ードッ

鈍い音がして、

「う…」

蒐が呻く。

莎夜を突き飛ばし、身代わりとなった蒐の片脚にはピックが深々と突き刺さっていった。

「これで邪魔は無くなりますね。」

耳まで裂けた口元に笑みが零れる。

「どうだろうね」

地面に崩れる蒐を眺めながらの、莎夜の冷ややかな返事。

「ほう…」

狐は笑みを、何か新しい悪戯を思い付いたような、意地悪げなものに変える。

しばらく莎夜を凝視すると、

「ふん、そうかお前…動けないんだな」

あっさりと、まるで他愛ない会話を始めるように、言葉が発せられた。

蒐は、その場から一歩も動かず冷静にいる莎夜に視線を投げやる。

「…さぁ?」

それを避けるようにして、莎夜は答えた。

「誤魔化しても、"読める"モノには隠せませんけどね」

蒐を見やり、葉狐は言葉を続ける。

「お前が散々罵倒してた、この女が何故動けないのか教えてやろうか?それは吸血鬼、お前に…ガァッ!」

湿った叫びに、血と思しき液体が鋭い歯の隙間から噴き出す。

眼は片方ずつあらぬ方向を見、ほとんど白目を見せていた。

首には、白く、細く、長い指が第二関節あたりまで食い込んでいた。

それは莎夜のだった。

「…お喋りな人は嫌われるのよ」

「ひ…は…」

未だにバタバタもがいている葉狐の耳元に口を寄せると、

「心を覗き見する、悪趣味な人は特に…ね」

低く、窘めるように莎夜が囁くと、ソレは、糸の切れた人形のように急に動かなくなった。

そして、二人の目の前で体が砂のように細かくなり、消えた。

「お疲れ様」

何事もなかったかのように蒐に近付く。

「読心術は…手こずると思ったけど、」

莎夜が、腿に刺さったピックを抜こうとする。その手を、蒐が引っ叩いた。

「…」

きょとんと見つめる莎夜を、険しい目つきで睨み返しながらそれを引き抜くと、

「オイ、ふざけてンじゃねェぞ…!」

切っ先を莎夜の喉元に押し付けた。

「自分から死のうとしてる奴を助ける余裕なンざねェンだよ」

息を荒げて、蒐は更に顔を近付ける。

「死にたきゃ、勝手にしろ。
でも俺を巻き添えにすンじゃねェ」

「…」

莎夜は、数センチ前にある双眸を見据えながら、

「そうだね。…ごめんね?」

優しく笑い、ピックの先を掴むと、それを喉元から離す。

「…ッ!」

珍しく素直な莎夜に、蒐は戸惑いともつかない苛立ちを覚えるが、その感情は言葉には繋がらなかった。

「…でも、体が動かないのは、本当。」

かろうじて聞き取れるような、か細い声。

蒐がその呟きに莎夜の顔を見ると、いつもみたく自嘲気味に微笑んでいたが、どこか弱々しく、消え入りそうだった。

そして、ふと、ピックを掴む莎夜の手が、力が抜けたように地面に落ちる。

それが合図だったかのように、莎夜の体は前のめりに揺らいだ。

「─なッ!?」

ピックを落とし、無抵抗にも倒れてくる体を蒐は受け止める。

肌が触れ合う所から、莎夜の、異常すぎる位に高い体温が伝わってきた。
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