喧嘩の行方2




「我にとっては貴様も邪魔だ」
そう言うと愛用の双剣を手にとり、エスタークさんはドレアムさんに刃を向けました。
ドレアムさんは振り返りエスタークさんを鋭く睨みつけました。
ああ、二人の空気が悪すぎます。間違いなく間もなく戦闘開始です。なんてこんなこと言ってる場合じゃない!どうしよう止めなきゃ!でも止められるのはマスターしかいない。でもマスターはイセカイへ冒険に出かけています。
えっと、ルカさんは……

「そこをどけ、爆裂拳!」
「ふん、そんな技は効かぬ。輝く息!」

牧場の他の魔物達も、この二方の異変に気がついたようでした。それでもエスタークさんとドレアムさんは構わず続けます。
私はマスターの家に向かって駆け出しました。後ろで何かの壊れる大きな音がしましたが、振り向きたくありませんでした。



「ルカなら格闘場じゃない?1日カメハ王子と遊ぶんだーって言ってたわよ」

マスターのお母さんは何食わぬ顔でそう言いました。私は暫く言葉を発せませんでした。今から格闘場へ行って戻ってくる頃にはきっと…
私が血の気が引いた顔をしたのでしょうか。心配そうにお母さんは私の顔を眺めました。

「い、今ドレアムさんとエスタークさんが…」

私がそう説明しかけた時でした。

「いい加減にしなさい!」

聞き慣れた声で突然大きく怒鳴られたその台詞の後、牧場が静まりかえりました。
私とマスターのお母さんもその声に驚き、暫く固まっていました。慌てて家の外へ出ると、冒険に出かけたはずのマスターの姿が。
マスターの視線の先の魔王達は、あれほど元気だったのに時が止まったように目を見開いたまま動きませんでした。





「あたし本当に怒ってるんだからね!」
「…ああ」

その日の夕方、ひなたぼっこも終わりにしようとした時、マスターはドレアムさんにお説教(?)をしていました。
あの時たまたまマスターが戻ってきたのは、不思議な鍵の一つを家に忘れたからだとか。おかげで幸い柵が数本壊れるだけの被害でした。ちなみにマスターに事の事情を教えたのは私です。ドレアムさんには少し申し訳ないですが、マスターのためです。
ドレアムさんはあぐらをかいて罰が悪そうに遠くを見つめています。

「あれほど仲良くしなさいって言ってるのに、どうしてできないの?仲間でしょ?」
「……」
「明日から当分冒険には連れて行ってあげない。散々前から決めてたことなんだから、文句はないよね」
「……」

ドレアムさんの表情はいつも通りでした。それでも少し俯いたりしていたので、反省はしているんでしょうか。

「というよりこれは命令なんだから。分かった?」

マスターがドレアムさんの顔を覗き込みます。すると、ドレアムさんはゆっくりと口を開きました。私の見たことのないような照れくさそうな表情を浮かべて。

「……誰の命令も聞かぬつもりだったが、今回ばかりは聞いてやる」

その返答に満足したのか、マスターは笑顔になりました。
マスターにだけ見せる一面なんでしょうか。こんな顔のドレアムさんは見たことがなくて、嬉しいような何だか複雑な気持ちになりました。なんだかんだでドレアムさんもマスターを大切にしているんだなあ、なんて考えたら自然と口元が緩んでしまいました。



「キャロル、何にこにこしてんの?」
「わ…っマスター」
「キャロルもおいで。寒くなってくるから牧舎に帰るよ」
「はーい」

今日も平和な1日でした。





end.
‥‥‥‥‥‥‥‥
市川さんへ相互記念で捧げます!ドレアムくん・喧嘩・ほのぼのでリクエスト頂きました。

まさかのキャロル一人称!
ドレアムくんにはこれ以上ないくらいデレデレしてもらいましたので、書いてて楽しかったです!



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