「…う」
目が覚めると真っ白い天井と清潔そうな青白いカーテン。その隙間からかすかにのぞく眩しい光に目の奥がズキンとしてすぐに目を閉じる。
ゆっくり目を開けたり閉じたりして、ようやくここが保健室だと気づいた。
「せんぱーい」
視界にひょこっと表れる金髪頭。
一瞬混乱しそうになったが、さっきまでの短い出来事を思い出して息をついた。
結城くんは心配そうな顔をしている。
「俺が話してたら突然ぶっ倒れたんすよー、先輩風邪っすか?」
「え…あ、うん…ってどうやって僕ここに…」
キョロキョロしていると、結城くんが目を輝かせる。
「俺が運んだんすよ!!」
「ちょっとうるさ…!」
「だーいじょうぶっす。なんかどっかの体育で怪我人出たらしくて先生そっち行ったみたいっす!」
だからって、授業中だろうに…
ケタケタ笑う結城くんをみて、怯えてる自分になんだか拍子抜けした。
だけど、わざわざここまで運んでくれたなんて。
僕の視線に気がついたのか、結城くんはにっこり笑った。
「俺こーみえて結構体力あるんす、大瀧先輩の弟子なんす。あ、まな弟子?まぁボクシング始めたばっかだし弟子も自称っすけどね!」
「お、大瀧くんの…」
シュッシュッとリズムよくシャドーボクシングを始める結城くん。
始めたばかりとは言っていたけど、なんだかサマになっていて思わず見いってしまう。
それにしても、大瀧くんの名前が上がって頭痛がひどくなった気がした。
「大瀧先輩かっこいいっすよね!でもあの人相当変態らしいっすよ」
「へんたい…?」
シャドーボクシングをしている結城くんの拳がカーテンに当たって、ふわりと揺れる。
「おしっことかうんこ以外に興味ないらしーって噂っす!まぁ嘘だと思うんすけどね!」
ごめんそれ本当だと思う…!
嫌な予感が当たってしまい、しなしなと布団に倒れ込んだ。
そうだよなぁ、じゃなきゃあんなことさせないもんなぁ。
人には興味ないんすよー!っていう結城くんの声を聞いて、確かにそうだろうと思った。
大瀧くんの目は何を見ているかわからないし、どこか冷たくて無感情な印象しかない。
あの時僕が整腸剤なんか持ってなかったら、大人しく帰らせてもらえてたのかも。そう思うとなんだか苦しくて目を閉じた。
「まぁホモが好きって時点で先輩もヘンタ…って先輩さっきより顔色わるいっすね!」
「わっ」
なんか聞き捨てならない言葉の断片が聞こえた気がするけど、またまたひょっこり視界に結城くんが現れて思わず退行。
この距離、慣れない。
「え…っと、あの、結城くん?」
「…先輩、あれから八木先輩にずーっとやられちゃったりしてるんすか?」
反射的に肩が跳ねる。
できればその名前は出してほしくなかったんだけど、なんて、結城くんにとっては話のネタにしかならないんだろうけど。
「っ、や…八木くんには…あれから、会ってない」
「えっ、まじすか!じゃああれからなんもされてないってことすか?」
そういうわけじゃないけど…説明が面倒なのと、大瀧くんの名誉のため一応うなずいておく。
結城くんも八木くんと会ってないんだと思うとなんだか少し安心した。
へぇー、という声が頭の上で聞こえて、突然ネクタイに手をかけられた。
「ちょっ、ちょちょ、なにしてんの!」
しまった、普通に突っ込んでしまった。後輩とはいえ不良なのに。
でも結城くんはおかまいなしにネクタイをはずしてボタンに手をかけ始める。
「いやなんとなく、きもちよくなったら治るんじゃないかなーっと!」
「っはぁ?!」
プチプチとボタンがはずされていく。
抗って手を離そうとしても、全然びくともしない。
あれよあれよという間にはだけられ、首筋を結城くんの白い指が這う。
「うわ、先輩あっつ!これ血とかもう沸騰してんじゃ…いや、フーフーするレベルっすよ」
「ふ…は、ばかじゃ、んんッ、く」
言った通り耳にふうっと息を吹き込まれ、背筋がゾクゾクして、途端に力が入らなくなってしまう。
「…先輩、俺があの時どこ舐めてたかわかる?」
「っ、え」
急に結城くんの声が低くなった。
前を見るとびっくりするほど近くに結城くんの顔があって、思わずドキッとしてしまう。
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