私に、まさか恋人ができるなんてきっと両親でさえ想像していなかっただろう。だって私自身もできるとは思ってなかったもの。しかもイケメンで、頭も良くて、強い忍のサスケくん。実際今でもあの告白は幻だったのではないかと疑っている。
そう思うのも無理はないと思う。だって告白されて既に三日が過ぎたけれど、あれ以来サスケくんとそれらしい会話をしていない。そして、今日も何気ない一日が終わろうとしていた。
カカシ先生が本日の任務終了を告げ、瞬身の術でいなくなったのをぼーっと眺める。私から、何か声をかけた方がいいのかな?でもなんて?「私達つきあってるの?」「恋人らしいことをしませんか?」何様だよ烏滸がましい。
「なまえ」
「は、はひ!」
考えに耽っていた私にクールな声で呼ぶサスケくんに思わずビクリと体を震わせた。まさに渦中の人物からの接触に、驚きが隠せない。な、なんの御用だろうかと様子を伺っていると少し顔を赤らめ、ふいっと顔を背けながらも言葉を繋げた。
「これから、甘味処にいかないか」
「え、」
「予定があったなら…別にいい」
「ななな、無いです!これっぽっちも!」
勢いよくそう捲し立てる私に、サスケくんはほっとしたように表情を和らげた。これって、もしかしなくても…デートのお誘い?今までサスケくんからこうして誘ってくれたことなかったし、やっぱり、そういう事なのかな?だとしたらめちゃくちゃ嬉しい。一人にやけている私にサスケくんは首をかしげて「なんだよ」と問うてきた。
「え!…え、と…初めてのデートだなぁって思って、1人で喜んでました」
「なっ!…ウスラトンカチが」
「ご、ごめんなさい…」
私の低俗な思考に怒ってしまったのだろうか。怖くて顔が上げられない。どうしよう…サスケくんに嫌われたら生きていけない。好きな人からの拒絶ほど、恐ろしいものは無い。
ぎゅっと目をつぶって拳を握っていると、それを包み込むように暖かな何かが触れた。
「……行くぞ」
暖かいその正体がサスケくんの手だということは見たら明白なのに、理解するまでに時間がかかってしまった。ぎゅっと握っていた拳が優しく解かれ、その指を絡めとられる。まさか、これは、恋人繋ぎというものではないだろうか。
わたわたと慌て出す私をチラリと一瞥したサスケくんは少し可笑しそうに口元を緩めた。
「デート……なんだろ」
彼は、私を喜ばせる天才だ。
「えへへ…私、サスケくんの彼女になれたんだね」
やっと実感出来たことをボソりとつぶやくと「は?」と素っ頓狂な声を上げるサスケくん。
「今更かよ」
「だって、あの日以来何も言わなかったし……」
「俺はお前に好きだと言っただろ」
「そ、そうですね…でも自信なくて…」
「自信持ってくれないと困る」
「…はい」
私は今日から自信を持っていうよ。
…私は、うちはサスケくんの彼女になりましたって。
「なまえ!!どうゆうことよ!!」
「ひいぃいいいい!!」
自信を持って……と思ってた矢先、親友と出くわしてしまいました。私は浮かれたり不安になったりと悶々とした日々を送っていてすっかり忘れていたのだ……彼女の存在を。
「おい、落ち着けよいの。めんどくせー」
たまたま向かい側から歩いてきたのが運がいいのか悪いのか、いのとシカマルだった。
私はいのがアカデミー時代にした発言を思い出す。
「あんたサスケ君に興味ない数少ない女子だから逆に安心したわ」
たしかにあの頃はサスケくんに興味はなかったはずなのに……一緒にいればいるほど魅力的な部分に気づいてしまって、気づいたら好きになってしまっていた。その事をいのに言うべきだったのに…。
「まって、あんた今サスケくんと手を繋いでた?」
「は、はひ」
「まってまって…もしかして、付き合ってる…?」
「……はい」
「はぁぁああああ?!」
「……うるさい」
ボソりと呟いたサスケくんのセリフは聞こえなかったふりをした。というより反応する余裕もなかった。だって、今私の目の前にいるのはどう見たって般若なのだから。
「い、いの。ごめんね…」
「あんた……私がなんで怒ってるかわかってる?」
「いのだって、サスケくんのこと…」
「そうじゃない!なまえがその事を言ってくれなかった事に怒ってるの!!なんで親友に隠し事するわけ?!」
その言葉にはっとする。いのは好きな人を取られたから怒ってるんじゃない……私がいのに隠し事をしてしまったから怒ってるんだ。そのことを知った時、じわりと視界が滲んだ。
「いの……!」
「……ま、正直悔しいけどあんたなら認めざるを得ないでしょ」
「だいずぎ!!」
「あんたはほんっと泣き虫ね!」
仕方ない、そういう風に笑って見せたいのに抱きつく。私は、この人生の中でかけがえのないものを沢山得ることが出来ていると実感できた。
「……おい、サスケ」
「……なんだ」
「なまえ、泣かすなよ」
「シカマル、お前、なまえのこと」
「勘違いすんなよ、メンドクセー。あいつはただのダチだっつーの」
私達からすこし離れた所でそんな会話をされていたことは露知らず、私といのは友情を確かめあっていた。