酔いどれの夢の中で
/サバサバ×生意気(襲い受け・焦らし)




「おう立花、もう飲み会はじめてたぞぉ」

残業を終えて忘年会へ向かうと、顔を赤くした上司がビール瓶片手にこっちこっち、と俺の方を手招きしていた。
席について上着を脱ぐ前にビールのジョッキが目の前に置かれ、すいません、と頭を下げる。
人づきあいが面倒で、こういった飲み会も本当は得意じゃないが、年度初めの懇親会と忘年会だけは一応行くようにしている。


「立花はかたいなぁ、こんな日くらい早めに切り上げりゃいいのに」

「や、なかなかキリ良くなかったんで」


乾杯を軽くしつつ一口ビールを流し込み、そう言ってからやっと上着を脱ぐ。

研究所、と言っても大企業に横流しされるような研究ばかりしてる会社。
それでもプライドはあって、毎日パソコンやらデータやらと睨めっこしてるような奴らがこんなふうにワイワイしてるのを見ると、なんだか不思議な気分だ。
上着を脱いで視線を感じ、ふと見るとずっと斜め向かいにいる九条がこちらを凝視している。
いや、睨んでいる、というか。


「相変わらず、研究バカなんですよ」


俺と目が合うや否や、そう言って九条がビールをぐびぐびと飲む。
またいつもの当てつけか、と内心溜め息をつく。まわりもそれを面白がるからたちが悪い。

九条という男は何かにつけて悪態をつく。
それもどうしてか、俺にだけ。
背がでかいだの、目つきが悪いだの、一番は研究についての事が多いが、とにかく毎日のようにたかってくる。
最近は面倒さが増してほとんど無視しているけど。


「下戸なのに飲むなぁ九条。立花は酒強いもんな、ピッチャーにするか?」

「おかまいなく。そういえば例のデータの…」

「まぁまぁ堅い話はなしだ、ほら」


ドンと注がれたビールに少し溜息をつく。
確かに酒には強い。それに、なんだかんだで話に付き合ってくれる上司に頭が上がらないのも事実だった。






「じゃ、立花!九条のことヨロシクな」

「え、ちょ」


酒に呑まれるとはこのことなんだろう、ぐるぐると焦点の合わない目をした九条を、なんとも自然に引き渡される。
確かに頭は上がらないが、それとこれとは話が違う。


「困ります。俺こいつんち知らないし…」

「そう言わずにさ、九条だけじゃホラ、危ないだろ」


それじゃ!と言い残し、上司たちはそそくさと夜の街へ消えて行ってしまった。
さんざん飲んで飲まされて今にも吐きそうな九条と、明日も仕事に行く予定の俺、という図。
絶望的だ。
仕方ないのでとりあえず水を渡し、時間を確認する。
こいつどこ住んでたっけ…確か通勤に1時間だとか言ってなかったか…ますます絶望的な気持ちになる。


「電車あんのか」

「はぁ…?むり…いま文字見たら吐く」


何言ってんだこいつ…
大体いい歳こいた成人男性が自分の限界も知らないで酒なんか飲むのか、色々不平が出そうなところはひとまず飲み込んだ。
代わりに検索してやると言っても「考えると気持ち悪くなる」「むしろお前がキモチワルイ」などと一向に動く気配がない。
流石に人目も気になりだし、断腸の思いとやらで仕方なく俺の家に連れて行くことにした。


「おまえに、介抱なんて、されたくない」

「はいはい」


玄関に入るなり千鳥足で部屋の中へ進もうとする九条をとりあえず制止させる。
鍵を閉める音になぜか反応した九条が突然ガバッと身体を起こし、そして反動の吐き気からかまたかがむ。
こんなとこで粗相されちゃたまったもんじゃない、と、とっさに腕を引っ張ったせいか、九条は体勢を崩してバタッと倒れこんでしまった。起き上がらせようと手を差し伸べた瞬間、バッと胸を突き返されて思わずイラっとする。


「俺だって好きで家に入れたわけじゃない」

「しるか!!お前いっつも、おれのことばかにするような目で見やがって」


はぁ?
思わず間の抜けた声が出てしまう。

酒のせいか顔を赤くした九条がふいっとそっぽを向く。


「いいよな、お前の研究はいっつも根拠があって、支持されて、」

「飲み会で自分の研究笑われても平気な顔してる奴に言われたくねぇな」

「っ!!笑ってなんか…ッうぇ」


九条の顔がみるみる真っ青になっていく。
おいおいまさかとは思うけどここで吐く気じゃ、と危機感を察知した瞬間、九条は案の定盛大に吐いた。
自分と俺の服を犠牲にして。


「お前さ…ほんといい加減にしろよ…」

「う、ぇ…みずッ、!?」


かがんだままの九条を半ばかつぐようにして浴室へ向かう。ただでさえ寒いのに、吐瀉物のついた部分だけ肌にぴったりとくっついて冷たい。
バタバタと騒ぐ九条をそのまま浴室へ降ろし、近くにあった風呂桶を差し出す。


「吐けほら」

「だれが、お前の目のまえで、ていうかトイレがいい、トイレ…あとねむい…」

「今さっき目の前でゲロかました奴が何言ってんだ、トイレまで汚されたら困るんだよ。ていうか絶対寝るなよ」


服のことなんかこの際もうどうでもいい。ここで吐き切ってもらってとにかくこいつを帰らせたい。
シャワーを出していると九条が小さく身体を震わせながらバスタブの淵に手をつくものだから、そっちじゃねぇとばかりに方向転換させようとした瞬間、お湯になっていないシャワーの水が思いっきり九条へ掛かってしまった。

沈黙。


「…悪い、わざとじゃない」

「………」


急に黙り込んだ九条が、ぼやっとした目でこっちを見る。
てっきりまた噛み付いてくるかと思いきや何も言わない。さっきまであんなに喚いていたのに、なんか怖いんですが。
ていうか口元がゲロまみれで見れたもんじゃない。思わずその口元を拭おうと手を差し出すと、


「吐かせて」


ん?
小さく掠れた声でそう言うもんだから聞き直すこともできず、俺は呆気に取られた。
九条はまるで別人みたいにぼやーっとした目で俺を見ている。そしてなぜか体勢を四つん這いにし、俺の方へぱかっと口を開ける。


「は?なに…」

「おれ、自分で吐けないから、指こわいから、吐かせて」

「あ、ああ…」


ああ…じゃないんだけど。
なんだかこいつの様子がおかしい。
普段のこいつなら俺相手に怖いとか、そういう弱味を握られそうなことを言うような事はしない。
頭を全開で回してハッとする。そう言えばさっき眠いとか言ってたけど…
まさかこいつ寝ぼけてんのか?むしろ寝てんのか?

どちらにせようるさいよりは良いのかもしれない。
腑に落ちないまま、大人しく口を開けて待ってる九条の口へ指を入れる。九条は一瞬だけびくっとして、それから俺の指を食んだ。


「食ったら喉の奥まで届かないだろ」

「ん、うぇ、あ」


一本じゃ駄目かと思い二本指を入れ、喉の根元の部分を押す。
少し嗚咽を出しながらようやく吐いて、ついでにぽたぽたと九条の目から涙が出てくる。
生理現象だろう。指を引き抜こうとしたが、不意にまだ薄ぼんやりとした目で俺を見る九条と目が合った。

涙で濡れた瞳、口元から垂れ落ちる涎が首まで伝っている。差し入れたままの指を九条の舌がゆっくりねぶるのが見えて、思わず固まってしまった。


「…おい」

「も、もっと…まだたりない、から」


そう言うや否や九条はいかがわしい雰囲気で俺の指を口に頬張った。じゅるじゅると控えめな音がして、もはや明らかに吐くための動きではない。その姿を見て、「女みたいだ」と上司が九条をからかうのも今は少し分かった気がした。

確かに背丈は男にしては小さいし、それに伴ってか声も高い。顔も割と中性的で整っているし、上司が帰り際に「危ないだろ」と言ったのも大体察しがつく。
長い睫毛にはさっき流した涙の粒が玉になって絡み、白い肌に頬だけが薄赤く、うっすら汗ばんだ額に張り付く細い髪の毛がやけに官能的に見えてしまう。

さすがにまずい、ような気がする。


「九条おまえ、…夢でもみてんの?」

「は、ぁう、んっ…ぐ、ンン」


聞いちゃいないけど、多分そんな感じなんだろう。
たとえ夢だとしても、あんなに毛嫌いしてる俺にこんなことするはずがないんだけど。
制止のつもりで指を引き抜くと、口惜しいと言わんばかりにハクハクと口を開けながら指の方へ近づいて来る。


「…飲むなよ」


俺はシャワーのお湯を口に含み、九条の顎を掴んでそのまま口移しする。
ねとねとになった九条の口の中をお湯と一緒に舌で擦ると、口を開かせてそれを出させた。

正気なら撲殺もんだろう。
でもこいつは今たぶん夢の中で、俺はなんだ、たぶん恋人かそこらへんの位置なのか、とりあえずお咎めを受けるような雰囲気はない。
それよりも、まるで「もっとしろ」というような視線が痛いほどに浴びせられている。

九条がレロ、と舌を出せば自然とそれにひかれていって、


「んっ、んンぅ、ふ…ッあ、ん」


歯の裏をなぞり、わざと音を出して舌を啜る。俺の舌の動きの一挙一動にぴくぴくと九条の身体が痙攣して、漏れる息が唇を這う。

エロい声出すなよ、そう言おうとしてふと下半身の違和感に気付く。
触られている。


「ちょっと待てお前」


夢の中の俺はなんだ、男なのか。だとしてもおかしい。こいつホモなのか。

俺が混乱しているうちに、シャワーのお湯やら湿気やらですでに服として機能していないそれを九条はモタモタと脱ぎ、荒い息遣いで俺の股間に顔を埋めた。

制止する間も無く歯で無理矢理ジッパーを降ろし、手際は良いとは思えないものの俺のそれを取り出した。
もちろん勃起なんてしているわけもなく、流石に俺は九条の肩を抑えた。


「っ…お前なんなの?そういうの誰にでもやってんの?」

「たちばな、今日はよくしゃべるな、本物みたい」

「はぁ?っちょ、」


つぅ、と九条の舌先が俺の裏筋を這う。
冗談だろ…冷や汗が背中を伝ったが、萎えた俺のそれを小さい口いっぱいに咥えて、ぼんやりとした目で見つめられると腹のあたりがぞくりと粟だった。少し反応したそれを嬉しそうにみたあと、先っぽだけ口に含んでちゅるちゅると啜る。


「っは…九条、それやばい…」

「んんっ、う、ぁ、ふ」


思わず九条の頭を軽く抑えて、なんとなく前髪をかき上げてから後悔した。なんてエロい顔してんだ。
火照った目を細めて、九条が俺のを口いっぱいにしゃぶっている。
夢なんかじゃ済まされない、このままじゃ洒落にならないとは思いつつ、ピンと立ち上がった九条の乳首を軽くつねってやった。


「ひぁっ、あ、んぅうッ」

「…お前だけやるだけやって、後で難癖つけられても嫌だからな」


全力で拒否されると思ったが九条は腰をくねらせるだけで、漏らした声はまるで甘くて蕩けそうだった。
捏ねるように乳首を弄び、時折強く捻る。そうするとぴくぴく九条の背中が痙攣して、ぼんやりとした顔はみるみるうちに厭らしい表情になっていった。


「あ、あっ、や、ァッ…んん、ぐ、ぅ」


完全にそれが勃ち上がる前にふと思いつき、「ストップ」と九条の愛撫を制止する。


「俺の弱味ばっかりじゃ不公平だろ」








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