Prologue
満月の夜、木の葉がそよ風に揺れていた。

その木々の一つ、少し細めの枝に、一人少女が腰掛けていた。

闇よりも深い、艶やかな黒髪が流れる。それとは対照的な雪のような肌を、黒の衣装が一層際立たせていた。

月を映すその灰と藍の双眸は、どこか憂い気である。

細長い指が首筋に伸びる。そこに刻まれた逆十字の刻印の上を、人差し指が滑る。

ふと、その指が止まり、腕がゆっくりと下ろされた。

太い幹に体を預けると、少女は静寂に包容されながら静かに目を閉じた。

「今日は、穏やかな夜になるといいな」

高くも低くもない、落ち着いた声は、誰かに話しかけるようだった。
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