Chapter 5
「……ッ…」
苦しそうな呻き声。
辺りに広がっている静寂にすら負けてしまいそうなそれを、蒐は過敏に聞き取った。
閉じていた瞳を虚ろに開くと、煩わしさを舌打ちで表し、部屋の隅に横たわる少女のもとまでのそのそと歩いていく。
二人は、今はもう使われていない、廃屋同然の小屋にいた。
三日前、高熱の莎夜をここに運び込み、今に至る。
あの日から、まだ一度も意識を取り戻してはいない莎夜は、時折、先程のような呻き声を漏らす。
その度に蒐は、何故だか莎夜の様子を確認してしまう。
もう何十回目となるその行為を、蒐はまた繰り返すように少女の隣にしゃがみ込んだ。
額に手をあてる。
これも、もう何回とやってきたもの。
手のひらが冷たいせいか、莎夜の表情が和らぐ。
しかし、額の熱には相変わらず変化はなかった。
「…チッ」
不愉快そうに、手を乱暴にはらうと、座っていた位置には戻らず、戸口に向かう。
ボロボロのノブを回すその瞳は金色がかっていた。
酷い、喉の、渇き。
もう何年も感じていなかったほどの激しい渇きだったが、ここ数日で失った血の量を考えれば、それほど不思議では無かった。
むしろ、今まで平然といられたのがおかしいくらいだった。
「…あ…」
これまでとはどこか違う声に、蒐は戸を開きかけた手を止める。
「…あか、ね…?」
うわごとのように自分の名を呼ぶ少女に、静かに近寄る。
フラフラと、無理やり体を起こした莎夜が見上げると、それを無表情に見下ろしていた蒐と視線が合った。
「…血…?」
その一言から莎夜の言いたいことを蒐は大体把握した。
つまりは、血が欲しいなら莎夜が自らくれてやるという事。
だが蒐は厳しい表情を作ると、
「テメェのは頼まれたって飲まねェよ」
冷たく言い放った。
拒否されることを予め予想していたのか、莎夜の表情には変化は見られなかったが、
「…そう」
と、視線を逸らすように目を伏せた。
そしてまたフラフラとよろけながら堅い地面に横になった。
両脚をお腹の前で曲げ、それを両腕に包み込む。
そこに顔を埋めるようにすれば、莎夜はすぐにでも寝息をたて始めた。
「…」
その様子を見てから、フン、と鼻を鳴らすと、蒐は再び戸を開け、小屋を出て行った。
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