お母さん風邪ひきの話
「俺は任務に行く…なまえはゆっくり休め」
「ごめんなさいフガクさん…こほっ…ありがとう」
「ああ」

せめてお見送りだけでもと重たい身体を起こそうとすると肩をやんわり押され、再び布団に横たえる。再度謝罪の言葉を言うとフガクさんは何でもないと言うようにゆっくり首を振った。
今日、数年ぶりに風邪をひきました。朝起きた時は少しだるいなあ…と思いながらもさして気にもとめず朝食の準備に取り掛かった。だけど味噌汁を啜ったフガクさんと息子達がなんとも言えない表情になった時、はじめて異変を感じた。

「……なまえ」
「……母さん」
「あまいよ、これ」

味噌汁が甘いとは。何を言うんだ愛しい家族たちよ。試しに一口含むと、それはお汁粉かというほど甘かった。一体何を入れたんだろう……思い出せないほど料理中の記憶が曖昧だ。ここで私の異変に気づいたフガクさん達は熱を測れと強要し、その数値を見た途端即刻布団へと運ばれ、今に至ります。
フガクさんがいなくなったこの部屋はしん、と静まり返っている。不思議な感覚だ……まだ日が登っている時間にこうして布団の中で横になっているなんて。いつもならイタチを任務に送り出し、サスケと遊びながらも家事をこなしている頃だろう。風邪なんて引いたのは本当に久方ぶりの事だったからか、余計に辛く感じる。

「かあさん……」

ごほ、と一つ重い咳をした時襖の向こう側からサスケの弱弱しい声が聞こえてきた。今にも泣きだしそうなその声に、心が痛む。そばに駆け寄って抱きしめてあげたいのに、出来ない。それがこんなにも辛いなんて知らなかった。それくらい、私はサスケのそばにずっといたから。

「……サスケ、心配しないで。すぐ、良くなるから」
「おれ、かあさんのかんびょうするよ」
「だーめ。サスケに風邪がうつったら、大変だもの」
「へいきだよ!」
「サスケ……」

サスケはまだまだ小さな子供。風邪一つで大きな病気になってしまう可能性だってある。顔を見せて安心させたいけどここは心を鬼にしなければとぐっと堪えた。許しておくれ、サスケよ。恨むなら風邪をひいた母さんを恨んでおくれ。

「サスケ、母さんを困らせるんじゃない」
「にいさん……」

聞こえてきたイタチの落ち着いた声に、ほっと安堵の溜息を吐いた。彼ならきっとサスケをうまく説得してくれるだろう。二言三言サスケと会話したイタチは私に向かって「すまなかった、母さん」と声を掛けてくれた。

「いいの、イタチにも迷惑をかけてごめんね」
「気にしないでくれ。昼になったらお粥を持ってくるから」
「あら、楽しみね」

イタチはたまに家事を手伝ってくれることもあって料理も一通り熟せる。申し訳ないけれどイタチが今日お休みで助かった。冷蔵庫には昨日のあまりものもあるからサスケのご飯も大丈夫だろう。なんだか安心した途端、眠気が一気に襲ってきて、抗うことなく瞼を下ろし意識を手放した。



* * *




次に目を覚ましたのは、イタチがお粥を持ってきてくれた時だった。時計に目をやれば12時を少し過ぎた頃……ずいぶん眠っていたようだ。そのお陰もあって身体も起こせないほどの重みやだるさはかなり軽減されている。

「母さん、お粥だ。起きれそうか?」
「うん……大分眠ったから少し楽になったよ」

よいしょ、と掛け声とともに身体を起こそうとすると、さり気なく背中に腕を回してくれるイタチくんは本当に優しい子だ。母親の贔屓目を抜いても女の子にモテるのが分かる。

「卵粥にしてみたんだ」
「美味しそう!」
「それと、これ」

お盆を私の膝に置いて蓋を開けるとほかほかと湯気が立ち上がり、優しい匂いが鼻腔を擽る。歓喜の声を上げていると、イタチはそっとあるものを私に手渡した。それは蒲公英やシロツメクサなどのお花が束ねられたものだった。

「わあ、綺麗……」
「サスケと摘んできたんだ。あいつ、母さんのためになにかしたいって必死だったよ」
「サスケ……」

可愛らしい花束には小さな紙が添えられていて、子供らしい字で「はやくよくなってね さすけ」と書かれていた。お兄ちゃんに似て優しい子に育ってくれて……本当に嬉しいよ。思わず涙ぐんでしまう私に、イタチはそっと背中をなでてくれるものだから余計に目頭が熱くなる。

「ありがとう……ありがとね、イタチ、サスケ」

恐らく襖の前で座っているであろうサスケにもお礼を言えば「うん!」と元気なお返事が返ってきた。きっと満面の笑みを浮かべているであろうサスケを想像して、ひとり笑みをこぼす。

「……母さん心配になっちゃうな」
「何が心配なんだ?」
「2人は優しくて素敵な子だから、きっと女の子にモテモテでお嫁さんを連れてくるのも早そうだなって」
「……母さん」

イタチが呆れたような顔をして私を呼ぶ。その表情があまりにもフガクさんと似ていて、思わず苦笑いを零す。まあ、そうなるよね。自分でも思うくらい、私は息子が大好きなのだから。だからと言って二人が連れてきた女の子なら絶対に悪い子はいないだろうし、その時は快く受け入れるつもりよ。反対したり、いびったりしない、優しい姑になるからね。

「今そんな心配しても仕方ないだろう……」
「ふふ、それだけ私は貴方達が大好きってことだよ」

じゃあ、冷めないうちにお粥頂きます。そう言って蓮華でお粥を掬い、息を吹きかけて温度を調節する。一口食べると広がる優しい味に、イタチの人柄が現れているように感じた。

「俺もだよ、母さん」

そう呟いていたイタチに気付かず、愛息子が作ったお粥に夢中になった。



* * *


息子達の献身的な看病により翌朝にはすっかり熱も下がり、いつも以上にイタチやサスケを抱きしめるが「母さん、ちょっと、面倒臭い」とイタチに言われ、別の意味で寝込んだのはまた別の話。
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