撮ってから、ケーキを切り分けることにした。静雄の皿へ大きめに切り分けたものを乗せて、互いにケーキをつつきながら、臨也は甘いクリームを口の中で転がした。
「……あのね、シズちゃん」
静雄は大きく口を開けてケーキを食べながら臨也を見た。
「俺、誕生日ってこんなふうにお祝いしてもらったの、高校の時だけだったからなんだか不思議な気持ちだよ」
「妹たちは?祝ってくんねぇの?」
「くれるよ。でもなんか違う」
ぷすっとフォークで苺を刺す。
「高校で、新羅とシズちゃんとドタチンと皆の誕生日をお祝いしたり、楽しかったなぁ」
苺を口に含むと思ったより酸っぱかった。
「うちは小さい頃から親は家にいないし。友達なんて新羅以外いなかったし。高校を卒業してから初めて誕生日を迎えた時にね、思わず『寂しいなぁ』って思っちゃったんだ」
静雄は何も言わずにケーキを食べていた。機械みたいに静かに。
「でもまさか、シズちゃんとふたりきりで誕生日を祝うことになるなんて思ってなかったけど」
ははは、と乾いた笑いを浮かべる臨也の顔はどこか痛々しくも見えた。そんな顔を見て、本当なら「ざまあみろ」と思うところなのだろうが、なんだかそれは静雄のポリシーに反する気がした。
「……臨也」
フォークを置いて、静雄は顔を上げた。
「嘘ついた、わりぃ」
「……え?」
気まずそうに、静雄はポケットをあさった。取り出したのは小さい包みで、それを臨也へと差し出す。
「プレゼント、用意してねぇって嘘だった。それやるよ。いらねぇと思うけど」
包みを封しているセロハンテープを器用に剥がすと、中の物を取り出す。臨也の手の平にコロンと転がり落ちたのは、シルバーのリングだった。
「この間トムさんに連れていってもらった店に売っててよ。なんかいつもテメェが付けてるのと似てると思って、新羅に誕生日プレゼントが云々って言われていたのも思い出して、なんつぅか……その……」
口をもごもごさせてから、意を決したように静雄は告げる。
「誕生日、おめでとうな」
その一言を待っていたのかもしれない。
静雄にそう言ってもらうのを。
臨也はリングをギュッと握り締めると、改めて見下ろした。
「……ルビーじゃなくて残念」
ぼそっと呟く。静雄は「はあ!?」と返してきたが、クスクスと臨也は笑った。
「じゃあ返せよ」
「やだ」
「いらねぇんだろ、どうせ」
「いらないとは言ってないじゃん」
言いながら臨也はリングを指に嵌めてみた。奇しくもそれは薬指にぴったりのサイズだった。
こういう偶然に臨也は弱い。
「……あのね、シズちゃん」
顔を真っ赤にして、震える声で言葉を紡ぐ。
「お願いがあるんだけど……」
「なんだよ?」
指輪を嵌めた手を握って、なんとかして精一杯の勇気を振り絞る。
「……好きなんだ、俺。君のことが」
「は?」
「ずっと好きだった……。ううん、今も好きなんだ」
「ちょっと待てよ……」
「諦めようと思っていたけれど、でも今日で諦められなくなった」
いつもは余裕ありげに飄々と振る舞う臨也が、弱々しく怯えるみたいに静雄に接する。
嫌がらせか?と静雄は思ったが、すぐに違うと直感で悟った。
こういう時、なんて言葉をかけたらいいのか?
経験のない静雄には分からなかった。
でも、応えないわけにはいかない。
静雄は深呼吸をすると、臨也を真っ直ぐに見据えた。
「俺でいいなら、だけど……付き合ってみるか?」
「……え?」
「テメェを好きになってみようと思ったんだけどよ……どうだ?」
瞬きすら忘れて、臨也の目に涙の膜が張った。
「……馬鹿じゃないの?ほんと……信じちゃうなんて、俺なんかのこと……」
それは最後の強がりだ。
静雄は真っ直ぐ見詰め続けるだけ。
その視線は臨也だけに向けられるもの。
臨也だけしか見ていない。
「大事にしてくれる……?」
「努力する」
涙の雫が落ちる。
ぼろぼろと涙を零して泣きじゃくりながら、臨也はゆっくりと頷いた。

新羅の言う通りだ。
俺の人生にシズちゃんは欠かせない。
全てはシズちゃんのせいだ。
シズちゃんに出会ってしまったから。
シズちゃんに出会ってから、俺の人生はシズちゃんに狂わされた。
21歳の誕生日――俺はこの日、大事なことを知った。
ずっと、永遠に、このままでいられたら良いのに。




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