ハロウィンの魔法
「…くだんねー」
オレンジと黒に色づいた商店街。人混みの殆どがドラキュラやら幽霊やらに仮装している街道で、ミナトは、一緒に来ているグループの中で、一際冷めた表情で闊歩していた。
上空には、両側の店の間を交互に行き来するように、ジャック・オ・ランタンが等間隔に吊されている。
「くだんねー」
ミナトは見上げ、愉快に笑う顔と目が合うと、再び同じ言葉を呟いた。
どうしてこうなったのか、正直なところミナトはあまり乗り気でなかった。
ところが、友人に誘われ、渋々商店街のイベントに一緒に来たのだった。
「おいてくよー」
先を歩く幽霊に扮した友人に急かされ、ミナトはわからないように小さく溜め息を吐いた。
できることなら、このままはぐれてほしい。
そうすれば、それを口実に帰ることができるからだ。
視界の先でドラキュラや天使とはしゃぐ幽霊を眺めながらそんな考えを巡らしていると、
「ほらぁ、おいていかれちゃうよ」
ポン、と両肩に手を置き、背後から覗き込むようにして少女が話し掛けてきた。
真っ黒なワンピースの上から、夜色のマントを羽織っている。この少女は魔女の仮装をしていた。
「…っわ、カルアか、吃驚した。脅かすなよ」
思わず強い口調になり、すぐに後悔するが少女は気にする様子もなく無邪気に舌を出した。
「ごめんね。…そう、ほら見て魔女だよ魔法使えるんだよ、すごいでしょう?」
「そーですか」
反省の気持ちが微塵も感じられない無邪気な言葉を受け流し、ミナトは淡々と応答だけする。
「むー…。でもせっかく来たんだし、楽しまないと損だよ」
言いながら、商店街の袋をガサガサと探る。それは、今回のイベントのために配られた袋で、中には各店で貰えるお菓子やらが入っていた。
「ほら、トリック・オア・トリート」
チョコバーをミナトの鼻先でぶんぶんと振る。ミナトは鬱陶しそうに手で払いのけると顔をしかめた。
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