イタチが生まれる話
私の腕の中にあるのは、確かなぬくもりと命の重みだった。

「元気な男の子ですよ」

その言葉を聞いた瞬間、じわりと涙が双眼に浮かんだ。出産は想像を絶するもので、激痛で意識が飛びそうになる場面が何度もあった。出産を見守っていたフガクさんは私があまりにも七転八倒するものだからあたふたとしていたのを思い出す。
らしくもなくそわそわした様子で、それでも「頑張れ」「もう少しだ」と手を握りながらも懸命に励ましてくれて、とても心強かった。

「……よく頑張った、なまえ」

いつものように口を真一文字に結んでいたけれど、その眼差しには優しくて暖かい色が浮かんでいた。父親の顔をみせるフガクさんに嬉しく思いながらも、腕のなかの赤子をそっと差し出す。

「抱いてあげてください……イタチを」

先日フガクさんが考えてくれたこの子の名前、イタチ。凛々しくて、優しい響きを持つこの名前が、私は大好き。
ぎこちない様子で息子をその腕に抱いたフガクさんは、軈て表情を緩めて慈しむように笑った。

「軽い、が、重い」
「ふふっ……そうですか」

フガクさんらしい言葉に思わず笑い声が漏れる。フガクさんの腕の中で大人しく寝息を立てるイタチ。彼はこれからどんなふうに成長してどんな人生を送るのだろうか。今からこんなこと考えるなんて可笑しいかもしれないけど、この子がどんな成長するのが今から楽しみでしかたなかった。
例えイタチが真っ当な道を歩んでも、少し道を踏み外してしまうことがあっても、私はあなたの味方だから。それだけは自信を持って豪語する事ができる。

「フガクさん」
「何だ」
「私ね、イタチにしてあげたいことが沢山あるの。色々なことをして遊んであげたいし、勉強見てあげたり、忍術を教えたり。一緒に買い物に行ったりもしたいな。誕生日も毎年ケーキを作って、たくさん愛してるよって伝えたいの」
「……そうか」

欲深い私の願いを聞いても笑うわけでもなく、そう一言呟くように言った。
フガクさんはイタチと一緒にどんな人生を歩みたいのかな。きっとたくさん教えたいこともあるのだろう。
だけど、少しでも私と同じ気持ちならいいな、なんて思った。







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