好きの分だけキスして。

実のところまだ、青峰っちとキスしたことがないです。
「えー、黄瀬ちんと峰ちんのことだからもうとっくにやばいところまで進んだのかと思ってたし」
仰々しいリアクションを取りながら、紫原はお菓子を齧った。
制服の黒のズボンの上に、ぼろぼろと落ちる食べかすを視線で追ってから黄瀬は溜息を吐いた。
「青峰っちってば、ああ見えて意外に奥手なんスわ」
「それはびっくりだねぇ。峰ちんのことだから、付き合ったその日に色々仕掛けてきそうなのに」
「色々ってなんスか?」
「さあ?」
はあ、とまたも溜息を吐くと諦めたように黄瀬は頬杖を着いた。

青峰と付き合いはじめて、もういくらか経つというのに手を出す気配は全くなし。
そりゃあ、ちょっかいを出されれば「ちょ、やめてくださいっス・・・」とは言うものの、本心ではして欲しいと思っているのもまた事実。

「えっちな本を読むくらいなら、オレに色々して欲しいっス」
溜息混じりに呟いてみても、解決するわけでもなし。
同じクラスだからと相談してみても、紫原じゃあなんの解決にもならないのは当たり前。
「峰ちんに直接言えばいーじゃん。『ちゅーしてくれ』って」
「言えるわけないっス」
「なんで?」
「だって・・・」
そんなことを言ったら馬鹿にされるに決まっている。
黄瀬の脳内では青峰が、色黒の顔でヤらしく口元を吊り上げて馬鹿にしてくる様が浮かんだ。
『ヤラシー。黄瀬、お前そんなことばっか考えてんのかよ?』
と。
「もしかしたら、さ。峰ちんも黄瀬ちんと、ちゅーしたいけどなかなかタイミングが掴めないだけかもよ?」
「・・・そう思うっスか?」
「うん」
なんだかあまり感情のこもってない適当な感じのする返事だ。
しかし、ここは黙っていても仕方がない。
キスしてもらうのを、黙って待っているのは眠り姫だけで充分。
「・・・よし。オレ、やるっス」
高らかに宣言して席を立つ黄瀬を、お菓子を咥えたまま紫原が見上げる。
「わー。黄瀬ちんがんば〜」
「なんか気の抜ける掛け声っスね・・・」
「そう?」

まあいいや。
ここは青峰っちに直撃してみるしかないっしょ!



人気のない体育館裏に青峰を引っ張り込むと、早速本題を切り出す。
「と、ゆーわけで青峰っち」
怠そうに大あくびをする青峰を見詰めながら頼み込む。
「キスしたいっス」
首の後ろに手を宛てがった姿勢で口を開いたまま、青峰が静止して黄瀬を見た。
「・・・あ?」
「キスしたい」
「ごめん。全く意味わかんねーんだけど」
「わかるっしょ!オレとあんたは恋人なんスよ!!だからキスしたい」
「・・・・・・」
青峰がすごく面倒そうな顔をしてみせる。
ひるまずに、黄瀬は青峰の腕に縋り付く。
「なんでキスしてくんないんスか?オレの何が不満なんスか?」
じっと黄瀬を見下ろした青峰が一言。
「おっぱいがない」
「男なんスから、おっぱいないのはしょうがないでしょ!!」
がーがー喚き散らした末、黄瀬は肩を落とした。
「・・・わかったスよ。青峰っちはおっぱいがない人とはキスしたくないんスね」
見下ろす自分の体が憎い。
今までは、むしろ美貌に感謝していたくらいだけど。

――好きな人に興味を持ってもらえない体なんていらないっス。

なんだか泣きそうになってきた。
ぐすっと鼻を啜って目尻を擦る。
「・・・おい」
「なんスか?」
じとっと青峰を睨み上げると、なにやら恥ずかしそうに黄瀬から視線を逸らして後ろ頭を掻いていた。
「あの、その・・・いいのか?」
「なにがっスか?」
「キス、しても」
思わず、きょとんとしてしまった。
「へ?」
「だからキス!してもいいのか?」

・・・え?

訳が分からずに、黙ったままの黄瀬の肩に青峰がそっと手を添える。
そして、だんだんと近付いてくる顔。
まさか・・・――

「っん」
ちゅっ、とキスされる。
触れてすぐに離れると、互いに見詰め合ってまた口付けた。
ちゅっ、ちゅっと啄んで離れるを繰り返して見詰め合う。
「・・・本当はな」
青峰が頬を染めて告げる。
「おっぱいとかそういうのは嘘で、オレだってお前とずっとキスしたかったんだ・・・」
「青峰っち・・・」
「でも、なんか・・・お前には嫌われたくなくて・・・だから、さ」
鋭い目で真っ直ぐに見詰められると、胸がどきどきして呼吸を忘れる。

(あぁ・・・オレ、幸せすぎて死ぬかも)
そう思って、ぎゅっと目を瞑る。

「これからは、たくさんキスしていいか?」
「もちろんっス!!」

死にそうだけど死ねない。
だってこれから先の幸せを思ったら、そう簡単に死ねるもんかと思ってしまうんだから。


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