ネジとリーと恋バナ
今日も空が青い。

なにを当たり前の事を言ってるのだろうと心の中でつっこみを入れながらも深く息を吸う。鼻腔を擽るのは、土や草の匂いだった。
本日、第3班には任務を与えられていない。俗に言う休日だ。たまにはリフレッシュがてらショッピングにでも行こうかな、なんて思っていたのに早朝私の部屋に訪れた修行馬鹿によって素敵な休日は消え去った。
「なまえ、修行に付き合ってください!」と馬鹿でかい声で起こされ、今日の寝起きは最悪なものになった。まあ、ちょうど試したい技もあったし、八つ当たりがてらリーを実験台にしようと思いながら演練場へ向かえば、頗る機嫌の悪そうなネジがそこには居た。聞けば私と同じ境遇だったらしい。お互い熱血馬鹿をチームメイトに持って苦労するね、なんて慰めあったのはもう数時間も前の話。
組手に始まり、接近戦を想定したフォーメーション作りは己たちの生存率を上げるためにはとても重要なことだ。休日を潰されたとはいえ、無駄な時間だとは思わなかった。それはネジも同じようで、不機嫌だった割には真剣に戦略を練っていた。
そんな時間を過ごしていれば、最初にスタミナ切れを起こすのは一番脆弱な私だった。そして冒頭に繋がる。

「大丈夫か、なまえ」
「もう無理。体力馬鹿のあんた達についていけないわ」

あとは二人でどうぞと言うように手を振るけれど、珍しいことにネジもリーも私の両隣に腰を下ろした。いつもなら勝手に組手の一つや二つ始まるところだけど、珍しく私の休憩に付き合ってくれるみたいだ。
ふと、こうして三人並んで過ごすのなんて、もしかしたら初めてかもしれないと思った。大体はガイ先生とリーが暴走して、それを私とネジが呆れて見ているのが常だ。そのガイ先生は上忍の任務で里外にいる。
折角だからこの機会を利用して三人で語り合うのもいいかもしれない。そう思った私は徐に質問を投げかけた。

「二人は好きな人いないの?」
「はい?」「は?」

突然恋バナを仕掛ける私に対して二人は素っ頓狂な声を上げる。普通なら女の子同士で盛り上がる話題だけど、生憎第3班には私以外の女子が存在しない。語りたくても語り合えないのだ。だから妥協してこの男達と甘酸っぱいトークをしようと思った迄だ。
そうは言いながらも、彼らの恋愛話に興味が無いと言ったら嘘になる。草むらに横たえていた体を起こして期待の眼差しを向ければ「はい!」と元気よくリーが手を挙げた。

「僕はサクラさん一筋です!何があっても守り抜く自信があります!」
「あーそういやそうだったね。サクラも可哀想に」
「可哀想とはどういう事ですか!」

あんた顔だけでも濃ゆくて暑苦しいのに、それを凌駕する程の熱烈な愛情を向けられたらサクラが溶けてなくなってしまいそうだ。それを可哀想と言わずしてなんという。
とはいえ、リーは真っ直ぐで優しくて努力家な一面もある。うざいほどの熱血さに埋もれてしまっているけど、彼のいいところだってたくさんあることを私は知っていた。その部分がサクラに伝わればいいね、なんて他人事のように呟いてから標的をネジへと移した。

「ネジはどうなの?」
「俺はそんなくだらん事に現を抜かすことはない」

クールに言ってのけるネジに対して「くだらないとは何ですか!」と怒りを露にするリー。取り敢えず話が進まないのでリーをどうどうとなだめてから、ネジに質問を投げかける。

「でもネジだって一族繁栄のためにいつかは女の人を娶ることになるでしょ?どうせなら好きな人と結ばれたいと思うことないの?」「……」

ありゃ、黙っちゃったよ。何か言ってはいけないことでも言っちゃっただろうか。一族の結婚観は一般とは少し違うのかもしれない。日向一族に関しては分家や宗家の問題もある。踏み込みすぎただろうか……と反省し始めたころ、漸くネジが頬を染めながらも口を開いた。

「思わないでも、ない」

それが私の問に対する答えだと気づくのに、数秒かかった。つまり、ネジは結婚するなら好きな人としたいと言ったのだ。意外も意外。ネジも人の子なんだと安心した瞬間でもあった。

「もしかして、実は結婚したいな〜って思う女の子がいるんじゃないの〜?」

カマをかけるつもりでそう問いかければ、面白いくらい顔を真っ赤にして「そ、そんな奴いるわけないだろ!」と声を張り上げた。その反応がなお怪しい。
アカデミーの頃から数多の女の子を泣かせてきた罪な男、ネジ。そんな彼が好きになる人なんて、興味しかそそられない。身を乗り出してネジに迫りながらも私は捲し立てた。

「ねえだれだれ?同期の子?もしかしてシラユリちゃん?くノ一クラスで一番可愛かったもんね〜でもネジあの子の事フってなかった?なに心変わり?」
「煩い!そして近い!だから俺にはそんな奴いないと言ってるだろ!」

顔を近づけていた私の頭をぐっと押して距離を取られる。ちぇ、つまんないの。
「ヒナタ様との修行があるから俺は帰る」と早口でそう告げてから姿を消したネジに、私は小さく舌打ちをした。

「あの反応、絶対いると思ったんだけどな〜」
「ネジはなまえのことが好きなのではないかと僕は思います」
「は? 何言ってんの?」

とんでもない予測を口にするリーに瞬時に返す。どこをどう見たらネジが私を好きだと思うのだ。ありえないでしょ。
ないない、と否定する私に「そうでしょうか」と納得いかない様子のリー。

「ネジが女子と話している姿を見たことがありますが、普段の何倍も冷たい対応をしていました。ですが、なまえと話している時のネジは穏やかな顔で笑ってる事が何度もあります」
「そりゃ班員なんだから、塩対応されてもギクシャクするだけなんだけど」

そう、私とネジは班員という枠を出ることはない、と思う。もし仮にネジが私を好きだとして、私は彼を好きになることはないだろう。
精神年齢は既に成人を超えているんだ。いくらネジがイケメンで大人びているとはいえ、恋愛対象になることは無い。

「私はネジにとって一番近い女子なだけだよ。特別であって唯一じゃない」

私の言葉を上手く理解することは出来なかったのか、口をへの字にして首をかしげた。
リーには少し早かったかな、なんて大人の振りをする。

「二人はお似合いだと思いますけど」

納得していない様子のリー。まあ、その消化出来ない思いも、ネジに恋人ができれば無くなるだろう。彼が恋人が出来たと報告をしてくれるとも思えないけど。結局はリーの気持ちも消化不良で終わるような気がしてならない。

「なまえは、ネジに恋人が出来てもいいんですか?」

そう問いかけられ、私は当然だというように首を縦に振る。
……胸にチクリと刺さったのは、一体何なのだ。
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