我愛羅と仲違い中忍試験
弟はどうやら反抗期の模様です。

あの小さくて泣き虫だった一番下の弟も早いもので12歳となった。年頃の子供なら誰でも通るであろう反抗期を、彼は少しこじらせてしまっているようにも思える。

我愛羅は、幼少期から父上に守鶴としての価値を量るために何度も暗殺されそうになった事がある。勿論我愛羅大好きな私が黙ってるわけもなく、常に我愛羅のそばで守ってきたのだが、矢張り父上の方が上手であり、何度か我愛羅に刺客からの襲撃を許してしまった。我愛羅には守鶴が付いているし、砂の盾で身体に傷付く事はないのは分かっているけど、そう言うこっちゃないのだよ。そしてとどめとばかり夜叉丸の裏切りがあり、彼の精神は完全に崩壊してしまった。

私にもあんなになついていたのに、彼は私すらも信用しなくなった。「姉さん!」と可愛らしい笑顔で呼んでくれていたのに、今となっては「なまえ」と無表情で呼び捨てにされる。呼び捨てに関しては別にいいんだけど、何となく姉としての威厳が無いようで泣きたくなる。長男のカンクロウは我愛羅に対して完全に怯えており、いつも顔色を伺っている。まあ、この子に関しては昔からそんな感じだったかもしれないけど、夜叉丸の件があってからはより顕著になっていた。

そんなギスギスした私たち三兄弟は、下忍になってからスリーマンセルを組んで任務についている。私としては家族と過ごす時間が長くもてて幸せなのだが、この空気は頂けない。なんとかしないとなあ……って思っているのだけれど早々に中忍試験に選抜され、木の葉に向かうことになってしまった。

「我愛羅」

木の葉への道中、前を走る弟の名を呼ぶ。もちろん返事もない。視線を合わせてくれることもない。そんなの分かりきっているから気にすることなく言葉をつなげる。

「我愛羅は何のために戦うの?」
「……」
「私は、貴方とカンクロウを守るためだけに戦うよ」
「くだらん」
「おい、姉貴」

それ以上刺激するな、と言うように隣を走るカンクロウに名前を呼ばれる。確かに争いになったら確実に私が殺されるだろうし、カンクロウも巻き添いを喰う事になる。仕方なしに口を閉ざすと、隣から安堵のため息が聞こえた。小心者め。

我愛羅に信用されなくたっていい。私は貴方達弟がこれからも生き続けて、立派な大人になってくれれば、それでいいのだから。今回の中忍試験中に行われる“極秘任務”など、私としてはどうでもいいのだけれど、その任務の要となるのが我愛羅なのだ。彼をひとり悪者にすることは出来ない。我愛羅が悪になると言うなら私はそれよりももっと非情になろう。それが、私なりの、姉としての覚悟だ。

* * *





木の葉に足を踏み入れたのは今日が初めてだ。砂の里とはまた違った賑わいを見せている大国に内心ウキウキと興奮しながら周りを見ていると、気づけば愛しの弟達とはぐれてしまった。

……違う。私が迷子なわけじゃない。愛しの弟達が迷子になってしまったんだ。まったく!手のかかる弟達だ!私がいないとなーんにも出来ないんだから!な、涙なんか出てないもんね!

右も左も分からないまま、取り敢えず来た道を戻ることにした。私の弟レーダーがこっちにいると教えてくれいる。弟が大好きすぎて身につけたこの技、カンクロウに自慢した時のあの冷ややかな目は今でも忘れられない。あれは実の姉に向けるような瞳じゃなかったよ。結構本気で傷ついた。お姉ちゃんの繊細な心を傷つけた罪は重たいぞ、傀儡オタク。

「おい、アンタ。四つ縛りのアンタの事だよ。たく、面倒くせぇ」

後ろから声が聞こえてくる。私は生憎アンタという名前ではないから気のせいだと思うことにしたのだけど、四つに髪を縛ってるのは私のトレードマークだ。そこで、漸く私を呼び止めていることに気がついた。

今の声からして我愛羅やカンクロウではない。木の葉に知り合いなんていないし、はて、誰だろうか。疑問に思いながらも後ろを振り返れば、生気のない瞳と視線が交わる。

「木の葉の忍じゃないよな。中忍試験を受ける他里の人間ってところか。面倒くせぇけど俺も一応ここの忍だ。迷ってんなら案内するぜ」

先程から面倒くせぇを連呼する少年。その割には困っているように見えたであろう私に声をかけて手を差し出してくれた。やる気のないように見える風貌とは裏腹に、木の葉の忍としての自覚が人一倍強いようだ。そんなギャップに驚かされたのと同時に、感心する。きっとこの子は将来立派な忍びになるだろうな、なんてお婆臭いことを思ってみた。

「実は兄弟とはぐれちゃってね。でも大丈夫。あの子達のチャクラを感知すれば何となく居場所がわかるから」

弟レーダーがある、なんて言えばきっと少年に引かれると判断し、忍っぽい感じで説明をすれば「そうか」と納得してくれたようだ。理解が早くて助かる。

見た感じ我愛羅と同じくらいの歳だろう。我が弟もそうだけど、この少年は別の意味で大人びている。それに気づいたら、この少年が可愛く見えてきてしまうもんだから私はブラコンを拗らせ過ぎている。自覚しても直しようがないのがこの病気の特徴だ。

無意識に伸びた右手は少年の綺麗に結われた頭に乗り、結目に沿って撫で始める。男の子なのに綺麗にまとめられているものだ。感心しながらもなで続けてると、呆気に取られていた少年の頬が見る見るうちに赤くなっていった。

「なっ、なにすんだよ!」
「え?あ、ごめん。弟と同じくらいの歳だろうな〜って思ってたら、つい」

撫でていた手を離し「気を悪くしたらごめんね」と謝罪をすれば、視線をそらされながらも「……別に」と許しの言葉が返ってきた。とりあえずほっと息を吐く。

「……弟にもこんなことして嫌がられねぇのかよ」

その質問に、私は押し黙る。確かに昔はあのリコリスの花のように赤く綺麗な髪をなでていた。それはもう、癖になっていたくらいに。我愛羅もその度に頬を染めて柔らかく笑って喜んでくれた。その笑顔が見たくてあの子の頭を撫で続けていたのかもしれない。だけど、

「一番下の弟には嫌われちゃってるからなぁ……だから、久しぶりに撫でたかも」

そう……頭を撫でるどころか、我愛羅に触れることすら許してもらえない。あの子自身が私を拒絶してるからだ。

あんな事件があったのだから誰も信用出来ないのは理解できる。だけど、それでも。……私くらい信用してくれてもいいじゃないか。なんて、子供じみたことを思ったりして。

「ったく、女ってーのはなんですぐ落ち込んだりすんだよ」

今日何度目かわからない「面倒くせぇ」が聞こえてきた。ああ、無意識の内に思いつめた顔をしていたのかもしれない。確かに、急に落ち込まれたら対処に困るし、それこそ面倒臭いと思うだろう。

少年には悪いことをしたなぁと思いながらも顔を上げて謝罪しようとしたら、前髪あたりに暖かな何かが触れる。その正体が少年の掌だと気づくのに、かなり時間がかかった。

「俺に兄弟はいねぇから的確なアドバイスはできねぇけど、家族なら俺にもいる。どんなに怒鳴られても、喧嘩しても、次の日になれば何でもなかったようにケロッとしてるのが家族ってもんだろ?あー、つまりよ……なんだ。家族っつーモンは、何があっても心の底から憎んだり、嫌いになることってないだろ?だから、アンタの弟も、アンタの事を心から嫌いだと思ってねーよ」

ガシガシ、と不慣れな手付きで前髪を撫でられる。きっと今の髪型は個性いっぱいなものになっているだろう。でも不思議と嫌悪感は湧いてこなかった。

少年の言葉が、心の奥にある核を震わせた。何があっても家族を心から嫌いになることは無い。それは、私にも該当する人物がいた。

あれだけ我愛羅を苦しめていた父上を憎いと思っていても、ふとした瞬間に優しくしてくれたあの人を思い出して、心から憎みきれない自分もいた。きっとそれは、少年が言うとおりの事だったんだ。

「ありがとう、少年」
「少年じゃねぇよ。奈良シカマルだ」
「シカマル。いい名前だね」

何度か確かめるように「シカマル」と名前を呼べば、呆れたように笑いながらも「なんだよ」と答えてくれる彼に、心臓がきゅっと掴まれるような感覚を覚える。そうか、これが胸キュンと言うやつか。

まさか自分が年下にときめく日なんて来るとは思ってなかった。戸惑いながらも自分も名前を名乗れば「なまえ」と、試しにと言ったように呼ばれて、またもやキュンとした心に更に戸惑ってしまった。

まさか、私は弟を愛しすぎるが故、年下好きになってしまったのだろうか……?!






────それはシカマル限定の現象だとに気づくのは、まだまだ先の話だった。



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