イタチを授かる話
フガクの妻でありイタチとサスケの母。
自由奔放で息子大好き。夫も好き。
そんなほのぼの話。

▽ △ ▽


私は、前世の記憶を持ったまま生まれ変わったという特殊な経歴を持っている。とはいえ、この世界において私は特別目立った経歴もない、木ノ葉の里に在住する極々一般的な元忍です。

つい最近までは上忍として里のために働き、一族同士で決められた人と婚姻。それと同時に忍びの世界を引退し、家庭へ入った。決められた相手、といっても夫はとても堅実で責任感が強く、寧ろ私には勿体無いほど素敵な人。きっと一族に決められなくてもこの人を選んだのだろうなと思えるほど、彼に対して運命的で必然的な感情を抱いた。

そんな夫との生活を過ごしていたある日のこと。


「フガクさん」
「なんだ」
「赤ちゃんが出来ました」
「…………」


夕食後。お茶を啜って一服していたフガクさんになんの脈略もなくそう告げると、彼は眉を一つ動かした後、ぴたりと動きを止めた。まるで精巧に作られた人形のようだと思うほど、微動だにしなかった。

日常会話を吹きかけるように告げた私ではあるが、心臓は正直なものでばっくばっくと暴れる。

うちはフガクという男はとても誠実な人間だ。真面目で曲がったことが嫌い。だから、自分が起こした不始末は責任をもって処理をするだろう。その処理の仕方は私の推測では二通りあって、しっかり育てるか、もしくは堕胎しろというか。

幾ら一族の繁栄のためとはいえ、子供をあまり好かないフガクさんの事だ。可能性は零ではない。でも、彼はそんな冷酷な人なんかじゃないと、心が否定する。それでも、心配は拭えなかった。

フガクさんと私の間には長い沈黙が流れる。この間にいくつかの思考が頭の中をぐるぐる回る。

もし堕胎しろって言われたら、この一族を出て一人でこのお腹の子を育てる覚悟はある。例えフガクさんとお別れすることになっても、私は命をかけてこの子を産む義務がある。

コチ、コチと時計の秒針の音だけが居間に響き渡る。軈て動きを取り戻したフガクさんは湯呑を茶托に置くと、夕刊を手に取り一頁開いた。


「……そうか」
「フガクさん」
「なんだ」
「新聞、逆さまだよ」
「……」


大きな咳払い一つ。その頬にはやや赤みがさしていて、意外な反応に目を見張る。小さな頃から彼を知っている私でも、こんなに動揺を顕にしているフガクさんは初めて見た。なんだか可笑しくて、心底安心した。

あははと笑みを漏らす私を怨めしそうに人睨みしたフガクさんは、逆さになっていた新聞を正しい方向に戻し、視線を移す。しかしその目は活字を追うことはなくただ真っ直ぐを見据えているように見えた。


「……産んで、くれるか」
「もちろんですよ。貴方と、この子ために」
「……」


────ありがとう、なんて。
貴方らしくないこと言うのね。

……ああ、これがマタニティーブルーってやつだったのかな。この人が堕ろせなんて言う筈ないのに。安心したらなんだか泣きそうになった。

目元に溜まった涙を指で拭う私の隣で、フガクさんは一向に頁を捲ることなく新聞を広げていた。

「どんな名前がいい?」なんて、性別もまだわからないのに少し気が早かったかな。でもね、私は、貴方に似て誠実で真っ直ぐで優しい男の子が生まれると思うの。

そう言うと「そうか」と、優しく笑った。
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