アリガトウアイシテル

12月20日は赤ちんの誕生日だ。
でも赤ちんは京都にいて、オレは秋田にいるから会うことはできない。
会えない代わりに誰よりも早く「おめでとう」って言ってあげないと。
じゃないと赤ちんの彼氏失格だ。

時計の針と睨めっこをして、秒針が残りカウント10秒を刻む頃。
いつでも通話できるように身構える。
のこり3秒になってから、思い切って通話ボタンをタッブした。
(3コール、だっけ?)
赤ちんが電話を取るのは決まって3コール目が切れる頃。
いつもそうだ。電話を鳴らしてすぐに赤ちんが出ることは滅多にない。
その理由、オレはちゃんと分かっている。

『はい』
いつも通りのやけに落ち着いた声。
いつもの赤ちんだ。
そしていつも通り3コールきっかりで赤ちんは電話に出た。
「赤ちん、誕生日おめでとう」
直に顔を合わせているわけじゃないから、今オレが笑っていること、赤ちんには伝わっていないと思うけど。
それでも大好きな赤ちんの誕生日だもん。笑顔にならずにいられなかった。
『……ありがとう』
あ。
赤ちん今ぜったい笑ってる。
ほんのりと頬を染めて、嬉しそうに目を伏せて、精一杯強がっている。

赤ちんは負けず嫌いで意地っ張りだ。
声の雰囲気だけだと、落ち着いていて大人びているようでも、オレはちゃんと知っているんだよ。
赤ちんがいつも電話を3コール鳴らしてから出る理由も、全部は赤ちんがオレを好きだから。
オレに嫌われたくなくて、大人びたふりをする。
きっといつもオレからの電話が来るたびに、赤ちんは瞳を潤ませて高鳴る胸を抑えつけながらも3コール待つのだ。
がっついていると思われたくないから。
だから赤ちんはオレに対して要望を口にすることは少ない。

「ねえ赤ちん。せっかく赤ちん誕生日なんだからさ。赤ちんの願い、オレがなんでも叶えてあげるよ?」
『ありがとう。気持ちだけで充分だよ』
だからきっと、これも嘘。
(悔しいなぁ……)
もし側にいられることが出来たなら、赤ちんのことをギューって抱き締めて、泣くまで離さないのに。
そしたら赤ちんだって観念して、素直になってくれるのに。
「赤ちんっていつもそうだよね」
『なにがだ?』
「もっとオレに甘えてくれたっていいのに」
『子供が偉そうなこと言うな』
「赤ちんだって――」
――子供のくせに。
言いかけてやめた。
やめてから、開きかけてしまった唇をどうしたらいいか分からずパクパクさせた。
「赤ちん」
『うん?』
「好きだよ」
電話の向こうで赤ちんが息を呑んだのが分かった。
もしかしたらこれは、赤ちん泣いちゃうかもしれない。
『……うん。僕も敦のこと』
「ん?」
『………、き』
「え?なに?」
『……………だ』
「なに?聞こえないし〜」
『す、好き……!だ……何度も言わせるなばか……!!』
震える声を耳に受けて、心臓がキュンキュンした。
なにこれ可愛すぎでしょ?
なんなの?え?
「あーあ……赤ちんが可愛すぎて勃ちそうだし」
『!?し、知るか!!』
「もしかしてそう言う赤ちんこそ勃ってたりしてぇ〜?」
『し、知らない!!うるさいばか!!』
あー……やっぱり赤ちん抱き締めたいなぁ。
ぎゅーってして、その意地っ張りなところとか、プライドとかズタズタにしてオレだけの赤ちんにしちゃいたい。

「赤ちんのためにえっちな下着とか買ってあげようか?」
『いらない、そんなの……』
「えー、似合いそうなのに……」
唇を尖らせて甘えるような物言いをしてみせると赤ちんは弱い。
もしこれが電話じゃなかったら、「敦が言うならしょうがないなぁ」と甘やかしてくれるのになぁ。
「じゃあペアリングとかする?室ちんみたいに」
『別にそういうの僕はいらない』
「じゃあ赤ちんは何が欲しいの?」
『だから僕は別に……』
少し口ごもってから、赤ちんは困ったように言葉を紡いだ。
『お前の元気な顔が見れれば僕はそれで……』
そこまで言ってから、赤ちんは喋るのをやめた。
ぽーっとオレは胸が温まった。
「赤ちん、それって……オレに会いたいってこと?」
『……ぅ』
困ったみたいに赤ちんは何も喋らなくなった。
可愛い!
きっと赤ちん、今すごく泣きそうな顔をして真っ赤になってるに違いない。

やっと聞けた赤ちんの本音。
貴重な貴重な赤ちんの想い。

「赤ちん!オレ会いにいくよ?赤ちんに会いに今すぐ……」
『だ、だめだ……!』
これも赤ちんらしい即座の否定。
「なんで?」
『……だって』

あれ?なにやってんだろ?オレ。
赤ちんの誕生日だから、赤ちんに幸せになって欲しくて。
大好きな赤ちんに大好きって伝えたくて。
赤ちんのことが好きだから。
泣かせるつもりなんてなかったのに。
「ごめんね……、赤ちん」
鼻を啜る音が聞こえてきて胸が痛んだ。
『僕の方こそすまなかった。でも敦に会いたくないわけじゃないんだ。ただ一度会ってしまったら怖いんだ』
「こわい?」
赤ちんからの返事を待ちながら、さりげなく部屋の窓を開けてみた。
窓の外はとても寒くて、暗くて、それでも真っ暗な空には星が散らばっていた。
今からこの暗闇を掻き回して、赤ちんを捕まえにいくことくらいオレには簡単にできそうなのに。
でも、ぐしゃぐしゃに掻き回した後に残るものってなんだろう?
赤ちんが言いたいのって多分それなんだ……――

『離したくなくなってしまうだろう?』

残念だけどね、赤ちん。
そんなふうに言われちゃったらオレ、赤ちんを捕まえずにはいられないんだよ。



「あっ、や……敦、んっ」
朝一番で新幹線に飛び乗った。
長い道のりだったけど、赤ちんのいる京都まで急いで向かおうとした。
でも、会いたいと思う気持ちは同じだったみたいで。
結局、赤ちんも新幹線に乗ってきて、東京で落ち合うことになった。
駅でお互いを見つけると、手を取り合って駆け出した。
少しでも二人の時間を無駄にしたくなかったから。
『せっかくだから、ひとつだけわがままを聞いて欲しい』
珍しく、赤ちんがねだってきた。
赤ちんのお願い通りにオレ達は、赤ちんの財閥が契約しているという都内の豪華なホテルの一室を貸し切った。
二人きりになるや否や、今までの寂しさを埋めるように互いを求めた。
ベッドに赤ちんを押し倒して唇を貪る。
赤ちんは相変わらずちっちゃくて、唇はぷるぷるしていて美味しい。
「んぅう〜!っ、は……息できな、ンむぅ!?」
文字通り息つく暇もなく唇を啄む。
小さい唇を思い切り吸い上げて、下唇に噛み付いてから、口の中から舌を引っ張り出す。
舌の先を甘噛みしてやると、赤ちんの体が力なく震えた。
「は、は……ふぅ、ふ…っん…」
苦しそうにする赤ちんを見ているとさすがに可哀想になってきた。
体を起こして唇を解放してやると、赤ちんは涙目でオレを見詰めていた。
その眼差しは別にオレを責めるわけではなく、申し訳なさそうに睫毛が陰を落としていた。
「……あつし」
「んー?」
「シャワー……浴びてきてもいいか?たぶん僕、汗臭いと思うから」
「別にそんなことないと思うけど」
首筋に鼻を寄せて、クンクンと匂いを嗅いでみるけれど、いつもの赤ちんのいい匂いがするだけだ。
「ぅ、やだ……!」
ぐいぐいと赤ちんが肩を押しのけて苦しそうにするものだから、しょうがなく身を引いた。
「でも、せっかくいい雰囲気なのにお預けとか赤ちんひどいし」
「だって僕……」
「別に臭くなんてないから早くシよーよ?早く赤ちん抱っこしたい」
ぎゅうぅっと抱き締めてみると、やっぱりこれくらいの感触がちょうどいい。
柔らかくない、ちゃんとした男の子の体だ。
ましてやスポーツをしている赤ちんの体は筋肉が張っていて、どちらかといえば硬いくらいだ。
だけどオレにはちょうどいい。
少しくらい乱暴にしても簡単には壊れないから。
でもそのせいで赤ちんのこと今まで何回も泣かせちゃったんだけどね。
「あ、いいこと思いついたし」
赤ちんの顔を覗き込んで、大粒の目をしっかり見詰める。
「一緒にお風呂入ればいいんだよ」
「えっ!?」
「オレが赤ちんのことキレイキレイにしてあげるし」
「や、やだ……!」
「なんで〜?」
「だって……」
顔を真っ赤にして目を伏せる赤ちんを見ていて欲情しないはずがなかった。
「ほら、いくよ」
ひょいっと赤ちんの体を担ぎ上げるとそのままシャワールームまで向かう。
「う、やだ……敦、頼むから降ろして……!」
「やだし。赤ちん誕生日なんだから、今日くらいオレが赤ちんのこと甘やかしてやるし。赤ちんの体、すみずみまでキレイにしてあげるし」
嫌がる赤ちんを運び、半ば強引に服を剥ぎ取った。
下着を脱がす時、赤ちんは本気で抵抗してきたけど別に気にしなかった。
案の定、赤ちんの下半身はちゃんと反応していて、緩く頭を擡げていた。
「あ、見ないで……」
膝を擦り合わせて、赤ちんは泣きそうな声を上げた。
「敦は脱がないのか?」
「んー?だってオレは別にシャワー浴びたくないし。今日はオレ、赤ちんの使用人みたいなもんだし」
裸の赤ちんをシャワールームに押し込んで、頭の上からシャワーの湯を注ぎかけた。
ちゃんと温度を測ってから、冷たくなくて熱すぎないように。
「どこ洗って欲しい?髪の毛?それとも……」
前にまわした手で、くにっと胸の先の粒を押し潰す。
「ん、やぁ……そこ」
「なぁに?ここ洗って欲しいの?すけべぇ〜」
「ち、ちがう……!」 
くるっと赤ちんの体をこちらに向けると
小さい胸の粒にしゃぶりついた。
「やっ、ん……噛まないで」
「痛かった?」
ごめんごめん〜、と謝りながら触れるか触れないかの絶妙なタッチで優しく乳首を愛撫してやる。
赤ちんは切なそうに眉の形を歪めて、困ったようにこちらを見下ろしていた。
「てゆーか、赤ちん痩せたよね?」
「そうかな……」
「うん。おなかぺったんこ。ちゃんとご飯たべてるの?」
「……うん」 
あらら。
なんで赤ちんそんなに元気ないのかな?
赤ちんにもっと元気になって欲しい。
そう思って、赤ちんの脚の間で揺れる小さい竿をギュッと握り込んだ。
「ひゃっ!?あ、ぅ……」
玉と一緒に手の平で包み込んで、強弱をつけて揉み揉みする。
ぬるぬるしたのが赤ちんの先っぽから溢れてきて、手がべたべたしたけど赤ちんのならいいや。
手の中でだんだん大きく主張を始める赤ちんが可愛くて愛おしくて。
いつも控え目な赤ちんだけど、体はこうやってちゃんと甘えてくるんだから。
(本当に可愛い……)
ぱくりっと赤ちんを口に咥えると、びっくりして飛び跳ねた赤ちんの体を壁に押し付ける。
「だ、だめ……あつし、やだ……きたない」
オレの頭を掴んで、必死に赤ちんは押しのけようとした。
それでもオレは赤ちんの両の腿を指が食い込むくらい強く掴んで離さなかった。
ちゅうちゅうと音を立ててしゃぶりつく。
先っぽを舌で押し潰して、括れたところを唇で挟み込む。
「ん、やぁ……!離して……も、でちゃ……ッ!」
先端の窪んだところを歯で引っ掻いた瞬間、口の中で赤ちんが弾けた。
わざと口を離して、赤ちんから飛び散った飛沫を顔に受けてやる。
その顔のまま見上げると赤ちんは泣きそうな顔をした。

「あ……だから離せって言ったのに……」
「別にいいし」
口元のそれを拭い取ってから、ぺろりと舐める。
服が濡れるのも御構い無しに、頭からシャワーをかぶると、邪魔な前髪を後ろへ掻き上げた。
赤ちんが何やら可愛い顔をしてオレをじっと見詰めていた。
「なに?」
「!?あ、その……」
「見惚れちゃった?」
「…………」
すぐに返事はなかったけれど。
少し間を置いてから、こくりと控え目に頷かれてしまったらもう色々と抑えきれなくなる。
「っ、赤ちんごめん!!」
くるりっと赤ちんの体を反転させて壁を向かせると、腰を掴んで引き寄せる。
手際良く衣服を寛げて、想像以上に大きく膨れ上がってしまった自身を軽く扱いてから、赤ちんの腿に挟み込んだ。
にゅっと挿入されたオレのが、一度果てて萎えた赤ちんを持ち上げる。
「一回これでヌかせて……」
ゆっくりと腰を動かして、硬い腿の感触を堪能する。
赤ちんの肩に顎を乗せてすりすりと頬を擦り付ける。
気持ち良くて口から吐息を漏らすと、くすぐったいのか赤ちんの体が、ふるふると震えた。
「ん、はぁ……」
けっこうあっさりとヌいてから、ごく自然な流れで赤ちんを抱きかかえる。
「じゃあそろそろおねんねしないとねぇ〜」
「えっ、え……」
訳がわからないといった具合で赤ちんが見上げてくる。
「まだ体洗ってない……」
「もう〜別にそんなのいいってば」
「でも……」
「あんまりうるさいと嫌いになるよ?」
「っ!?」
これを言うのは卑怯だって分かってる。
でもこれを言うと赤ちんはいつも黙っちゃうから。
これは魔法の言葉。
可哀想かもしれないけど、これを言うと赤ちんはなんでも言うことを聞いてくれるようになる。
「……ごめん」
赤ちんの大粒の目から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
ベッドまで赤ちんを運ぶと、ゆっくりと押し倒す。
すっかり口を噤んでしまった赤ちんをそっと抱き締めて宥めてやる。
「ウソウソ。嫌いになんかならないから」
「……う、うぅ」
赤ちんからもぎゅうっと抱き着いてくる。
「嫌いになっちゃやだ……」
「うん。ごめんね」
額同士をコツンとぶつけて、互いに見詰め合うとゆっくりと唇を重ねた。
「好き……、敦」
「うん」
「好きすぎて……幸せで、こわい……」
震える赤ちんを抱き締めながら、窓の外を見やる。
「赤ちん、夜景が綺麗だよ」
赤ちんは振り返ることなくオレにつがみついていたけれど。
いつか赤ちんに「こわい」じゃなくて、「嬉しい」って言ってもらえるように。
そういう立派な人間になりたいなぁ。

来年の誕生日を迎える頃には、少しはオレもまともになってるかなぁ。
赤ちんを幸せにしてあげられますように。
来年の今頃、自分達がどうなっているかなんて分からないけれど。
「赤ちん、生まれてきてくれてありがとう。大好きだからね。ずっと一緒だよ」
その一言でようやく赤ちんが顔を上げた。
そしてすごく嬉しそうに、幸せそうに、花が開くようにして顔を綻ばせたのだった。


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