8章 邪竜のしもべ




「どうしよう……
お姉ちゃん、大丈夫かなぁ?


フラヴィアさんも急いで援軍の準備をしてくれてるし、みんなで急いで行けば間に合うよね?」



「……………………」



「お兄ちゃん?
ねえ、お兄ちゃんってば!!」


「ん?ああ。
どうしたんだ、リズ。」



「もう、しっかりしてよ!

お姉ちゃんを行かせた事、まだ後悔してるの?」



「……………はぁ。」




つかつかつかつか



クロムの元にスミアがやって来た。



「スミア?」



「クロム様……っ!」




バキィッ!!



スミアはそのか細い腕にありったけの力を込めてクロムを殴り飛ばした。



「ごほっ、えっ、な、何だ?」



「ご、ごめんなさい。
気合いを入れる時にはこれが一番だってフィレイン様に教わったんです」



「それ、多分平手打ちじゃ……

今、スミアさんグーで殴ったよね」




「え、あ、間違えました!?
すみません……」




「目の奥がチカチカする……」



「ほ、本当にすみません!!」



と、そこへ




「ははっ、いい仲間じゃないか。嫁にするならそういう奴がいいね。」



「やだ、嫁だなんて……!!」



恥ずかしさのあまりスミアは勢いよくクロムの首を締めていた。



「スミア……離してくれ……首が…息、出来なっ…」




「あああああっ!すみません!」



「いや、いいんだ、スミア」



皆の前で堂々といちゃこらできる2人がすごいと思ったのはルフレだけでは無いだろう………



「ルフレさん、怖い顔になってるよ」



「はわっ!?」



リズに唐突に指摘されルフレは
気の抜けた声を発した。




「ルフレさんもお兄ちゃんにああやってアプローチ掛ければいいのに……」



「あれ、アプローチなんですか?」



「そうだよ!だってスミアさんはお兄ちゃんが好きなんだもん!

それにスミアさんはちょっとずれてるから、あれがスミアさん流のアプローチなんだよ?」



「………なるほど。そうなら凄いですね」



感心しているルフレにむかってリズがぽそっとつぶやいた。



「………私はスミアさんがお義姉ちゃんになるよりルフレさんがお義姉ちゃんになる方がいいな」



それを聞いたルフレはびっくりしていた。



「り、リズさん…………


もうっ、スミアさんとも仲良くして下さいよ?




…….きっと、貴方のお義姉さんはスミアさんなんですから……」




「でも、ここから頑張れば……」




「あんな恥ずかしい姿を見られたのに普通に接するんですよ?


………そこまでくれば朴念仁の私にだって分かりますよ。



……脈なしって事くらい、ね。」



ぶーぶー言っているリズにルフレは優しく頭を撫でながら言った。



そして爽やかな笑みでクロムの元に行った。






「………ルフレさん…………」





リズはルフレの背中を見つめて一人呟いた。


















ルフレが戻るとよっしゃと言わんばかりにフラヴィアが肩を回しながら言った。



「さあ、気合いも入った事だし行くか。

久々の戦いに腕がなるよ」



その言葉にクロムはえ、と驚いた。



「フェリア王自ら来てくれるのか」



「ああ、あたしとあのぼんくらとね」



フラヴィアはふん、と鼻で笑い飛ばした。



「ぼんくらって………」



「バジーリオの事さ。
いないよりはマシだからね。」




じゃ、行くか、とフラヴィアの後をついていった。






****







「おお、あんたらか。
今伝令を飛ばそうと思ってたんだ。」


バジーリオの元に行くと、バジーリオがやって来て深刻そうな顔をしていた。


「何があった」




その面持ちにただ事では無い気がしてクロムも真剣な顔になった。



やがて、バジーリオはゆっくりと口を開いた。



「落ち着いて聞け。









────イーリス城が、陥落した。」




「!!?」




「ペレジアはエメリナを連れ去り自国へ撤退。

エメリナさんは公開処刑されるそうだ」




「そんな………あ」



リズが崩れ落ちた。



「リズさん、しっかりしてください」



「向こうはこっちの出方を伺っている。どうするかな…」


悩んでいると


「ペレジアに行く」



クロムが真っ直ぐな瞳でバジーリオを射抜いていた。



「おいおい、マジか?
そんなの…」



「姉さんを助ける為だ!」



「だからってなぁ!

こんな見え透いた罠に足突っ込む馬鹿がいるか!!」



「今お前の目の前に、ここにいる!」




それは自身たっぷりに言う事じゃ無いのですよ、王子。




「……罠でも構わん。

俺は、姉さんを助けに行く。」




こうなったクロムは何を言っても聞かないのは良く知ってる。


ルフレは観念したように深くため息をついた。




「……行きましょう。


策は、私が立てます。」




「だが、お前にそんな策は立てられるのかい?」


バジーリオがルフレに問いかけた。



「ご心配なさらずに。


私は、クロムさんの軍師ですから。」



ルフレは口の端をくいっとあげてみせた。


それを見たフラヴィアとバジーリオは盛大に笑った。




「いいタマだ、気に入ったよ!」


「よっしゃあ、行ってやろうじゃないか、ペレジア!


少数部隊で突破してエメリナ様を助けるか!」



こうして、一行はペレジアに向かう事にした。






****







「何とかここまで侵入できたが、兵が少ないな。
あえて俺達を誘い込む気なんだろうな……」


「そうですね、慎重に行きましょうか………」



と、辺りを見渡すと、遠くに幼い少女が走っているのが見えた。



「クロムさん、あれ………!」


「ん?」






「はぁっ、はぁっ……ここまで来たら大丈夫かなぁ…」


幼い容姿の少女が砂漠の向こうから走って来た。



そこへ




「こら、待てって。
勝手に行ったら危な…」

「きゃぁぁぁあああっ!!

や、やめて!もう来ないで!」


「……参ったなぁ、俺はそんなに悪人面かい?」


少女の後を追って来た男は頭を掻いた。



男は本当は彼女を助けようとしていたのだ。


しかし、その見た目が災いしてか、悪人に思われてしまっていたのだ。




「黙って見過ごすわけにはいかないな………おい貴様!」


少女を助けるべくクロムが後を追って来た男に言った。


「そんないたいけな少女を襲うと言うのか!
その子を離せ!」


「そうですよ!
その子がかわいそうですよこの変態!」


「待て待て待て待て。
俺はだな……」


言いかけたそのとき


「ついに見つけたぞ小娘…」

「!!!」

「ちっ、追いつかれたか…
おい、お前。
あいつらのとこに連れて行ってやるから離れるなよ。」

「え、ノノを助けてくれるの?」

「その為に来たのによ……」

「ありがとうおじさん!」

「グレゴさん、って呼べ」


ノノは喜んでグレゴの肩に登った。


「おいおい、そこにいたら戦えないだろ」


「大丈夫!
ノノがサポートしたげるから!」


そう言うと彼女は石を取り出した。


その石を彼女が掲げると、彼女はたちまち竜の姿になり、敵にブレスを吐いた。



「え!?何ですかあの子…!」


ルフレも初めて見たのか驚いていた。


「細かい話は後だ!いまはあの2人に加勢するぞ!」


クロム達は砂漠に足を取られながらも2人の元へ進み始めた。









****









「やっと片付けたか……」


クロムはグレゴの方を見た。



「お前達はどうしてあいつらに狙われてるんだ?」


「俺は傭兵なんだ。元の雇い主はさっきのあいつだ。

けど、こんな小さい子を寄ってたかって苛めるなんてかわいそうだろ?

だからって1人斬っちまったらこんな感じになったんだよ」

困ったもんだ、とグレゴは眉を顰めて言った。


「あんたらが雇ってくれたらいいんだが……」



「わかった、金は払おう。」



その言葉にノノの顔が暗くなった。



「また、ノノは売られちゃうの?」


「え、また?」


「うん。
これまでノノ、怖い顔の怖い人に何回も売られたの。

だから、また売られるのかなって……」


「そう言う意味じゃ無いさ。

俺達は仲間だ。

ノノは、俺達の仲間なんだ。」


「……!! うん!
ありがとう、クロムのおにいちゃん!」



「ははっ、年相応の可愛らしい所もあるんだな。」


「クロム様、彼女はマムクート。長寿の種族です。
おそらく、我々とは桁違いに年上でしょう。」

「ん?そうなのか?」

「うん!

ノノね、千年とちょっと前に生まれたんだ!」



「………………………………」





「ルフレ、これが俗に言う合法ロ「クロムさん、それ以上はダメです」









  
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